100円おせちの実力やいかに|パリッコの「つつまし酒」#92
「はあ、今週も疲れたなあ…」。そんなとき、ちょっとだけ気分が上がる美味しいお酒とつまみについてのnote、読んでみませんか。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、それが「つつまし酒」。
そろそろ飲みたくなる、毎週金曜日だいたい17時ごろ、更新です。
引き続きつつましく
新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!
はい。酒飲み的には「激動」だったんだか「激静」だったんだか、何がなんだかわからない2020年が終わり、ついに新しい年が始まりました。さぁ、気分を変えて今年こそは飲んで歌ってぱーっと騒ごう! といきたいところですが、新型コロナウイルス関連の状況は想像を超えて悪化の一途。引き続き、いや、昨年にも増して、今までとは違ったお酒の楽しみかたや家飲みの新たなる可能性を、つつましくも激しく探究していく1年になりそうですね。
ところでお正月休み、みなさんはどのように過ごされていましたか? きっと昨年までとは違う年末年始になったという方、多いですよね。我が家も、基本的には両家の実家に帰って慌ただしく過ぎていくのが通例だった昨年までとは変わり、もちろん帰省はせず、混雑が予想される初詣にも行かず、ひたすら家でだらだらしていました。こんなにぼーっと過ごした三が日はいつ以来だろうか。
加えて、昨年までと変わったことがもうひとつあります。それが「おせち」事情。
今年のおせち予算はカニに全振り
かつては、年末が近づくとデパートやらスーパーへ行ってパンフレットをかき集め、それらを比較検討してその年のおせちを選ぶことが楽しみでした。しかも、早いうちに予約しないと人気のおせちはどんどんなくなってしまうので、ちょっと慌て気味に。で、それを実家に持ってったりして、ちびちびとつまみながら過ごす新年こそが至福と信じて疑っていなかった。
ところが今年はそういう予定もないし、そもそもなんというか、よ〜し、おせちを選ぶぞ〜! という気分でもなかったんですよね。あまりにも年末感がなさすぎたからかな?
そこで思いついた。パンフレットに載っているようなおせちって手頃なものでも2〜3万円はするじゃないですか。我が家でもたいていそのくらいのものを買っていた。じゃあ今年は思い切ってその予算、「カニ」に全振りしてみるのはどうだろう? と。カニ好きの妻もその方針に大いに乗ってくれ、思い切って注文したのが、1万数千円のタラバガニ。こんな機会でもないと絶っっっ対に買えないやつ。
どーん!
これがもうね、幸せすぎた! ぶっとい足や爪に味の濃い身肉がパンッパンに詰まってて、それこそ関節のところをほじくるだけでもブリンブリンとお茶碗一杯分くらいの身が集まる。それを口いっぱいにほおばり、よ〜くかみしめたらそこに日本酒を流しこむという、罪深き行為!
娘はまだカニには興味を示さず、バターを塗ったパンなどを喜んで食べているので、妻とふたり、もう食べられない! ってくらいのカニづくしを2日連続で味わうという、なんとも贅沢なお正月を過ごすことができたのでした。
興奮しすぎてあまり写真を撮っていなかったんですが、
これもんの身をたらふく味わえる
おせちにかけた予算は1000円
さてさて、ここからやっと本題。
カニとともに始まった2021年なのですが、とはいえおせち気分も味わいたい。そこで思い出したのが「100円おせち」の存在。昨年「ローソンストア100」でその存在に気づいたんですが、年末が近づくと専用の棚に多種多様な適量サイズ小分けパックのおせち料理がずらりと並びはじめるんですよね。で、これが、そこまで気合を入れるほどではないけどおせち気分を味わいたい人にぴったりだと、近年流行ってるんだそうです。
よし、今年は予算をカニに使ったぶん、おせちのほうはこっちでいってみよう!
買ってきました10種類
まだまだいっぱい種類はあったんですが、僕がチョイスしたラインナップは「鮭昆布巻」「伊達巻」「黒豆」「あさり」「田作り」「いか黄金」「炙り焼き合鴨スライス」「お煮しめ」「豚の旨煮」「紅白かまぼこ」。冷蔵庫から取り出す時に間違えちゃったっぽくて、かまぼこだけ100ローののやつじゃないっぽいんですが、とにかくぜ〜んぶ100円!
これをですね、年末に買ってつまみにし、洗ってとっておいたオードブル空き容器に、ひとつずつ詰めていきます。
すると……わ! 想像の10倍、ちゃんとおせち! すごい! 昨今のコンビニさんの企業努力には本当に驚くばかりですね〜。
こんなにもおせちとは!
そりゃあ主役級の豪華なものは入ってないけど、鴨肉は上品な和風の味つけでしっとり。いか黄金の宝物感も素晴らしい。お煮しめなんか、この器にはとても収まりきらないくらいたっぷり入ってて、具沢山で味しみしみ。お正月以外には滅多に食べない、ニシンの昆布巻きやら、田作りやら、黒豆やらのしみじみとした美味しさもいいですね〜。当たり前だけど、どれもしっかりと作ってあります。
誰が見たってお正月の風景
このおせちが予算たった1000円で買えてしまって、テーブルには1日で食べきれないほどのタラバガニ。合わせても2万円にいかない。なんて贅沢なお正月なんでしょうか。
そもそもおせちのなかをよく見ると、エビ、イクラ、肉系なんかの主役級のわきに、正直入っていてもものすごくテンションが上がるわけではない、栗きんとんやら、なますやら、煮ゴボウなんかがけっこうな容積を占めてるじゃないですか(個人の見解です)。それを考えると、今年の一点豪華+お手軽お手頃おせち大作戦はかなり成功だったな〜と。
はぁ、いい正月休みだった。
そんなこんなで、あらためまして、ことしも「つつまし酒」を何卒よろしくお願いします。
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco