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【57位】レディオヘッドの1曲―考えすぎが芸になる、やり込みすぎが「銀河を渡る」長き旅へ

「パラノイド・アンドロイド」レディオヘッド(1997年5月/Parlophone/英)

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Genre: Alternative Rock, Art Rock, Neo-Progressive
Paranoid Android - Radiohead (May, 97) Parlophone, UK
(Radiohead) Produced by Nigel Godrich and Radiohead
(RS 257 / NME 45) 244 + 456 = 700
※58位から56位までの3曲が同スコア

中盤にまたレディオヘッドだ。ある種の怪奇現象というか――厳正なる集計の結果、どうもレディオヘッドは、ここらあたりに出没するようなのだ(詳しくは『教養としてのロック名盤ベスト100』をご覧いただきたい)。ロックの歴史全体を俯瞰してランキングしたときの「真ん中あたり」に……たぶん、集合無意識の作用かなにかで。

この曲は、彼らの第3作にして不動の評価を獲得した力作アルバム『OKコンピューター』(前述書では51位)に収録。同作の先行シングルとして発売された。しかし「6分半近くもある」上に、新型プログレッシヴ・ロック的な四部構成の凝った作りだった。

第一部は「ブラジル風」と呼ばれることがある。ロック・ギターが鳴り響く二部、テンポが落ちてトリップホップ的になる三部、二部のリプリーズとなる四部――という流れだ。全パートを通じて、しっかりと「打っている」ブレイクビーツ調のリズムの強さも印象に残る、四部の通作歌曲形式となっている。こうしたアイデアは、ビートルズの「ハピネス・イズ・ウォームガン」から思いついたそうだ。

歌詞は資本主義社会への異議申し立て、狂気や暴力の蔓延への違和感などを「ユーモアをまじえて」表している。奇妙なタイトルはダグラス・アダムスの名作スラプスティックSF小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』に登場のキャラクター、マーヴィン・ザ・パラノイド・アンドロイドからとったものだ。人間の5万倍の知性と惑星サイズの頭脳を持つ(が、滅多にそれを使う機会がない)彼は、深刻なうつ病と退屈に苦しんでいる。マンガ的なこの「苦悩と孤独」に、自らのそれをなぞらえてみるヨークの(自虐的な)知性が結実した1曲だった、ということだ。こうしたところから、当曲とクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」やピクシーズ・ナンバーとの共通項について指摘する声もある。しかしそれらよりも、僕は日本のフィッシュマンズの「ロング・シーズン」に似ていると思う(こっちは35分超で五部構成だったが)。無意識下での情緒的なエネルギーの流れをなによりも重視しているかのような姿勢に、近いものを感じる。

という曲なので、シングルはアメリカで不発(ビルボードHOT100にランクインせず)。しかし全英では3位となった。つまり「これほど攻めた」曲が呼び水となって、アルバムの成功(バンド初の全英チャート初登場1位を獲得)を引き寄せたわけだ。これが当時の彼らの勢いであり、クリエイティヴィリティの切れっぷりを物語っていた。

(次回は56位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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