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一人暮らしのほうが自宅での在宅医療はうまくいく!?―『在宅医療の真実』小豆畑丈夫著

こんにちは。光文社新書編集部の三宅です。

この記事では、刊行されたばかりの『在宅医療の真実』から、「一人暮らし高齢者の在宅医療」について解説した部分を抜粋します。果たしてそんなことができるのでしょうか? 著者の小豆畑先生は、一人暮らしかつ認知症でも在宅医療は可能だと説きます。

前回の記事です。目次と巻頭部分が読めます。

患者さんの一人暮らしをフォローするサービス

 日本の高齢化を考えるとき、必ずついてまわる問題が「高齢者の一人暮らし」です。未婚や離婚、死別、子供の独立など、一人暮らしの理由はさまざまですが、その数は着実に増えています。2040年には、一人暮らし世帯が全体の4割に達するともいわれています。

 65歳以上の高齢者の一人暮らしも年々増えています。2015年の時点で65歳以上の男性の1割強(約192万人)、女性の2割強(約400万人)が一人暮らしです[図2‐1]。女性は男性に比べて平均寿命が長い分、一人暮らしになる確率も高くなります。

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 そのような方たちの在宅医療をどうするか、患者さん本人だけでなくご家族も心配される問題です。結論からいえば、一人暮らしでも在宅医療は可能です。現在、自宅で在宅医療を受けている患者さんのなかには一人暮らしの方がたくさんいます。正直なところ、私には「大丈夫かな」と心配になる方もいるのですが、患者さんの状態を間近に見ている訪問看護師に聞くと、「一人暮らしだからといって在宅医療をあきらめる必要はまったくない」と自信を持っていい切ります。

 在宅医のなかには、「むしろ一人暮らしのほうが自宅での在宅医療はうまくいく」という先生もいるほどです。たしかに、ご家族と同居されていると、サービスの提供側はご家族の負担にも配慮しなければなりません。また、ご家族の意見に振り回されて右往左往しやすいという側面もあります。しかし、患者さんが一人暮らしで、本人が「自宅で過ごしたい」という強い意思をお持ちであれば、そのほうがうまくいくケースも多いようです。「最後まで自宅で」という希望も一人暮らしのほうが叶えやすいといいます。

 私の病院で在宅医療サービスを提供していた患者さんのなかに、90歳代の女性の患者さんがいました。先日お亡くなりになったのですが、その方は脳出血の後遺症があり、ベッドの上でほぼ寝たきりの生活をされていました。それでも最後まで一人暮らしを続けていました。早くにご主人を亡くされ、お子さんはいらっしゃったものの、子供たちには迷惑をかけたくないとの理由で一人暮らしを強く希望されていたのです。

 在宅医療に入ったのは8年ほど前からでした。以来、少しずつ身体機能が低下していき、最後はほぼ寝たきりになりました。それでも、健康管理や薬の管理は「訪問看護」、食事は「訪問介護」、入浴は「デイサービス」と3つのメニューを使い分けながら、1日に3、4回何かしらのサービスが入る体制を整えることで、最後まで自宅での生活をまっとうされました。たとえ一人暮らしであっても、いくつかの在宅医療サービスを組み合わせれば自宅での生活は十分続けられるのです。

 介護保険サービスのなかには、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」というものがあります。これは「定期巡回サービス」と「随時対応・随時訪問サービス」を組み合わせたものです。

 定期巡回サービスとは、1日に複数回(3~6回程度)訪問し、オムツ交換やトイレの介助、入浴や食事のサポート、寝返りの介助、投薬の確認など、必要なサービスを短時間で行うものです。随時対応・随時訪問サービスとは、緊急コールを受けてオペレーター(看護師や介護福祉士など)が対応したり、実際にスタッフが訪問したりするもので、2012年から始まっています。定期巡回・随時対応型訪問”介護看護”という名称のとおり、介護スタッフだけでなく看護師とも連携し、介護と看護の両面からサポートするところが特徴です。

 そのほか、「日中の明るいうちはいいけれど夜間が心配」という方には、「夜間対応型訪問介護」という介護保険サービスがあります。これも、定期巡回・随時対応型訪問介護看護と同じように、夜間帯に定期的に巡回し、安否確認やトイレの介助などを行う「定期巡回サービス」と、ベッドから落ちた、急に具合が悪くなったなどの緊急時にコールを受けて、オペレーター(看護師や介護福祉士、ケアマネジャーなど)がアドバイスを行ったり介護スタッフが訪問したりする「随時対応サービス」の組み合わせです。こちらは2006年から始まっています。

 定期巡回・随時対応型訪問介護看護との違いは、サービスを受けられるのが18時から翌朝8時という夜間帯に限られていること、夜間対応型訪問”介護“なので介護サービスのみで医療的なケアは受けられないこと、そして、定期巡回・随時対応型訪問介護看護が月額の定額料金であるのに対し、夜間対応型訪問介護は訪問回数に応じて費用が加算されることです。

 定期巡回・随時対応型訪問介護看護と夜間対応型訪問介護は、サービスの内容が重なる部分があるので併用はできません。また、訪問介護も併用不可です。

 なお、定期巡回・随時対応型訪問介護看護も夜間対応型訪問介護も、どの事業所でも提供している一般的なサービスではありません。2017年10月時点で、「定期――」は全国で900カ所弱、「夜間――」は200カ所強です。サービスを提供してくれる事業所が自宅近くに見つかるかという問題はありますが、こうしたサービスを利用できれば一人暮らしの不安もやわらぐと思います。

認知症に対応する小規模多機能型居宅介護

 患者さんが認知症の場合はどうでしょうか。

 認知症の方が一人暮らしをして在宅医療を受けることは可能なのでしょうか。

 認知症の場合は、さすがに病院や施設に入ったほうがよいのでは? そう思われるかもしれません。しかし、これも人によりけりです。徘徊が多かったりご家族が認知症の症状を受け止めきれなかったりする場合は、たしかに施設への入所をお勧めすることが多くなります。ただ、認知症の方は住み慣れた自宅のほうが、認知機能が保たれやすいという事実があります。

 そのため、「自宅がいい、病院にも施設にも入りたくない」という本人の意思が明確であれば、重度の認知症であっても、本人の意思を尊重して自宅での生活を続けられるよう、在宅医療サービスを整えることを私たちは考えます。

 ある男性の患者さんは重度の認知症で、ご自分で食事の用意をすることも、朝一人で起きることもできない状態でした。在宅医療を始めた当初は、奥さまとの二人暮らしでした。しかし、奥さまが介護老人保健施設(老健)に入所することになると、「自分は施設に入りたくないし入院もしたくない。ずっと家にいたい」とはっきりおっしゃいました。そこで、そのまま自宅で一人暮らしを続けることになりました。

 その際に利用したのが「小規模多機能型居宅介護」というサービスです。一つの事業所が「通い(デイサービス)」と「訪問(訪問介護)」と「泊まり(ショートステイ)」、3つのサービスを提供するもので、どのサービスも顔なじみのスタッフが対応してくれるという良さがあります。私の法人には病院のすぐ隣に「憩(いこい)の杜(もり)」という小規模多機能ホームと認知症デイサービス、グループホームが一緒になった複合施設があります。通い(デイサービス)と泊まり(ショートステイ)のときはこの施設を利用しました。利用しない日は、訪問介護員が1日に3、4回訪問しての見守りです。これにより、その患者さんは今も自宅での生活を続けています。老健に入所されている奥さまに会うため、自宅から一人で歩いて来られることもあります。

 認知症の人が一人で外に出たら道に迷ってしまうのではないか、徘徊につながるのではないかと思う方がいらっしゃるかもしれませんが、認知症は全員が全員、徘徊が問題になるわけではありません。むしろ、徘徊が問題になる方は少ないように感じています。(了)

※著者の小豆畑丈夫先生のnoteです。



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