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【第4回】民主主義は危機に瀕しているのか?

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?
★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

民主主義の本質と矛盾

「独裁政治では、一人が決める。貴族政治では、数名が決める。民主政治では、誰も決められない!」というジョークがある。ノーベル賞経済学者ケネス・アローは、「多数決の原理」に大きな方法論的な欠陥があることを「不可能性定理」によって示した。そもそも「完全に民主的な選挙方式」は、論理的に成立しないのである(高橋昌一郎『理性の限界』講談社現代新書を参照)。

日本の選挙制度においても、地域による票の格差や、比例代表制で得票数が増えたのに議席数が減るといった「非合理性」を幾らでも挙げられる。しかし、だからといって、過去の遺物である「独裁政治」や「貴族政治」に逆戻りするわけにはいかない。なぜなら「民主政治」こそが、人類の到達した最善の政治形態だからである。それでは、現代における「民主主義」とは何か?

本書の著者・宇野重規氏は、1967年生まれ。東京大学法学部卒業後、同大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。千葉大学法経学部助教授を経て、現在は東京大学社会科学研究所教授。専門は、政治思想史・政治哲学。著書に『政治哲学へ』(東京大学出版会)や『トクヴィル』(講談社学術文庫)などがある。

本書は「民主主義」を表現する3つのジレンマに対して、読者が自分自身で考えて判断できるように、歴史的背景と哲学的考察が綿密に議論されている。次の3つの論点について、読者はどちらの主張に賛同されるだろうか?

「A1=民主主義とは多数決だ。多数が賛成した以上、反対者も従うべきだ」×「A2=民主主義の下では全員が平等だ。多数決に抑圧されないように、少数意見を尊重すべきだ」(本書の解=A2を満たす場合に限ってA1は正しい)

「B1=公正な選挙が行われるのが民主主義国家だ。選挙で代表者を選ぶのが民主主義だ」×「B2=民主主義とは、社会の課題を国民が解決することだ。選挙だけが民主主義ではない」(本書の解=B1とB2を相互補完的に捉える)

「C1=民主主義とは国の制度だ。国民が主権者であり、国民の意思を政治に適切に反映させる具体的な仕組みが民主主義だ」×「C2=民主主義とは理念だ。平等な人々が共に生きる社会を創るため、終わることのない過程が民主主義だ」(本書の解=C1とC2を不断に結びつけていくことが必要)

世界の主要国で、気に入らない閣僚を次々と罷免するトランプ大統領、言論を弾圧する習近平国家主席、メディアを威圧するプーチン大統領ら、「独裁的指導者」が増えている。フィリピン、トルコ、ベラルーシ、北朝鮮でも……。

本書で最も驚かされたのは、「現在の世の中で、民主主義の名の下に行われていることすべてを擁護する気はありません。その美名(といえるか怪しいですが)において、いかに多くの欺瞞、不正、隠蔽が横行しているか」という痛烈な批判である。この言葉は、日本学術会議の会員に推薦されながら、内閣から理不尽に任命を拒否された宇野氏の発言だからこそ、重みが違う!


本書のハイライト

本書を書き上げて思うのは、むしろ民主主義の曖昧さ、そして実現の困難さです。民主主義には、二五〇〇年以上もの歴史がありますが、そのほとんどの期間において、この言葉は否定的に語られてきたのです。出てくるのはむしろ、「民主主義が正しいとは限らない」、「民主主義など不可能ではないか」、「民主主義はもう終わりだ」といった評価ばかりです。……それでも、今後いかなる紆余曲折があるにせよ、いくつもの苦境を乗り越えて、民主主義は少しずつ前に進んでいく、そう信じて本書を終えることにします。(pp. 269-271)


第3回はこちら↓

著者プロフィール

高橋昌一郎_近影

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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