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【19位】サム・クックの1曲―苦難を踏み超えて、決して歩みを止めない人のために

「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」サム・クック(1964年12月/RCA Victor/米)

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Genre: Soul, R&B
A Change Is Gonna Come - Sam Cooke (Dec. 64) RCA Victor, US
(Sam Cooke) Produced by Hugo & Luigi
(RS 12 / NME 129) 489 + 372 = 861

米60年代における公民権運動のアンセム、または応援歌となった曲を、当ランキングではすでにいくつか紹介している。しかし「ただ1曲のみを選べ」と言われたときに、当曲を指さす人は、少なくないはずだ。傑出したシンガーにしてソングライター、そして「白人からも愛される」スターだったサム・クックの手による、歴史的なナンバーだ。

タイトルがそのまま、キー・フレーズとなっている。「あれから長い長い時が流れた/でも僕は『変化は起こる』って知っている。そう、これから」というラインだ。言い換えるとつまり「現状はひどいものだ」との大前提がある。「黒人は、黒人だというだけで差別される」という前提だ。またそれを「当たり前のこと」として内包している社会の、芯まで腐り切った悪の様相が、きわめてシンプルに描写される。社会的弱者の側の視点から。

これらすべてを、壮大なストリングス・アレンジに対して一歩も引かない、クックの腰の座った名唱が解き放っていく。「未来」へと、放つのだ。意志を持って進む者だけが切り開くことができる「よりよき社会」へと、背中を押してくれる――そんなナンバーだ。

当曲の誕生には、まず「風に吹かれて」の邦題で知られるボブ・ディラン・ナンバーの影響があった。あらゆるプロテスターのためのともしびのような同曲は、公民権運動の参加者にも愛された。そこでクックは、自ら同種の歌を書くことを考えた。さらには自身が受けた、あからさまな人種差別体験があった。すでにポップ・スターでもあった彼が、ホテルに宿泊を断られ、あげくに逮捕されてしまうという事件が、63年のルイジアナ州はシュリーヴポートで起きた。これがクックを突き動かした。当曲はまず、64年2月発表のアルバム『エイント・ザット・グッド・ニュース』に収録された。そして12月22日に「シェイク」のB面としてシングル発売された。クックが急死したおよそ10日後だった。

64年12月11日、ロサンゼルスのサウスセントラル地区にあるモーテルにて、クックは管理人の女性に射殺される。正当防衛とされたガンショットは、彼の胸を撃ち抜いていた。事件の経緯には不審な点が多く、謀殺だという説も根強くある。彼の悲運に、多くの人は涙した。シングルはHOT100では31位、R&Bシングルズ・チャートでは9位と、そのほかのクック・ナンバーほどは伸びなかった。しかし当曲は、いつまでもずっと、時を超え、アメリカ黒人のみならず「公正を求めて行動する」地上すべての人々の、まさにテーマ・ソングとなっている。「未来の勝利」を疑わない人々の。

(次回は18位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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