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教養としてのロック名曲ベスト100【第14回】87位は…クラシックな名曲! by 川崎大助

「レイヴ・オン」バディ・ホリー(1958年4月/Coral/米)

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Genre: Rock 'n' Roll
Rave On - Buddy Holly (Apr. 58) Coral, US
(West-Tilghman-Petty) Produced by Milton DeLugg
(RS 155 / NME 332) 346 + 169 = 515 

ロックンロールの発見にもほど近い時代に世を席巻した、クラシックな名曲がこれだ。とにかく明るく楽しく、聴けばもちろん、どこかから流れてくるだけでも心が高揚する――いや「レイヴ・オン」するナンバーだ。彼が急逝する前年、58年に発表された。

この歌は、恋する者の心のなかの振幅を、コロコロと転がり弾む調子のいい言葉群で一気に描破する。「きみのちょっとしたひとことやしぐさに/いっしょにいたいなって」主人公は思う。それで「レイヴ・オン」になる。「へんてこな気持ち」になる……。

ここでの「レイヴ・オン」は、「ぐっと盛り上がる」というような意味だ。もちろんこれは、90年前後のマッドチェスター・ブームの時代に、ハッピー・マンデーズから電気グルーヴまでもがステージ上で「レイヴ・オン!」とシャウトしていたものと、意味的にまったく同じだ。この言いかたを、この曲でバディ・ホリーが最初に世に広めた(が、オリジンは56年のカール・パーキンス「ディキシー・フライド」とされている)。

最初期のロック偉人のなかでも、バディ・ホリーは格別な位置にいる。ギター2本にベース、ドラムスというロック・バンドの雛形も、ストラトキャスターを使うのも、全部彼が最初に形にした。ビートルズという名前が彼のバンド、クリケッツにちなんでいるのは有名な話だが、とくにレノンとマッカートニーがホリーの大ファンだった。その痕跡は、ポールが妻リンダと作ったアルバム『ラム』(71年)に収録の「イート・アット・ホーム(邦題・出ておいでよ、お嬢さん)」なんかでも簡単に確認できる。この曲は「レイヴ・オン」にもかなり近い。ポールの「ヒーカップ唱法」で一聴瞭然だ。

ヒーカップとは、ヒルビリー音楽で多用されていた歌唱法の一種で、言葉の母音を伸ばし、そこにスキャット調のアドリブを加えるものだ。音程を上げ下げ、声を裏返したり、しゃっくりみたいにやったりもする。そして派手派手なヒーカップといえば、それはもうバディ・ホリーの代名詞だ。たとえばこの「レイヴ・オン」では「You」が、「ゆーうっ・ふっふふぅ~」となる(マッカートニーはこれを模倣して、自分のものにした)。

この曲は「ザットル・ビー・ザ・デイ」や「ペギー・スー」ほどには大ヒットしなかった。しかしホリー印のきらめくロックンロールの美点が凝縮された決定版的ナンバーとして、目がくらむほど多くの後進たちから愛された。ブルース・スプリングスティーンからジュリアン・カサブランカスまで、みんなステージで演奏した。

(次回は86位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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