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我が家のチャーハン革命|パリッコの「つつまし酒」#124

チャーハンは酒のつまみになる

 前回がカレーの話でしたが、今回もまた「米もの」で飲む話。テーマはずばり、チャーハンです。
 昔から酒のつまみになりにくいと言われてきた不遇者、カレーライスとは違い、チャーハンには酒のつまみとしての信頼と実績があります。あの東海林さだお先生がチャーハンにウイスキーを、久住昌之先生がチャーハンに焼酎ロックを合わせるのが好きだということは、はっきりと著書のなかで語られています。油っこくて塩気が強くて、全体に均一に味がいきわたっているからちみちみとつまめる。チャーハンって、実はすごく酒のつまみに向く料理なんですよね。
 それとは別に、僕の家族はチャーハンが大好き。妻も娘も、日常的な食事としてよくチャーハンを食べています。で、それを僕が作ることも多い。その他の家事をやらせるとポンコツなぶん、せめて作り慣れてるチャーハンくらいは自分が、というわけでして。
 これまでのチャーハン人生でなんとなく確立した、僕なりの作りかたはこんな感じです。
 まず、フライパンに油を熱し、強火で好きな具材と、炊いたごはんを炒める。そしたらいったん片側に寄せ、空いた面で追加のごま油を熱し、そこに生卵を落とす。固まる前に一気に卵をかき混ぜ、それを全体によく混ぜる。そこに信頼している中華調味料「創味シャンタン」とコショウ、最後に香りづけで、鍋肌に醤油少々をたらして全体をなじませれば完成。最初から最後まで強火なので時間勝負。作ってる最中は常に大慌てのてんやわんや状態であります。

娘がもたらした革命

 ところが我が家にチャーハン革命が起こったのはつい先日のこと。その革命をもたらしたのは、なんと4歳の娘。
 娘が食べたいと言うので、チャーハンを作ろうとしていた時のことでした。最近なんでも大人のまねをしたがる彼女が、今日は自分の指示に従ってチャーハンを作ってくれ、と言いだしたんですね。まぁ、具材と米をフライパンで炒めれば最終的にはどうやったって形になるだろう。はいはい、わかりました。と、言うことをきいてやることにしました。
「まずはごはんをやいて〜」「たまごをおさらにわってよくまぜて〜」「そしたらたまごをごはんにかけて〜」「またよくまぜて〜」……娘が近くにいるので油はねがないよう、ずっと弱火のまま、娘の思いつきの指示に従い、チャーハンらしきものを作ってゆく僕。
 すると、驚くべきことが起きました。なんとできあがったチャーハン、お米一粒一粒が卵をまとい、ふわふわのパラパラで、いつも僕が作ってるのよりだんぜん美味しそう! 家でチャーハンを作るときの裏技で「あらかじめごはんと卵を混ぜておく」なんてのを聞いたことがあるけれど、それの亜種ということになるのかな。
 とにかくこれは、我が家のチャーハン革命だ!
 さらに数日後、僕も記事を書かせてもらっているデイリーポータルZというサイトで、ライターの橘佑佳さんが書かれたチャーハンの作り方知ってる10種類全部試すなんて記事を読んじゃったからもう大変。
 それによると、橘さんがいちばん効果的だと感じたのが「ごはんにあらかじめ、1人前につき大さじ1の油を混ぜておく」という方法だそう。それを合わせ技で取り入れてみたところ、確かにパラパラかつしっとりなチャーハンになりました。
 という経緯でたどり着いた、家の環境でチャーハンを作るにあたり、「当面のところはこれがベスト」と思える僕なりのレシピがこちら。

1)炊いた米にあらかじめ油を混ぜておく

2)フライパンに油を引いて火が通るまで具材を炒め、弱火にして米を加えてほぐし、全体をよく混ぜる
※ここまでに使う油の総量が大さじ1のイメージ。まぁ目分量

3)米を広げ、溶き卵を全体に回しかける

4)へらなどでゆっくり全体を返しながらなじませてゆく(あまりガシャガシャかき混ぜない)

5)好きな調味料で味をつけ、香りづけにごま油をひとたらしし、鍋肌から醤油少々を加え、ふたたび全体を混ぜて完成

良かった! やっぱり違った!

 では実際にチャーハンを作ってみましょうか。今回はなるべくシンプルに、具は長ねぎ、ハム、ナルトのみ。それから味つけも、アジシオ、コショウ、醤油のみ。比較のため、まずは従来の作りかたから。

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基本強火であわあわしつつ

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まったくいつもどおりに

 と、ここで問題発生。この従来どおりに作ったチャーハン。もっと粗野で野蛮な見た目になるかと思っていた予想に反して、我ながらかなりうまそうにできてしまたんですよね。

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あれ? 美味しそう……

 なんだなんだ? もしかして僕、気づかぬうちにチャーハン道を極めてしまい、どうやっても美味しいチャーハンしか作れない体になってしまっていたのか? もしかして僕、チャーハンの星のもとに生まれたチャーハンっ子だったのか? もしかしてこの連載、「つつまし酒」じゃなくて「つつましチャーハン」のほうが人気が出たのか? いやいや、なんだよつつましチャーハンて! 毎週毎週書くネタないよ!
 えっと……ともかくですね、従来どおりと革命後のチャーハンを見比べ、食べ比べ、その落差を味わおうと思っていたのに、このままだと今回のネタ、ボツにせざるをえないのか……。
 そんな不安にさいなまれつつも、とりあえず革命チャーハンも作ってみるしかありません。

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ごはんに油を混ぜる

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具材→米の順に加えて炒め

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溶き卵を全体にかける

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弱火で優しく全体を返しながら炒めてゆく

 ところが作り始めてすぐ、先程の心配は杞憂であったことに気がつきました。やっぱりこの革命チャーハンのほうが、黄色い卵がお米一粒一粒をきめ細かくコーティングし、だんぜん美しい! それに、ごはんに油を混ぜておいた効果か、ものすごくほぐれやすく、作りながら慌てることが一切ない! うんうん、きっと大丈夫だぞ、今回のつつまし酒。

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ほ〜らこんなにきれい

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完成です

 できたチャーハンを器に盛ってみると、やっぱりだ! さっきのだって相当美味しそうにできた気がしてたけど、比べてみるとオーラが違う! なんだか、平安貴族ばりの雅な気品すらまとって見えます。
 よ〜し、じゃあチャーハン飲みを始めていきましょう。大先生の教えにのっとってウイスキーや焼酎もいいけど、ちょうど家にチャーハンと合わないはずがない紹興酒があったので、今日はこいつで!

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ロックでやるのが好きですね

 グラスに砕いた氷をたっぷりと入れ、トクトクトクと琥珀色の液体を注いでおいて、いざ、レンゲでチャーハンをさっくりとすくいます。

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断面から立ちのぼる湯気がたまらない

 ぱくりとひと口。う〜ん、やっぱり違う。食感はしっとりとしているのにパラパラさもあり、そして卵の優しい旨味とお米の甘味がしっかりと感じられる。かなりシンプルな味つけにしたのにまったく物足りなさのない、この満足感。これはやっぱり、我が家のチャーハン革命と言えるんじゃないかな。
 と、悦に入りつつ、紹興酒のロックをちびり。こっくりと甘く、それでいて爽やかな香りが、チャーハンで油っこくなった口をさっぱりとさせてくれ、いつまでもその流れに身をまかせていたくなるループですねぇ……。
 ここで試しに、さっき作った従来チャーハンのほうも味見してみます。もぐもぐもぐ。あ〜、なるほど。なんていうんでしょう、もちろん本格中華のようなパラパラ感はない。かといって、町中華のようなしっとりとも違う。強いて言えば、べちゃっ。同じ材料で作ったにも関わらず、味にもどこか雑味を感じる。たとえて言うならば、大学時代に料理上手を自称する同級生男子がふるまってくれたチャーハン。
 もちろん、美味しくなくはないんです。だって、今まで我が家では、このチャーハンをみんな喜んで食べてたんだし。けどやっぱり、もう革命前の世界には戻れないなぁ……。

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最後にもうひとつおしらせです

 ところで最後に、もうひとつ有益な情報を。これは以前、節操なくいろんな料理が揃ってる居酒屋で飲み会をしていた時に偶然発見したんですが、実はチャーハンには「わさび」が合う!
 油たっぷりなので辛味はほとんど感じず、わさび独特の風味が米の甘味をさらに引き立たせ、口中に爽やかな風をもたらしてくれる。
 お酒のつまみにするときには、特にいいですよ。

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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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