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【44位】ザ・ローリング・ストーンズの1曲―「俺と悪魔のサンバ」が、内なる暗黒から人類史を読み替える

「シンパシー・フォー・ザ・デヴィル」ザ・ローリング・ストーンズ(1968年12月/Decca/英)

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※こちらは収録アルバムのジャケットです

Genre: Samba Rock
Sympathy for the Devil - The Rolling Stones (Dec. 68) Decca, UK
(Jagger/Richards) Produced by Jimmy Miller
(RS 32 / NME 227) 469 + 274 = 743  

ミック・ジャガーの「文学性」が、見事に開花した1曲だ。一人称で悪魔(らしき人物)を歌の主人公にしたせいで、偽悪趣味の曲ととられることも多い。しかしそれだけを理由にゴダール以下、60年代末の反体制派文化人らが雪崩を打って「ストーンズ詣で」をするわけがない。ここには「ビートルズが決して踏み入れなかった」領域に咲いた、大輪の花があった。文学の、しかも「異形のそれ」が、歌のなかで息づいていたからだ。

このナンバーはまず、ジャガーがひとりで仕上げた歌詞が面白い。歌の語り手「I」は、慇懃に自己紹介をしつつも「お会いできて嬉しいですな/私の名をご推察いただけるなら幸いですが」なんて言うだけで、明確には名乗らない。後段の一箇所でのみ「ただルシファーとお呼びください/なんらかの制約は必要でしょうから」と曖昧に述べるのみ。

そのかわり(?)話がいろいろ飛ぶ。自己紹介の途中で、すぐに思い出話になる。大昔からいろんな時と場所に「自分はいた」と主張する。キリストの磔刑や、欧州の宗教戦争、ロシア革命、第二次大戦、ケネディ兄弟の暗殺……激越な暴力や死の洪水のもとで、歴史の転換点となった折々に、自分は、多くの人の魂と信仰を盗んできたのだ、とも言う。

つまりこの語り手は「人類史の暗黒面」そのものの象徴なのだ。愚行を繰り返す人間の大多数、つまりあなたや僕の胸中にこそ「闇」は宿っている、のだ。だからもし悪魔と相対したら、礼儀正しく、そして「共感(Sympathy)しなさいよ」なんて語り手に説教までされる始末(ちなみに邦題の「悪魔を憐む歌」というのは、ほぼ誤訳だ)。まるでボブ・ディランが遊び好きになったみたいな文学性ではないか! ジャガーはウクライナ出身の作家ミハイル・ブルガーコフの長篇小説『巨匠とマルガリータ』からのこの曲への影響を認めている。また僕は、当曲の悪魔が、トルストイの『イワンのばか』に出てくる奴らと、どこか一脈通じているようにも思う。だから基本的にロシア文学系なのかもしれない。

キース・リチャーズのアイデアにより、サンバ化したアレンジも詞にマッチした。(彼のドライヴィン・ベースに座を奪われた)ビル・ワイマンのマラカス、そしてガーナ生まれの名手ロッキー・ディジョンのコンガが、アフリカのリズムを呼び覚まし、呪術的ムードを高めていく。このグルーヴが、またすごい。68年の傑作アルバム『ベガーズ・バンケット』(『教養としてのロック名盤ベスト100』では37位)のオープニングに収録。当時はシングル・カットされなかったものの、ストーンズ屈指の人気曲ともなった。

(次回は43位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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