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【リレーエッセイ】新書"らしさ"のある「面白い研究」と「ジャーナリズム」の良作

こんにちは!編集部の高橋です。このリレーエッセイもついに15回目。シャビ・イニエスタ・ブスケツを彷彿とさせる三宅さん・小松さん・草薙さんのゴールデントライアングルによる華麗なパス回しが続きましたが、アランちゃんの14歳(2015年10月~2016年9月)は私がお届けします。ちなみに、前回の記事で小松さんが書かれていた『目の見えない人は世界をどう見ているのか』は心の底からオススメです。

入社1年目、新書編集部に配属されると妄想していたら……

私は2016年に入社したので、この年の前半は学生の一読者の立場で「俺も入社後はこんな本を作るぞ~」という気持ちで読んでいました。そして4月の入社後、およそ2カ月の研修を経て配属されたのは書籍販売部。……部員数も何も知らぬまま、勝手に新書編集部を志望していた身としては完全に予想外でした。というか、(研修はあったけど)販売部が何をしている部署なのかも全くわからない。

近年は映像化や商品開発、デジタル戦略など出版社の事業も多岐にわたるので徐々にその印象は薄れつつありますが、それでも出版社=編集というイメージを抱く方は多いのではないでしょうか。私も(特に就活前は)単純にそう思っていました。ですが実際のところ、(会社にもよりますが)販売や宣伝、紙などの資材の調達などなど、編集以外の立場で本に携わる人は編集者以上に存在するわけです。この辺りはドラマ化もされた『重版出来!』と、それをもじった良作『重版未定』でていねいに描かれています。

で、私の配属された販売部という部署は初版部数の設定、書籍/雑誌の配本(簡単に言えば出版社→取次→書店へと流通していく一連の業務です)、発売後の売上調査をして売れているものは重版の提案……といったことをしています。格好つけると「より多くの読者に新たな出会いを届ける」とでも言えば良いでしょうか。ただ、実際には面白いと思ったあの本が数字上はそれほど売れないなど、残酷な真実と向き合わねばならぬ側面もあります。出版不況と叫ばれ続けている昨今だとなおさらですね。したがって都合良く済まされない現実も見ましたが、幸いなことにヒット作を売り伸ばす機会にも恵まれましたし、何よりこの販売部にいたときの経験が、後に効果を発揮することとなるのです(その話はまた次回)。

アランちゃん14歳の売り上げトップ10

さて、前置きが長くなりましたが、そんな光文社1歳だった私の目から、アランちゃんの14歳を見てみましょう。まずは、この時期(2015年10月~2016年9月)の売り上げ上位書目トップ10になります。

『ケトン体が人類を救う』宗田哲男
『語彙力を鍛える』石黒圭
『地域再生の失敗学』飯田泰之
『人間を磨く』田坂広志
『戦争の社会学』橋爪大三郎
『「その日暮らし」の人類学』小川さやか
『「がん」では死なない「がん患者」』東口髙志
『反オカルト論』高橋昌一郎
『闇経済の怪物たち』溝口敦
『物流ビジネス最前線』齊藤実
『武器としての人口減社会』村上由美子
(累計部数上位順)

草薙さんご担当の『ケトン体~』が強いですね。炭水化物が人類を滅ぼした後は、ケトン体が救うわけです。実際どちらも単純な医療・健康本では全くなく、タイトルに見劣りしないスケール感のある内容となっているのが特長でもあります。

アランちゃん14歳の一冊 『「その日暮らし」の人類学』

そしてこの年の光文社新書で、私が取り上げたいのはこちら。

小川さやかさんの『「その日暮らし」の人類学』。担当は現在ノンフィクション編集部にいらっしゃる三野さんですね。これもめちゃくちゃいい本です!

著者の小川さやかさんは『都市を生きぬくための狡知 ―― タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(世界思想社)でサントリー学芸賞を受賞されています。そして『「その日暮らし~」』を出された後に、『チョンキンマンションのボスは知っている』(春秋社)で第51回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞されました。私は何かの飲み会で一度だけお話ししたことがあるのですが、たいへんユーモラスでチャーミングな方でした。

一読者として光文社新書を読んでいた頃、社会科学に強い印象があったと同時に、面白い(そして若い)研究者の本が多いなとよく思っていました。ユニークな試みをしていながら、研究者・書き手しての真摯な姿勢が見られる。知的エンタメとでも呼べばいいのかわかりませんが、そういうものが好物の私にとって、『「その日暮らし」の人類学』はドンピシャだったわけです。

中公新書の『ルワンダ中央銀行総裁日記』(これも名著です)が「なろう系」風の宣伝で再ブレイクしましたが、『「その日暮らし」~』も言うなれば「タンザニアで古着屋商人として働き始めた私がナンバーワンになった話」でしょうか(ナンバーワンになってからの話でもありますが)。知性とバイタリティが掛け算されるとこんなにも面白くなるのか、というお手本のような新書です。

アランちゃん14歳のもう一冊 『電通とFIFA』

それと、ランキングには入っていませんが私のオススメをもう一冊紹介させてください。

ノンフィクション作家、田崎健太さんによる迫真の一冊。田崎さんは『W杯に群がる男たち』(新潮文庫)もメチャクチャに面白いのですが(元FIFA会長・アベランジェ氏にまで取材されてます)、サッカー大好き人間の私にはこの『電通とFIFA』も非常に読み応えがありました。こちらの担当は現・ノンフィクション編集部編集長の樋口さんになります。

帯がアウトレイジでめちゃくちゃ楽しいですね

東京オリンピックも色々な意味で盛り上がりましたが、利権をめぐる腐敗はグローバルスポーツにつきものなんでしょうね。冷めた見方をすれば、濃厚な人間ドラマと捉えることもできます。田崎さんはスポーツものを中心に様々な文章を書かれていますが、取材の質と量に「これぞ本物のプロだ」と唸ってしまいます。こちらの記事も素晴らしかったです。

私の好きな『差別と貧困の外国人労働者』も同様ですが、優れたジャーナリストの文章をお手軽に読める点も、やはり新書の魅力だと感じます。

というわけで、アランちゃん14歳の振り返りは高橋がお送りしました。
次回の15歳も、「幸いなことにヒット作を売り伸ばす機会にも恵まれました」というお話をするために私が担当いたします。よろしくお願いします~。

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