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【5位】ザ・ビートルズの1曲―壮大にして、しかし「なにも起こらない」人生の一日に

「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」ザ・ビートルズ(1967年5月/Parlophone/英)

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※こちらは収録アルバムのジャケットです

Genre: Art Rock, Psychedelic Rock, Orchestral Pop
A Day in the Life - The Beatles (May, 67) Parlophone, UK
(Lennon-McCartney) Produced by George Martin
(RS 28 / NME 17) 473 + 484 = 957

そしてビートルズ・ナンバーの最高位は、この曲だった。当曲はシングル・リリースされていない。名作の誉れ高いイギリス盤8枚目のオリジナル・アルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(『教養としてのロック名盤ベスト100』では23位)の収録曲として発表された。「架空のバンドのコンサート」を収録したという体裁の同作において、テーマ・ソングのリプリーズのあと、あたかもアンコールみたいにして最後に登場する、もの哀しくも奇妙な手触りの大曲だ。「ポップ音楽史上最も野心的で、影響力甚大で、画期的な曲のひとつ」との評もある。

ソングライティングをリードしたのは、ジョン・レノンだった。彼が大部分を書いて、中間部(ミドル・エイト)をポール・マッカートニーが書いた。だから基本的にはレノンが、中間部でマッカートニーが歌うという構成ではあるのだが「とにかくいっしょに作った」と後年レノンが語っている。「あれがピークだった」と彼が述懐する『サージェント・ペパーズ』期の制作状況のなかでも、この1曲の達成には、格別のものがあった様子だ。

当曲は「話法の不思議さ」に最大の特徴がある。のちにデヴィッド・ボウイが自作「ヤング・アメリカンズ」にそのまんま引用したライン「I read the news today, oh boy」から、この歌は始まる。ここの「Oh boy」は、驚いたり、悲嘆したりするときに使う口語的表現だ。「おやまあ」とか「なんてこった」とか、文脈によって違いが出る。ともあれ主人公は、新聞で読んだことや、映画で観たことなどを、「Oh boy」と言いながら、淡々と話題にする「だけ」なのだ。この点がまず、とてもユニークだった。

なぜならば、ここでレノンは、作家ウィリアム・バロウズの「カットアップ」にも近い手法を試みているからだ。「関係ないもの」の集積によって「核心となるテーマ」を言外に導き出すという方法だ。たとえば「自らの人生について」直接的に語らないことによって、「(だれにでもある)人生のある一日」を逆に浮かび上がらせるわけだ。つまり「この方法でならば」作り手の主観をはるかに超えた、全人類へと広がりゆく「普遍性」の彼方へと、歌の翼を開いていくことすら可能となるからだ(ちなみに、この詞作の手法そのものもボウイが取り入れて、彼の代表曲「ライフ・オン・マーズ?」につながったと僕は見ている)。

主人公はまず新聞で、とある交通事故について知る。次に話題は、戦争映画に移る。それからランカシャー州ブラックバーンに4000個の穴がある話を新聞で知る。この「戦争映画」と「穴」の話題のあいだに、マッカートニーの中間部がある。ここに「ヒント」が隠されている。彼は自らの少年時代の、たわいない思い出話を素描する。起床して、遅刻しそうになり、バスに乗り、タバコを吸う……これが「レノン側の話題」と(一見)脈絡なく、前衛文学のようにからみ合う。そして「かけがえのないもの」を浮上させる。

サウンドがまた、すさまじい。ケレン味に満ちた「仕掛け」満載だ。ドラッグ使用の推奨ではないかと物議をかもしたレノンのライン「I'd love to turn you on」から、マッカートニーへとバトンタッチするまでの24小節、40名のオーケストラによる無調の即興演奏的クレッシェンドが、その1。その2は、最後のコードだ。53秒にもわたって鳴り響く「Eメジャー」は、ポップ音楽の領域をはるかに超える巨大な影響を社会に与えた。ルーカス・フィルムの映画音響専門会社、THXのサウンド・トレードマーク「ディープ・ノート」や、アップルのマッキントッシュ・クアドラ起動音などがそれにあたる。

たとえばビートルズの同じ「ライフもの」の名曲「イン・マイ・ライフ」(65年)の純情度、構造の一重性などと当曲を比較してみると、目が眩みそうな飛距離がある。絵画における抽象表現のような効果を「歌によって」目指した、サイケデリック・ロックの彼岸と呼ぶべきナンバーがこれであり、たしかにここに「到達地点」は記録されていた。

じつは〈ローリング・ストーン〉も〈NME〉も、各自のリストでは当曲がビートルズ最高位ではなかった。前者の最高位は「ヘイ・ジュード」の8位(当リストでは14位)で、次点は「イエスタデイ」の13位(ランクせず)、当曲は三番手だった。後者最高位は「エリナー・リグビー」で11位(同21位)、次点が当曲だった。だから「両者のリストの掛け合わせ」にて初めて、当曲のランクが勢いよく跳ね上がったことになる。ただ面白いことに、2010年に〈ローリング・ストーン〉が発表した「100 Greatest Beatles Songs」のリストでは、当曲がトップに立っていた。つまり今日「ビートルズ最強の1曲」というと、まずこれが人々の脳裏に浮かぶようだ。おそらくは、集合的無意識の反映として。

(次回は4位の発表です。お楽しみに! 毎週金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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