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「いい頼み方」のポイント――ChatGPTの基礎知識⑪by岡嶋裕史
聞き方を変えた効果
で、話はいきなりプログラミングへ移る。
今作った俳句をアナグラム(文字の入れ替え:ほんらいまなつ↓つまらないほん。みたいなやつ)したいので、それを実行するプログラムを書けと指示してみた。今の学校の授業でやったらそのままハラスメント相談室へ駆け込まれそうな無茶ぶりである。
ところが、GPT-4 はなんなく回答を作ってくる。
厳密にはいったんつまずいてはいる。「直接コードは生成できません」という部分だ。過去のデータを組み合わせているだけなので、それはそうである。ただ、その過去データが膨大なので、アナグラムくらいであればどっかで必ず学習しているはずであるから聞き方を変えた。
「サンプルを教えて」
そうすると、悪い詐欺師に騙されたようにサンプルコードを出力してくれる(ChatGPTが抱えているサンプルコードは本当に多種多様で、かんたんなゲームくらいなら難なく表示する)。デレるのが早いのだ。ちょろインというやつである。今のところ、この辺がChatGPT の面白いところであり、使いにくいところでもあるだろう。この点はプロンプトエンジニアリングというキーフレーズを用いて、後ほど詳述する。
命令次第で発揮する能力が異なる
後述は気持ち悪いぞという方のために頭出ししておくと、要するに命令次第で発揮する能力が異なるのである。まあ、それはそうである。相手が人間の部下だって、従来型のプログラムだって、冴えない指示をすれば返ってくる結果は冴えなかった。「あの部下は使えない」と思うとき、たいてい上司の側の指示も悪いのである。
人間の場合は相手の理解力や語彙、育ってきた環境、漬かっている文化によって指示の仕方、使う言葉を選ばねばならないし、コンピュータ相手にプログラミング言語で指示を並べるときは何よりもコンピュータの粒度に合わせる必要がある。人間相手に「こんなもんでいいだろう。だいぶ精密に指示したぞ」と思ったさらに1000分の1くらいにかみ砕くのだ。
「いい頼み方」のポイント
ChatGPT の場合は人間が自然言語で与えた指示を解析して、それに従った処理を行い、結果をまた自然言語に直して返してくる。「いい頼み方」のポイントはいくつかあるが、最も重要なのは精密な指示だ。
私たちは初期段階のチャットボットにけっこう親しんだので、指示をシンプルにするようにリテラシを身につけてきた。いい例がアマゾンのアレクサやアップルのSiriである。あれはChatGPT に比べれば未熟なチャットシステムで、使える分野の幅も狭く、しかも情報資源に乏しいホームデバイスやスマホで稼働しなければならない制約もある。
複雑な文を入力してしまうと余計なことをしかねないので、誤読のないようにシンプルな構文で話しかけるくせがついてしまった。何なら単語だけで指示していた人も多いだろう。「プライムビデオ、4人はそれぞれウソをつく」といった感じである。
ところが、ChatGPT はモデルもデータセットも複雑かつ洗練されたので、情報を与えてあげれば与えてあげるほど「望ましい回答」が得られる可能性が高まる。Siri相手に構築されてしまったリテラシを一度リセットしてから使うのがいいと思う。
たとえば、「ラスプーチン 情報」とプロンプトを入れてもChatGPT は答えてくれるが、割と無味乾燥な、Wikipedia を読んでも変わらないような回答になる。それよりも「ラスプーチンは特殊な性癖を有していたと仄聞(そくぶん)していますが、どんな性癖があったのか知るところを教えてください」のように情報をてんこ盛りにして聞いたほうがずっと有用な結果が返ってくる可能性が高い。
(続く)