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現代酒道入門|パリッコの「つつまし酒」#84

人生は辛い。未来への不安は消えない。世の中って甘くない。
けれども、そんな日々の中にだって「幸せ」は存在する。
いつでもどこでも、美味しいお酒とつまみがあればいい――。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、noteで再始動! 
そろそろ飲みたくなる、毎週金曜日だいたい17時ごろ、更新です。

茶道、華道、そして酒道

 この連載も早いもので84回目。毎週毎週飽きることなく、お酒やつまみに関するあれこれを書きつづっているわけですが、ネタがなくなる気配は一向にありません。つまり、酒の道はそれほどに奥深く、一朝一夕に極められるものではないということ。
 となれば、思いません? 「茶道」や「華道」のように「酒道」がないのはなんでなんだろう? って。酒道、しゅどう。実は、室町時代末期から江戸時代にかけてくらいまでは、存在したそうなんです。公家流、武家流、商家流などの流儀があり、お酒の注ぎかた、配膳のしかた、飲みかたなどのマナーを通して、精神性を高めることを目的とした、そういう文化が。けれどもいつの間にやらすっかりすたれ、もはや書物も残っていないようで、いや、それもそのはずですよね。だって、飲むとグダグダになるのがお酒だもん。茶道や華道みたいに、背筋をピシッと伸ばして、所作に気を使ってなんて、途中からやってらんなくなるもん。
 というわけで現在、日本に残る酒道に近いものは僕の知る限り『酒のほそ道』だけなんですが、これも「酒道」と定義されているわけではない。でもさ、ということはですよ? これ、今がチャンスの言ったもん勝ちなジャンルでもあるんじゃないですか? 僕が「酒道 巴里流本家家元」を名乗り、オリジナル酒道を提唱しだしても、「そんなの酒道じゃないよ」なんて、誰にも言えないわけですもんね? よ〜し、“家元”に!!! おれはなるっ!!!

 と、そんなことを思ったのにはきっかけがありまして、先日、リサイクルショップでものすご〜く雰囲気のいい取っ手つきの小箱に出会いましてね。お値段も1000円と手頃だったもんで、使い道や置き場所も考えず、とりあえず衝動買いしてしまったんです。

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これ。いいでしょ?

 いいないいなと眺めつつ、フタをパカパカ開けたり閉めたり、引き出しを引き出したり押し戻したりしていたら、ふと思った。この箱で、酒飲みたいなって。なんかこう、酒器一式を効率的にしまっておいて、ここからおごそかに取り出し、神妙な顔で酒を飲む。みたいな想像がどんどんふくらんでいったんですよね。

 そこで今回は以下、僕が実践し確立した「酒道 巴里流」の入門編をお送りしたいと思います。

いざ、実践編

 ここまで原稿を読んできたあなたなら、すっかり酒道に興味をお持ちですよね。「やってみたいけど敷居が高そう。家に『酒室』があるわけじゃないし……」なんて思われているかもしれません。だけど心配はご無用。家に酒室がない方でもすぐに始められるのが、野点(のだて)ならぬ「野酒」。お気に入りの酒器など一式が入る入れ物さえ用意すれば、誰でも手軽に酒道の醍醐味を味わえるんですよ。
 では実際に方法、作法を解説していきましょう。

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やってきたのは近所の公園

 小箱を持って公園にやってきました。ゴザや畳柄のレジャーシートなどがあれば雰囲気抜群ですが、最悪、青いビニールシートでもかまいませんので、好きな場所に会場を設営しましょう。

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見上げた空には雲ひとつなし

 この日は快晴でしたが、野酒は晴れた日に行わなければいけないという決まりはありません。花曇りの侘び寂びや、小雪ちらつく風流、雨ならば公園の東屋を間借りするという手もある。そんなふうに、四季折々の気候と一体となって楽しめるのが酒道の魅力なんです。

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自慢の酒道具を見てください

 私が愛用している小箱は2段式。上段には、お皿や酒器、組み立て式の箸などを収納しています。

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そして下段がこう

 下段にはお酒とつまみ。酒道には「こうでなければいけない」という組み合わせはありません。その日の気分に合わせて自由に選んでみてくださいね。今回は、地元のスーパーで280円だったのり弁を選んでみました。まずはどこから食べようと思わずウキウキしてしまう、非常に野酒向きのおつまみです。

 それではいよいよ実践編。まずは王道の「お茶割り」を立てていきましょう。

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お茶割りの材料

 今回は、飲みやすく12度に調整されたプラカップの麦焼酎と、水に溶けるタイプの緑茶スティックを用意しました。茶せんを使用する本式もいいですが、初心者ならば簡易的な立てかたでじゅうぶん。カップにお茶の粉を直接入れ、フタをしてよく振れば完成です。

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おごそかみが高まってきた

けっこうなお手前で

 我が巴里流では、おつまみは箱に収納したままいただくのが基本。我々がいかに求道者であるといえ、はたから見たらただの変人。道ゆくお子さんに「ママ、あの人何してるの!?」と言われた際、引き出しをさっと閉めることで、「悪意はない」ということを多少なりともアピールできます。
 ただ、それだけではなんだかコソコソと悪いことをしている、もしくは授業中に早弁している気分になってしまいます。そこで重要なのがお皿の存在。

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一品ずつ乗せてはいただきましょう

 用意した取り皿におかずを一品ずつ取りだしては、まずしっかりと愛で、それからじっくりと味わうのが巴里流の正式なマナーとなります。酒道とはすなわち酔狂の世界。「かけなくてもいい手間をわざわざかける」ことで、酒やつまみと対話し、その先にある真理を求めるものなのです。そもそも、重い箱に道具を詰めて野酒をするという行為自体が「わざわざ」な行為でもありますからね。

 ちなみにお弁当は、昨夜買って冷蔵庫で保管しておいたものなので、ご飯のカチカチ具合が想像を超えていましたが、それすらも前向きに味わう気持ちが大切。すべてを肯定し受け入れる。それにより、精神的満足度を上げ、酒との融合度合いを高めることができます。

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持参したおちょこたち

 わざわざといえば酒器。重いからと最小限にとどめるのではなく、お気に入りのものをいくつか持参し、そのときの気分で選ぶようにましょう。自らの感覚に問いかけるように。それにより、精神的満足度を上げ、酒との融合度合いを高めることができます。

 おかわりの日本酒は、抜けるような青空に似合う青い琉球グラスで飲むことにしました。

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パック酒は注ぎやすい

 この日は秋とはいえ日差しがポカポカと暖かく、揺れる木漏れ日が目に心地いい。お腹もちょうどいっぱいになったし、ほろ酔い加減にもなってきた。最終的に、極限まで精神的満足度が上がり、酒との融合度合いが高まっているのを実感することができました。

 ごちそうさまです。けっこうなお手前でした。

 というわけで、私たちの提唱する酒道の入門編はここまで。何かとストレスを感じることの多い現代社会。野酒は精神的デトックス効果が抜群なため、昨今大変注目が集まっています。みなさんもぜひ躊躇せず、お気軽に酒道の世界にいらっしゃいませね。

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ベンチなどを利用したもっとライトな野酒の実践法のご紹介は、
また別の機会にでも
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
この9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco


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