見出し画像

定食屋飲みとはハムエッグ飲みである|パリッコの「つつまし酒」#91

「はあ、今週も疲れたなあ…」。そんなとき、ちょっとだけ気分が上がる美味しいお酒とつまみについてのnote、読んでみませんか。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、それが「つつまし酒」。 
そろそろ飲みたくなる、毎週金曜日だいたい17時ごろ、更新です。

イルミネーションがむしろ寂しい年末

 その日は阿佐ヶ谷で仕事が終わりました。時刻はちょうど夕暮れ時。となれば、ちょっと一杯ひっかけて帰ろっかな、となるのは当然ですよね。
 かなり久々にやってきた阿佐ヶ谷の街を、ぷらぷらと歩いてみる。クリスマス直前ということもあって街じゅうがきらびやかな雰囲気に包まれているのですが、今年は本当に不思議な年になりましたね。コロナウイルスの影響により、驚くほど人出が少ない。キラキラとしたイルミネーションがむしろ寂しい年の瀬。こんな年末はかつてなかったなぁ。なんて思いながら、なるべく密を避けて飲めそうなお店を探します。

画像1

2020年ならではの光景

 すると、お、なんとも渋い定食屋があるじゃないですか。窓から覗くと店内に先客はなし。年季の入った短冊に、魅力的なメニューが並んでいます。さらに看板を見ると、「お食事処 定食」の横に「お酒のみ処」の文字が。いいなぁその表現。なんだか寂しい今日の気分をほっこりと温めてくれそう。よし、今日は定食屋飲みに決まりだ!

画像2

北口「スターロード商店会」の「太福(だいふく)」へ


定食屋ではなぜかハムエッグ

 ピシッとした雰囲気の女将さんがひとりで営む、カウンターだけの店内。古いけれども掃除がいき届き、どこもかしこもピッカピカで空気まできれいに感じるという、良き大衆酒場の見本のようなお店ですね。
 まずは瓶ビールを頼むと、「これ、めしあがってください」と、サービスの白菜漬けがついてきました。嬉しいなぁ。控えめな漬かり具合で白菜の甘味が引き立っていて、すごく美味しい。

画像3

人を幸せにする小鉢

 さて、おつまみは何を頼もうかな。壁にはフライものに炒め物に焼き魚にと、いかにもなメニューがずらりと並んでいます。が、僕が定食屋で飲むとき、メニューにあればつい頼みがちなのが「ハムエッグ」。その他のラインナップと比べてもとりわけ作るのが簡単で、その気になれば家でだって作れるのに、なんで定食屋に来ると頼みたくなっちゃうんだろうなぁ。とにかくもう気持ちがハムエッグになってしまった。それと、サブに「あげなす」ももらおうかしら。うんうん、そんなところでしょうね。

画像4

湯気をあげてハムエッグが到着

 ほほうなるほど。目玉焼きがふたつの下に、丸いペロンとしたやつじゃない本格ハムが2枚。その下に、どんぶりもの? ってくらいたっぷりの千切りキャベツ。やったやった。あとでこれもソースをかけてつまみにしよっと。
 女将さんに「軽くお塩をふってありますけど、もし必要でしたらマヨネーズなんかもありますからおっしゃって」と言ってもらい、せっかくなので片方の目玉焼きにだけマヨネーズをくるり。はい、準備完了!

結論、訂正します

 まずは目玉焼きの白身の部分だけを箸でちぎって食べる。こうしてじっくり味わってみると、けっこうしっかりと味があるんですよね。白身って。適度な塩気がビールに合うなぁ。
 お次はハム。ズルリと引き出してみると、うわ、でかっくて厚切りで、なんとも頼もしいハムだ。もぐもぐもぐ。凝縮された歯ごたえと肉の旨味。最高でございます。
 ただしハムエッグの本番はここから。いよいよ半熟の黄身をつついて崩し、とろりと流出させる。その黄身を時に白身に、時にハムに、もしくは両方に、なんだったらマヨネーズなんかも融合させたりしながら、食べる! 飲む! 食べる! 飲む!
 はぁ〜、定食屋飲みとはつまり「ハムエッグ飲み」なんだよなぁ……。

画像5

懲りずに頼んでしまうのはこの喜びを知っているから

 やがて、女将さんが目の前で揚げてくれた揚げナスも到着。大根おろし、おろしショウガ、小ネギにカツオ節たっぷりが嬉しい。ジュッと醤油を回しかけ、箸でちぎってほおばれば、始めはパリッと香ばしく、続いてとろりと甘いナスのうまさにうっとり。ナスと油って本当に最強のタッグですよね。

画像6

究極形ともいえる揚げナス

 このあたりでビールが底をつき、まだまだおつまみは潤沢。何かもう一杯もらいましょう。今日の気分にぴったりなのは、うん、焼酎のお湯割りだ!

画像7

ほわ〜

 お湯割りは、とっくりに水割りを作ってレンチンするスタイルですか。なんだかいいな。普通に作るよりありがたみが増す気がして。ちびりと飲めば、じわりと体も心も温まる美味しさ。やっぱり正解。
 しばらくして揚げナスも千切りキャベツも食べきってしまったけど、まだお湯割りは残っています。何か軽い……うん、「納豆」あたりもらいましょうか。
 すぐに小鉢の納豆がやってきました。家では面倒でなかなかやらない、小ネギたっぷりがこれまた嬉しいですね。醤油を回しかけて豪快にかきまぜ、ちびちびとつまみにする。はは。その気になればいつまででも飲めるぞ、これは。
 定食屋における納豆って、正しくは食事にプラスするサイドメニューという位置づけですよね。が、そういうちまちましたものをつまみと考えてお酒が飲めてしまうのがまた、定食屋の良さでもある。定食屋飲みとはつまり「納豆飲み」なんだよなぁ……。

 って、あれ? さっきまでは「ハムエッグ飲みである」とか言ってたんだったか。すいません。酔いが回ってなんでも良くなってきてしまいました。
 じゃあ結論のほうを訂正。「定食屋飲みは自由である!」。これでどうでしょう?

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco



この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
光文社新書

よろしければサポートをお願いいたします。もっと読んでいただけるコンテンツを発信できるように、取材費として大切に使わせていただきます!

アランちゃんも喜んでいます!
38
光文社新書の公式noteです。光文社新書の新刊、イベント情報ほか、ぜひ手にとっていただきたい既刊本のご紹介や注目の連載をアップしていきます。お気に入りの一冊について書かれたnoteを収録するマガジン「#私の光文社新書」は、常時投稿をお待ちしています!