書店を2つに分類する―Z世代書店主の読書論(書店論)②by大森皓太
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書店を2つに分類する―Z世代書店主の読書論(書店論)②by大森皓太
フラストレーションの溜まる仕事
書店業務のなかでいつもフラストレーションが溜まるものがある。それは新刊の発注である。一般的に新刊の発注は業務の中でも楽しい部類に入ると思うのだが、そう素直にいかない。ひと月に何点も新刊がでるような大・中規模の出版社からは毎月新刊の案内が届き、刊行日の大体1ヶ月から1ヶ月半ほど前に設けられている事前予約の締切までにその案内をチェックして冊数を決める必要がある。しかし、その案内には書影がないことが大抵で、予約締切時にも公開されていないことも珍しいことではない。これが大変困る。ひどい場合にはページ数すら記載がない場合もあり、「それはないやろ」と苛立ちがさらに募ることもしばしばである。
書影(ときにページ数)が不明な状態で注文を求められて、そして締切日までに注文がない場合は配本日に届かないというのは異常だ。本は内容に価値があるのだから表紙などのデザインは二の次だという考え方もあるかもしれないが、売り手また買い手として本のデザインが購買行動に大きく影響するということを理解しているので、書影はやはり欲しい要素だ。
といきなり愚痴めいたことを書いてしまったが、事前に書影が欲しいということが今回の主題ではない。今回は私が新刊の発注にフラストレーションを溜めているという現象を取っ掛かりとして、私なりの書店の分類をしておきたい。
委託と買切
よく書店の分類としては、大・中規模のチェーン系の書店(以下、チェーン系)と小規模の独立系と呼ばれることの多い書店(以下、独立系)の二つが対比されて語られることが多い。しかし私はそれぞれの書店の仕入れ方、つまり委託か買切かという条件によって分類した方が良いと考えている。「チェーン系/独立系」という分類と「委託/買切」という分類はおおよそ重なるのだが、独立系のなかには委託条件で仕入れているところも多く、一対一に対応するものではない。但し、委託ベースの書店であっても買切条件で書籍を扱うこともあれば、買切ベースの書店が委託条件で書籍を扱うこともあるのであくまで主としての条件ということになる。私の店は後者である。
さて、委託と買切の違いは何かというと、文字通り一度仕入れた書籍を返品できるかどうかである。そして私が新刊の発注にフラストレーションを溜めるのもここに理由がある。買切ベースの書店で書影情報のないまま部決(冊数を決めること)をするのはかなりのリスクを伴う行為であり、注文書をチェックするたびに「あぁ、これは委託を前提につくられているな」と苛立つのである。
では委託の条件で書籍を扱えばいいではないか、と思われるだろう。それは本当にその通りで私は基本的に委託ベースでできる方が望ましいと考えている。そして、現状は大多数の書店が委託ベースであり、買切ベースの書店はまだまだ少数に留まっている。しかし、後ほど述べるような理由から近年増加している独立系の書店には買切ベースの書店が多く、今後もこの傾向は継続することが予測されるので出版社にとっても軽視できない存在となると考えている。
メリットとデメリット
では、なぜ買切ベースの書店が増えているのだろうか。私なりに委託/買切のメリットとデメリットを整理してみたい。
まず委託条件のメリットだが、それは何よりも返品ができることだ。返品ができることにより、多種多様な書籍を仕入れることが可能になり、さまざまな書籍を手にとる機会を読者に提供できる。そして、基本的に取次会社を通じて書籍の受発注が行われるため、発注作業や支払い関係が集約され業務の効率化を図ることができる。しかしその反面、取次により書店のランク付けがなされており、そのランクに応じた配本――その結果、欲しい本が仕入れられなかったり、あるいは不要な本が送られてきたりすることがある――は問題視されている。また、開業時のコストも委託の場合のネックとなる。新しく書店を開業し、委託条件で取次会社と契約しようとする場合には最初に保証金が必要となる。その金額が決して安くはないので、新規参入の壁となってきた。
一方、その新規参入のハードルが委託条件に対して相対的に低いのが買切条件での店舗運営である。この場合、開業時の保証金は必要なく、書籍の代金を都度支払うことによって書籍を仕入れることができる。近年、買切ベースの書店が増えている大きな理由はこの点にあると思われる。また、取次を通さない直取引とよばれる仕入れ方――書店が直接出版社に注文し、出版社が注文された書籍を手配する――も一般的になり、仕入れられる書籍も委託ベースの書店と遜色がなくなったといってよいだろう。しかし、返品ができないのは枷となる。デッドストックを作らないように細やかに部決する必要があり、売れるかどうか不安な本の発注には消極的にならざるをえない。その結果、売りやすい本が軸となってくるので、実は買切ベースの書店も他の買切ベースの書店と似たような書籍を仕入れているというチェーン系でよく指摘される金太郎飴状態になりやすい。また、返品・廃棄が前提となっている週刊誌をはじめとした雑誌類やコミックスなどの巻数物を仕入れにくいのも大きなデメリットだろう。
このように新規参入の容易さや返品が可能なことによる仕入れられる商品の幅広さの面で、それぞれメリット・デメリットがある。(その他にも書籍の掛け率(利益率)の面でも委託/買切で違いがでてくるのだが、これは一概にどちらに利があるとは言えない論点なので、また改めて取り上げたい。)
買切の論理
繰り返しになるが、私の経営するUNITÉは買切ベースの書店である。だからといって、委託という形式を否定的に捉えているわけではなく、むしろ委託でできるのであればそれに越したことはないと考えている。そのなかで買切ベースの書店が近年増えてきていること、そしてそこで形成される買切の論理は、長年維持されてきた委託の考え方を裏側から照射し、今後のあり方を模索する上で寄与できる点があると考えている。
以上、今回は外部からは判別し難い仕入れの条件で書店の分類を試みた。チェーン系/独立系という表面上の分類ではうまく説明できない部分も、委託/買切という書店の根幹に由来する分類に着目することによってよりクリアに認識できるように思う。次回は出版業界の最大の課題といってもいい「返品率」の問題について裏側から検討してみたい。(続く)