新刊『死ぬまで噛んで食べる――誤嚥性肺炎を防ぐ12の鉄則』の「はじめに」を公開!!
こんにちは! 光文社新書編集部です。
2月の新刊『死ぬまで噛んで食べる』は、1997年から訪問歯科としての活動を続けている、訪問歯科医のカリスマ・五島朋幸(ごとうともゆき)先生による新著です。
五島先生は、歯医者さんに通えなくなったお年寄りのお宅を、自ら訪問して診療するようになって、歯科医として初めて気がついたことがたくさんあるといいます。
本書では、歯の治療や口腔ケアについて、これまでの知識が一変するような、目からウロコのトピックが満載です。
また、最近注目を集める「誤嚥性肺炎」についても、「飲食が原因ではなかった」などの驚きの事実も解説されています。(飲食が原因ということで、口から食べることを禁じられている方が多いことはご存じかと思います。)
まず本日は、「はじめに」を公開いたします。ぜひ読んでみてくださいね!
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『死ぬまで噛んで食べる』
はじめに
あなたは「死ぬまで噛んで食べたい」ですか?
──訪問歯科診療23年間で見たこと
死ぬまで口で、噛んで食べる。
簡単そうに見えて、実はけっこう難しいことです。
私は訪問歯科診療がまだ一般的でなかった(今でも一般的とは言えませんが)1997年から、患者さんの家にうかがって口を診てきました。
そこで見たのは、入れ歯を外され、噛まずに食べられるものだけを食べている、多くの高齢者でした。
まだ介護保険も始まっていなかった当時、口の中に関心を向ける人はなく、「歯がないんだから、いいだろう」と、放りっぱなし。便の臭いかと思ったら口臭だった、なんてことすらありました。
その後、「口腔ケア」という概念が登場して、口に関心が向けられるようになりましたが、状況がよくなったかといえば、そうとも言えません。入院すると入れ歯を外されてしまい、退院して家に帰ってもそのままという人が、相変わらず大勢いたのです。
しかも、2000年頃から胃ろうが普及し始めたため、「誤嚥性肺炎」を起こして禁飲食になり、「一生口から食べてはダメ」と宣告されて、胃ろうを造設して帰宅する人が増えたのです。
後ほど詳しく述べますが、誤嚥性肺炎とは、唾液や胃液などが誤って気管に入ってしまい、唾液に含まれる細菌や胃酸などによって、肺が炎症を起こした状態です。健常者ならば、多少誤嚥しても肺炎を起こすことはほぼありませんが、免疫力の落ちている人や高齢者は肺炎を発症し、亡くなる危険性もあります。
口から食べようとして誤嚥し、肺炎になって死んではまずいからと、安易に胃ろうを造設され(私は胃ろう反対派ではありませんが、誤った使用のされ方をしている胃ろうには反対です)、口から食べないのだからと、またしても放りっぱなし。口を開けてもらったら、中に黒い膜が張っていてパリッと裂けた、なんてこともありました。
しかし、飲み込む力が残っていれば、再び口で噛んで食べることは可能です。
入れ歯が合わなくなっている人や歯がない人には、入れ歯を調整したり新たに作ったりすればいい。舌がうまく動かなかったり、唾液がよく出なかったりしたら、訓練をしてみればいい。必要なカロリーをすべて口から摂れなくても、胃ろうをうまく使って体力を上げながら、噛んで食べる量を増やしていけばいい。
あきらめなくてもいいのです。
ただ、できることならそうなる前に、予防できればもっといい。死ぬまで噛んで食べられる口でいられれば、もっといいと思いませんか?
そして、あなたやあなたの家族に、噛んで食べられなくなりそうな兆候があったら、それに気づいて対策を立てることができれば。
本書ではまず、死ぬまで噛んで食べられる口とはどのような口なのか、どうすれば死ぬまで噛んで食べられる口でいられるのかを、みなさんと一緒に考えていきます。
おそらく、これまで何気なくやっていたこと、常識だと思っていたことが実はダメだった、なんてことがあるのではないかと思います。
さらに、食べることには歯や舌、唾液、飲み込む力といった口の機能だけでなく、姿勢や環境、栄養や薬、道具など、さまざまな要素が関わっています。これらを無視しては、死ぬまで噛んで食べることは実現できませんから、これらについても詳しく見ていきます。
とはいえ、私はそれらすべての専門家ではありませんから、ここはそれぞれの専門家の方々に語ってもらいます。
また、私がなぜそのような専門家たちと協働するようになったのか、そのために立ち上げた「新宿食支援研究会」とはいったい何か、などについても述べます。
そして最後に、口の衰えの兆候に気づくポイントや、口の機能の上げ方、いざというときの専門職とのつながり方など、死ぬまで噛んで食べるために今日からできることを、簡潔にまとめておきます。
時折データも入っていますが、数値を覚えていただく必要はありません。大事なのは理論を覚えることではなく、行動することだからです。「なるほどね」と本を閉じて終わりではなく、実践していただきたいのです。
そこで冒頭(第1章)に、死ぬまで噛んで食べるために大事な行動を、「12の鉄則」として掲げておきました。ほとんどは簡単な、すぐにできることですから、ぜひやってみていただきたいと思います。
では、前置きはこれくらいにして、本編に入ることにいたしましょう。本書がみなさんと、みなさんの大切な人の、「死ぬまで噛んで食べる」を実現する一助となることを願って。
なお、本書で取り上げた事例はすべて事実に基づいていますが、人物を特定できないように属性を変えたり、複数の事例を一つにまとめたりしてあることを、あらかじめお断りしておきます。
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以上、「はじめに」の部分をご紹介いたしました。
五島朋幸(ごとうともゆき)
1965年広島県生まれ。日本歯科大学卒業。博士(歯学)。歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表。新宿食支援研究会代表。株式会社WinWin代表取締役。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。東京医科歯科大学、慶応大学非常勤講師。1997年より訪問歯科診療に積極的に取り組み、2003年ふれあい歯科ごとうを開設。地域ケアを自身のテーマとし、クリニックを拠点にさまざまな試みを行い、理想のケアのかたちを追求している。
2003年よりラジオ番組『ドクターごとうの熱血訪問クリニック』パーソナリティーも務める。著書に『愛は自転車に乗って』『訪問歯科ドクターごとう①』(以上、大隅書店)、共著に『口腔ケア〇と×』(中央法規出版)、『食べること生きること』(監修、北隆館)など多数。
光文社新書『死ぬまで噛んで食べる――誤嚥性肺炎を防ぐ12の鉄則』(五島朋幸著)は、全国の書店、オンライン書店で発売中です。