【第71回】なぜ報道が「深刻な危機」に陥っているのか?
「記者として殺される」!
2022年5月3日、「国境なき記者団(RSF: Reporters Without Borders)」が「報道の自由度」に関する国際ランキングを発表した。政治・法律・経済・社会文化・安全性の5つのコンテクストから、各国でいかに自由に報道がなされているかを100点満点で評価する。1位ノルウェー(92.65)、2位デンマーク(90.27)、3位スウェーデン(88.84)と最上位を北欧諸国が占めている。
ドイツ(82.04)16位、イギリス(78.71)24位、フランス(78.53)26位とヨーロッパ諸国が続く。アメリカ合衆国(72.74)42位、韓国(72.11)43位、多民族の内紛の絶えないボスニア・ヘルツェゴビナ(65.64)が67位である。日本(64.37)は71位、僅差でキルギスタン(64.25)の72位が続く。ちなみに、キルギスタンは、今も「誘拐婚」の風習があるイスラム教徒の国である。
戦争中のウクライナ(55.76)106位とロシア(38.82)155位、中国(25.17)175位、最下位が北朝鮮(13.92)の180位になっている。残念ながら、71位の日本の「報道の自由度」はG7で最低であり、イスラム諸国や独裁諸国の評価と肩を並べている。その主要な原因として、政治的な圧力と大企業の影響による報道機関の「自己検閲」が挙げられている。要するに、ジャーナリズムが日本政府や企業に「忖度」して、自主的に報道を控えているわけである。
本書の著者・斉加尚代氏は1965年生まれ。早稲田大学文学部卒業後、毎日放送に入社。秘書部・報道局を経てドキュメンタリー報道部に勤務。現在はドキュメンタリー担当ディレクター。著書に『教育と愛国』(岩波書店)がある。
さて、本書には斉加氏が制作した2015年の「なぜペンをとるのか:沖縄の新聞記者たち」、2017年の「沖縄さまよう木霊:基地反対運動の素顔」と「教育と愛国:教科書でいま何が起きているのか」、2018年の「バッシング:その発信源の背後に何が」の4作品の舞台裏が解説されている。これらの作品は「新聞」・「放送」・「出版」・「メディア」の深層に踏み込むドキュメンタリーであり、どれも当事者への直撃インタビューを中心に構成されている。
メディアが最大の効果を発揮するのは「インタビュー」だと常々私は考えている。鋭いインタビューを受ける当事者は、言語メッセージに加えて、口調、目や手指の動き、上半身の揺れ、全身の挙動のような非言語メッセージを視聴者に伝える。そこで視聴者は「嘘」を見抜き「誠意」を測ることができる。
2017年3月23日、森友学園の籠池泰典氏が「安倍昭恵氏から『安倍晋三からです』と封筒に入った100万円を受け取った」と国会で証言した。野党は昭恵氏の証人喚問を要求したが拒否された。そこで何よりも情けなかったのが、日本のジャーナリストが誰一人として彼女に突撃取材しなかったことだ。昭恵氏が酔っ払って歌手とキスした暴露記事は出ても、彼女に直接、籠池証言をインタビューした記事はない。取材すると「殺される」から怖いのか?
本書で最も驚かされたのは、ネットで政府の政策に賛同し、批判勢力をバッシングする匿名アカウントの発信元が民間企業で、その企業に自民党関連会社から資金が流れていたこと。ジャーナリストには勇気が求められている!