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夢の牛タン三昧カレー|パリッコの「つつまし酒」#238

牛タンの特別性

 前々回のこの連載の冒頭で、僕が吉祥寺の駅前で呆然と立ちつくしていたと書いた理由。それが、最近その存在を知ってどうしても行ってみたくなったある飲食店に足を運んでみたところ、自分のうっかりでランチ営業のラストオーダーがぎりぎり終わっており、入れなかったからだったんですが。
 え〜今回、そのお店に無事行くことができました。結果、めちゃくちゃ好きでした。満を持して、ご紹介させてください。
 そこというのが、牛タンが売りの店なんです。
 牛タンって、うまいですよね。焼肉屋に行ったらかなりの人がいちばん初めに頼む定番品でもあります。けれども、はっきり言って高級品。飲食店においてはもちろん、家焼肉をしようと思ってスーパーに行っても、たいてい想像の2倍高い。学習しないので、毎度毎度、想像の2倍高い。だもんで挫折して、「今日はまぁ、豚タンで勘弁してやるか」ということになる。また、豚タンってやつが毎度毎度、想像の2倍は安いありがたい食材なんですよね。
 ただし、あの独特の高貴な旨味と香りっていうのは、牛タンならでは。他に代わりが利かない。そりゃあ世の中、牛タン料理の専門店がいくらでもあるはずですよ。考えてみたら、豚タン専門店ってのはあまり聞かないですもんね。
 と、ここまで牛タンの特別性についてをつらつらと語ってきましたが、そんな僕、および牛タン好きの同志に朗報としか言えないお店の情報を見つけてしまったんですよ、先日。
 そこが「俺の牛タンカレー食ってみな。」っていう、まぁまぁクセの強めな雰囲気漂う店名なんですが。

「俺の牛タンカレー食ってみな。吉祥寺店」

牛タン二毛作店

 こちら、もともとはデリバリー専門でスタートし、人気を集めて川崎に本店、吉祥寺に支店と実店舗がオープンしたお店だそうです。ランチタイムは牛タンカレー専門店で、夜は酒場「本格牛タン居酒屋 牛タン番長」として営業しているとのこと。ただ、夜も牛タンカレーは食べることができるらしいです。

牛タン二毛作

 で、ここに牛タンのカツカレーがあるという情報を偶然知り、もう居ても立っても居られなくなってしまったというわけ。だって、僕のもっとも好きな食べものであるカツカレーが、牛タンと融合しちゃうんですよ? どんなもんか味わってみたいにもほどがあるでしょう。
 というわけで今回は、念には念を入れすぎ、午前11時にお店にやってきてみたところ、うっかり開店時間が11時半でした。相変わらずバカ。けど、とにかくしばらく待って、無事に入れた!

ランチのカレーメニュー

 席に着き、メニューをあらためて眺めてみると、いや〜、魅惑すぎますね。一番人気の「俺の牛タンカツカレー」が、やっぱりすごく美味しそう。ただ、それだけじゃなくいろいろと種類があって、トッピングもあれこれあって、牛タン好き、カレー好き、両方の心をくすぐりまくってきます。
 ひとつひとつのメニューを慎重に確認していったうえ、最終的に僕が決めたメニューは、「俺の牛タンコンボカレー」。なんと「牛タンカツ」「厚切り牛タン」「ソーセージ」と、3種類の牛タン料理がのった超豪華版。税込みで2,180円はランチとしては決して安くない。けど、どうしても食べてみたいものの組み合わせだし、ここは思い切ってぜいたくにいっちゃいましょう。

ドリンクメニュー

 で、またこちら、夜は居酒屋営業をしているだけあって、ランチでも普通にアルコールメニューが頼めるのが嬉しいんですよね〜。当然飲みましょう。合わせるのはビールか酎ハイか……と、昨今増えて来たQRコード読み取りタイプのメニューをスマホで眺めていたんですが、そのなかの「メガ残波」というメニュー名に妙にツボってしまいまして。なにその必殺技みたいな名前。牛タンカツカレーという強敵を迎え撃つにはぴったりそうだし、よし、今日はそれにしよう!

「メガ残波」(858円)

 さっそく泡盛「残波」のソーダ割りの、メガサイズがやってきました。風味強めの焼酎って、炭酸水で割るとなんでこうも爽やかなんでしょうね。
 ちなみに写真だとジョッキのメガ感が伝わりづらいかと思い、お水のグラスと並べて撮ってみた写真がこちら。

でかい

 水のグラスがそもそもわりと大きめなサイズなので、メガジョッキ、相当でかい。この安心感。

好きが詰まりすぎたひと皿

 そしていよいよ、牛タンカツ、厚切り牛タン、牛タンソーセージがのった、牛タン三昧カレーが到着。いよっ、待ってました!

どーん!

 これまた、メガジョッキと並べて写真を撮ってしまったのでサイズ感が伝わりづらいですが、まずはお皿がかなり巨大。目の前にすると大迫力。ごはんの量が「小盛り」「普通盛り」「大盛り」「特盛」から選べ、僕は小盛りを選んだのですが、それでもけっこうな量。特盛を選んだらどんなもんが出てきちゃうんだろう……。
 それでは、まずはベースのカレーライス部分だけを食べてみます。すると、甘み強めで濃厚味、かつしっかりとスパイシーさもある、超僕好みの味で、すでに大好きです。このカレー。
 ではでは、いよいよ牛タンゾーン。

牛タン三銃士

 いきなりいかせてもらっちゃいますね。カツから。揚げたてのうちに。ザクッ! もぐもぐもぐ……。あは〜、こりゃたまらん。見た目からして、ひと口目は当然とんかつ系の味を想像してしまうんですよ。頭ではわかっていても、脳と体が。ところがザックザクで香ばしい衣を噛み締めると、続いて感じるのは、弾けるようなぶりんぶりんの食感。厚みが惜しみないので、口のなかで踊るようなその感覚がかなりの衝撃です。そしてすぐに広がる、牛タンならではの香りと旨味。とんかつ、牛カツ、チキンカツなど、他の何カツとも違う、個人的にものすごく大好きすぎるカツです。肉にしっかりと下味がついているので、カレーがついていないところをそのままプレーンなカツとして味わえるのも嬉しい。メガ残波がすすむ〜。
 と、カツだけでだいぶ興奮してしまいましたが、衣がついていないゆえ、さらに純粋にその美味しさを味わえる厚切り牛タンもこれまた絶品。荒めの肉の食感が楽しく、これまた牛タンならではの旨味がじゅわっと広がるソーセージも良すぎる。
 まさに牛タン三昧。なんて幸せな料理なんだ〜。

ところがさらに

 と、思いきや、大喜びで食べすすめてゆくと、なんと牛タン三銃士の下から、さらにたっぷりの「すじ肉」が顔を出しました。「俺の牛タンすじカレー」というメニューがあることから推測するに、これ、牛タンのすじ肉ってことですよね? とろりととろける味わいが、これまた悶絶もの。
 っていうかさ、これじゃあ牛タン三昧じゃなくて、“牛タン四昧”じゃないですか。出たよ〜、いい店あるある、逆詐欺案件。人生で何度引っかかってもいいやつ。
 以上、個人的にだいぶ幸せなカレーを発見してしまったというご報告でした。他のカレーもいろいろと食べてみたいし、夜の酒場営業にも行ってみたいな〜。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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