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【第91回】なぜ日本の大学が「壊れて」しまうのか?

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

国立大学に対する「国家統制」

2022年10月、「東京医科歯科大学」と「東京工業大学」は国立大学法人・大学を統合することに合意し、2024年度に「東京科学大学」として発足することを決めた。新大学は「国際卓越研究大学」を目指すことを前提にしている。
 
2022年5月、「国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律」が成立した。政府は10兆円規模の大学ファンドを設立し、年3%の運用益を目標として、それを少数の卓越した大学に配分する。
 
仮に年間3,000億円を5大学に分配すれば、各大学には600億円が交付される。現在、国立大学法人の運営費交付金は、第1位が東京大学の約822億円、第2位が京都大学の約561億円、第3位の東北大学が約458億円だから、いかに巨額かわかる。これで「世界最高水準の研究環境」を整えるという。
 
その選定の要件として、文部科学省は、①国際的に卓越した研究成果を創出できる研究力、②実効性高く意欲的な事業・財務戦略、③自律と責任のあるガバナンス体制を掲げている。具体的には「年3%程度の事業規模の成長」を求めている。つまり「稼げる大学」でなければ認定されない仕組みである。
 
さらに、認定された大学のガバナンス体制は、過半数を学外者とする「法人総合戦略会議(仮称)」を最高意思決定機関にしなければならない。よって、大学のあらゆる運営に学外の政財界関係者が口を出すことになる。しかも、総理以下閣僚7名と有識者7名と日本学術会議議長の15名で構成される「内閣府総合科学時術・イノベーション会議」(CSTI)の認可が必要不可欠である。
 
本書の著者・田中圭太郎氏は1973年生まれ。早稲田大学文学部卒業後、大分放送に入社。報道部・東京支社営業部を経て、現在はフリーランスのジャーナリスト・ライター。とくに大学・教育・社会・ビジネス・バリアフリー問題などの分野で活動。著書に『パラリンピックと日本』(集英社)がある。
 
要するに「国際卓越研究大学」は豊潤な予算を与えられるが、その代償として「大学の自治」を放棄せざるをえない。政財界関係者で固めるCSTIが大学運営に口を出す以上、国策研究から軍事研究に至るまで「国家統制」が可能になる。大日本帝国が設立した内地7校(東京・京都・東北・九州・北海道・大阪・名古屋)と外地2校(京城・台北)の「帝国大学」を想い起させる。
 
本書で最も驚かされたのは、日本の国立大学の最高峰に位置する東京大学の総長選考に「闇」があることだ。2021年4月に就任した藤井輝夫・現総長選考に関する数々の疑問点は本書を参照いただくとして、2015年4月から6年間総長を務めた五神真氏についてもCSTI関係者が関与していた疑念がある。
 
2014年の「学校教育法」改正により、かつては「大学の自治」の象徴とされた「教授会」が学長の諮問機関に格下げされた。本書には、そこから学長が開き直って「独裁化」した筑波大学や大分大学、理事会が大学を「私物化」した日本大学や山梨学院大学の実例が挙げられている。文科省に逆らった北海道大学総長が「解任」された裁判、京都大学の吉田寮・タテカン訴訟、早稲田大学の非常勤教職員雇止め問題、東北大学の「院生の8人に1人がハラスメント被害」という調査結果もあり、日本の大学の「闇」の深さに愕然とさせられる。本書は、日本の大学問題に縦横無尽に斬り込んだ力作といえる!

本書のハイライト

全国の大学関係者から「大学が壊れてしまった」と嘆く声が聞こえてくる。「壊れてしまった」と訴える内容は、大学の根幹である教育と研究、大学の自治、それにコンプライアンスなど多岐にわたる。執行部が独裁的に運営する国立大学や、経営者があからさまに私腹を肥やす私立大学など、学生や教職員がないがしろにされている大学は明らかに増えている。(p. 9)

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著者プロフィール

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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