
”ひ鳥貴族”はクセになる? |パリッコの「つつまし酒」#146
ひとり鳥貴族が流行ってるらしい
「鳥貴族」という焼鳥チェーンがありますね。
お酒もつまみもすべて税抜き298円(税込み327円)均一というお得さで、主に関西および関東地方に多数の店舗を持つ人気のお店。
本社は大阪、創業は1985年だそうですが、2005年に東京に初出店したあたりからぐんぐん話題になり始めたような記憶があります。
僕もそのころ家族や友達と何度か行った記憶があるけれど、2000年台後半といえば、僕が古き良き大衆酒場の魅力に目覚め、ライターのまねごとのようなことを始めた時期と重なります。つまり、チェーン店よりも個人店に行くことが楽しくてしょうがなく、以降、鳥貴族とはほぼ縁のないまま、今まで過ごしてきてしまいました。
ところが先日、妻が「最近、鳥貴族でひとり飲みするのが流行ってるんだって〜」と教えてくれしました。なんでも、コロナ禍にあって比較的安全な「ひとり飲み」に特化した、対策バッチリの席などが用意され、ものすごく快適に過ごせるんだそう。
へ〜そうなんだ〜そんなこと言われるとなんだかうらやましくなっちゃうな。よし、僕も試しにひとり鳥貴族、いや“ひ鳥貴族”をしに行ってみよ〜!
今日も元気にうぬぼれ中
と、やって来た、家から徒歩圏内にあった鳥貴族の入り口には、いきなり初心者にはハードルの高い「うぬぼれ中」の文字。これ、やってるってこと? 「それとも、今うぬぼれてる最中だから絶対に覗かないでね」ってこと? まぁ怒られたらそのときだと、おそるおそるドアを開けてなかを覗いてみると、店員さんの元気な「いらっしゃいませ!」の声が。よし、第一関門クリア。
うぬぼれ中=営業中
まずはテーブル席かカウンター席かの希望を聞かれ、ひとり飲みはやっぱりカウンターでしょ、と、そちらを選択。案内された席を見て、すでにちょっぴり感動しちゃいました。
カウンター席へ
だってまず、人ひとりぶんくらいが通れる入り口がある以外は、ほぼ個室なんですよ。イメージ的には、漫画喫茶の半オープンシートというか。木製の椅子とテーブルに体を挟みこむ“すっぽり感”もいい。目の前にはボタンを押すだけで注文が完了してしまうタッチパネル。さらにコンセント。この秘密基地感。こんなスペースでこれからひとり飲みができるなんて、わくわくしちゃうな〜。
するとすぐに元気な店員さんが、おしぼり類とともにスピードメニューの一覧を持ってきて、「焼鳥は少々お時間いただくので、もしよろしければこちらのメニューからなにかいかがでしょう!?」と聞いてくれます。が、僕は鳥貴族においては浦島太郎状態。「あ、え、あ……じゃあ、この『超!白ネギ塩こんぶ』をお願いします」と、詳細もわからないままに注文してしまいました。
ふぅ、第二関門突破……なのか? とにかくビールを頼もう。あれ? この「ザ・プレミアム・モルツ」と「メガ金麦」、サイズがぜんぜん違うけど同じ値段なのかな? ってか、メニュー表に値段が書いてないぞ。あ、そうだここ、均一価格の店なんだった。と、なぜか少しテンパってます。僕。
え〜と……あ、全品298円なんだった
今日の教訓を明日へとつなぐ
すぐにやってきた超!白ネギ塩こんぶは、商品名のとおりで、たっぷりの白ネギの輪切りに塩こんぶ、そしてかつお節がのったもの。よく混ぜて食べると、あ、おそれていたほど辛くないし、ビールのつまみに悪くないぞ。
「超!白ネギ塩こんぶ」
他の料理へのちょい足し薬味としても重宝しそう
ちょっと落ち着いたところで、あらためておつまみを検討していきましょう。あと1、いや、2品は頼んでみたい。焼鳥はマストだよな。あ、この「貴族焼」っての、超でっかいんだよな、確か。それの「ももたれ」いこう。あとはなんだ〜、「塩だれキューリ」「枝豆」みたいないぶし銀もあれば、「とり釜飯」「とり白湯めん」なんて派手なやつらもいる。それがぜんぶ同じ値段。こりゃ〜迷いがいがあるな。
なんてぶつぶつ言いながらタッチパネルを右に左にやっていたら、とあるメニューの存在に気がつきました。「ふんわり山芋の鉄板焼」。これも確か、鳥貴族の名物メニューだったよな。横にでっかく「大好評」って書いてあるし、いまいちどういうものかわかってないけど、これにしてみっか。
「もも貴族焼 たれ」
「ふんわり山芋の鉄板焼き」
やがて料理が出揃います。焼鳥、やっぱりすごい大きさ! あっさりめのタレがぷりぷりの鶏の食感と旨味を引き立て、焼き加減もばっちりで大満足。
山芋のほうは、へ〜、なんだか変わった見た目の料理ですね〜。一見、なまっちろいというか。で、味のほうは……お〜、すりおろした山芋にだしを効かせて、ふんわりとろりと焼きあげた? ちみちみつまめる感じが、ちょっと上品なもんじゃ焼きっぽくもあり、酒のつまみにばっちりじゃないですか。やっぱり楽しいぞ、鳥貴族。
生卵をくずしてみたらちょっと味がぼやけたので
そのエリアは思いっきり混ぜ、さらに「白ネギ塩こんぶ」を混ぜたらよりもんじゃっぽく
こりゃまだまだ飲めるぞと、お酒のおかわりを検討。なるほど、レモンサワーなんかはあるけど、甘くないプレーンチューハイはないのね。となればハイボールか? え? ハイボール類のなかで「ジムビームハイボール」だけ、メガサイズじゃないすか。やった! それだ! ラッキー!
メガジョッキは迫力満点
といった感じで、ひとり心のなかで大はしゃぎしながら楽しませてもらいました、初めての“ひ鳥貴族”。空いている時間帯なら、PCを持ちこんで仕事だってできそうだし(え? 酒飲みながら仕事するな? たまにはいいじゃないですか)、なんだか僕、トリキにハマってしまいそうです。
ちなみに今回の訪問で、いくつかの教訓も得ることができました。まず、生ビールは他でも飲めるから、1杯目はメガジョッキ金麦が良さそう。それから、つまみのマストは貴族焼。これのもも or むねの、塩 or たれ or スパイスのどれかは必ず頼もう。逆に、スピードメニューや山芋焼きは個人的にマストとまではいかないので、そののりしろでなにを頼むかを毎回楽しもう。貴族焼きがでかいから、3品じゃなく2品でじゅうぶんだな。で、お酒の2杯目はもちろんメガハイボール。
以上で、メガ酒2杯と料理2品、締めて税込み1308円!
うん。次回はもっと華麗に、さながら舞踏会で踊る貴族のように、トリキとダンスできる自信があります。僕。
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco