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ビットコインvs.イーサリアム――『Web3とは何か』by岡嶋裕史 第2章 NFT⑦

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第2章 NFT⑦――ビットコインvs.イーサリアム

イーサリアムのほうがトランザクションが多い

下の2つの図はビットコインとイーサリアムの比較データである。

図 ビットコイン https://blockchair.com/ja/bitcoin
図 イーサリアム https://blockchair.com/ja/ethereum

ビットコインの運用開始(ブロック0が作られた日)は2009年1月4日、イーサリアムは2015年7月30日である。イーサリアムのほうがずっと後発だが、ブロックチェーン全体のサイズは追いつきつつある。ビットコインが394GBで、イーサリアムが373GBだ。

なぜそうなるかと言えば、イーサリアムのほうがトランザクション数がずっと多いからだ。直近24時間のトランザクション数はビットコインが25万なのに対して、イーサリアムは117万である。

平均ブロック生成時間もまったく異なる。この統計ではブロックチェーンは9分36秒に1回、新しいブロックが作られる。概ね10分になるよう自動的に調整されているのだ。ひるがえってイーサリアムは13.42秒に1回、ブロックが作られている。総ブロック数の違いを見て欲しい。ビットコインは72万だが、イーサリアムはすでに1434万に達している。

ブロックチェーンの世界において「ブロックを作る」とは、取引(トランザクション)を検査・承認して、承認済みトランザクションをまとめることだった。つまり、ブロックを作るタイミングでその取引は有効になる。であればブロックを作る間隔は短ければ短いほどよいが、ブロックを作ることの煩雑さを考えると間隔が長い方が各種コストは圧縮できる。

ビットコインの10分はそのバランスを狙ったものだ。対してイーサリアムはおよそ15秒でブロックを生成するように調整している。これは野心的な数値だ。ネットワークにかける負荷をいとわず、素早いトランザクション処理を実現しようとしている。

将来、たとえばコンビニの店頭で暗号資産で商品を買いたいと思ったとして、トランザクションがどれだけの速度で承認されるかは大きな意味を持つ。

スマートコントラクト

ビットコインと差別化しなければ生き残れないという立ち位置が、イーサリアムに野心を抱かせ、革新へ駆り立てている。スマートコントラクトに先鞭をつけたのもイーサリアムだ。

スマートコントラクトとは、端的に言ってトランザクション内に組み込まれたプログラムである。ビットコインのしくみではトランザクションがやり取りするのはビットコインのデータだけである。お金のやり取りをしているだけと考えればよい。

イーサリアムはトランザクションの中にプログラムを組み込めるようにした。プログラムはイーサリアムを構成するノードで実行される。

おそらくイーサリアムの設計者たちは、イーサリアムのネットワークを1つのコンピュータに見立てている。私たちがWindowsマシンでアプリを実行すれば何らかの結果が得られるように、イーサリアムにスマートコントラクトのトランザクション(取引)を投げると実行して結果を戻してくるのである。

プログラムというのは、千差万別のアプリ(プログラムだ)があることからもわかるように、内容次第でいろいろなことができる。プログラム=コンピュータに対する指示命令書であるから、そのコンピュータが実行可能なことであれば理屈の上ではなんでもやれるのだ。

「イーサリアム」は、そういうネットワークに参加している個々のコンピュータの集合体である。

つながるときの決まりや、集合体であるがゆえの制約があるから、私たちの手元にあるWindowsマシンのように自由に稼働できるわけではない。トランザクションサイズの定めもあるから大きなプログラムを書くわけにもいかない。

たとえば、「そうかスマートコントラクトとはプログラムのことなのか。では、プログラムを書けばイーサリアム上でファイナルファンタジーがやれるのだな」と頑張っても無理だ。

それでも、ビットコインに比べたらやれることは飛躍的に増えた。プログラムもトランザクションに含まれているから、改ざんできない。そこでみんな夢を見たわけである。とても透明で、安全で、民主的なしくみを作れるのではないかと。

DAO(分散型自律組織)

それを言語として表現したのがDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)だ。

ブロックチェーンの特徴は、その意志決定にあると指摘した。偉い管理者ではなく、PoWなどのやり方を通じて、ネットワークに参加する1人1人が「その取引はおかしい」「承認する」などと表明できる。意見が割れたときは、多数決などのしくみでチェーンの態度が決まる。

ビットコインではこれをお金のやり取りだけに使っていたが、もっと汎用的なもの、何かのプロジェクトやベンチャー組織の運営、お金以外の価値のやり取り、コミュニティの意志決定などに使う。

これらの意志決定は、私たちがよく直面するように、えてして論理的でないプロセスで決まったり、声の大きい人の意見が通ったりする。忸怩たる思いはいだくものの、ちゃんとその問題に向き合うためのコストが大きいので、まあ仕方がないかと不合理を飲み込む。仕事は終わったはずなのに、上司がまだいるから帰れない、PTAの予算がどうもおかしいが会長の報告に対して監査役は異を唱えないといった不合理である。

こうした意志決定にDAOを使うと、何せシステム化されているので対面の会議でだけ元気になるふだんあんまり仕事をしていないおじさんや、PTAのめんどうくさそうな会長の顔色を窺うことなくダメなものはダメと意思表示することができる。行動記録が残り、ネットワークの参加者はそれを見ることができるので、会計がおかしいなと思ったら会長の目を気にせず確認することもできる。

ビットコインはお金に閉じたDAOだったが、イーサリアムはスマートコントラクトなどの機能を追加することで汎用的なDAOの器になる道を選んだのである。このやり方は上手である。ビットコインとの差別化を図っている点と、ちゃんとお金も絡めている点が秀逸だ。

プロローグでも述べたように、ブロックチェーンのDAOの側面は面白いが、誰が担い手になるのかという問題がある。学校事務のブロックチェーンなど運用しても、利潤を生み出せない。結果的にそのチェーンは長続きしないか、少数の人が動かす閉じたチェーンになって本来の透明性や永続性を失うだろう。

でも、イーサリアム上でDAOを作れば、そこを流れるトランザクションにはイーサが紐付くので、イーサを欲する者がマイニングをしてくれる。少なくともイーサリアムが続いている間は、自分のDAOも続いていくだろうと考えることができる。

Dapps(分散型アプリ)

違う表現を用いるなら、ビットコインはお金だけのブロックチェーンだったが、イーサリアムはそこにプログラムを追加した。イーサリアムの参加者同士は面識もなく、お互いを信頼してもいないが、そこで動くプログラムやその実行結果は信頼できる、そういう基盤を作ったのである。

このとき、ブロックチェーン上で動くアプリケーションのことをDapps(だっぷす:分散型アプリ)と呼ぶ。

普通のアプリとどう違うのか?

ブロックチェーンの特徴と一緒である。通常のアプリはサーバで動くものにしろ、クライアントで動くものにしろ、故障などで動作しない期間がある。でも、ブロックチェーンは(お題目通りなら)永続するので、ダウンタイムがない。また、(これはオープンソースのアプリもそうだが)プログラムの内容をチェックすることもできる。ログも残るし、アプリの変更はトランザクションを経て行われるので、管理者が勝手にプログラムを書き換える心配もない。

イーサリアムの参加者はお互いをちっとも信用していないが、そこで流通するプログラムの演算結果は信用することができる。

一般的なプログラムは中身がどうなっているかわからないし、その実行結果だってどんな過程で導かれたのか不明である。

私の好きな分野だと、ソシャゲのガチャなどいつも論争が起こっている。「スーパーレアカードの排出率は0.02%ってなってるけど、どうしてもそうは思えない。絶対内部プログラムではもっと低い値にしているに違いない」といった疑心暗鬼がうずまくのだ。

これをDAOで行えば、「レアカードが本当に1%の確率で排出されるかどうか」を利用者が自分の目で確認することができる。とっても民主的だ。消費者庁を動かしてゲーム会社の監査をしてもらうより、ずっと簡単に不正がないか確かめることができる。

De-Fi(分散型金融)

こうした流れを受けて、様々な形態のDAOが登場した。コミュニケーションが目的だったり、ゲームが目的だったりと本当にいろいろあるが、やはりブロックチェーンの成功事例として巨大すぎるビットコインがあるためか、お金に関するものが多い。こうしたサービスをDe-Fi(でぃーふぁい:分散型金融)と呼ぶ。

そのものずばりで新しいコインを発行し将来の価値向上を目指すもの(ICO:Initial Coin Offering:新規暗号資産公開)や、新たな金融業務を始めるものがある。たとえばデリバティブをやったり、取引所を営んだりだ。

暗号資産とドルや円、異なる暗号資産同士を交換する取引所があることはすでに説明した。ブロックチェーンが堅牢であっても、リアルな世界や他のブロックチェーンを結ぶ結節点である取引所は脆弱性になりやすく、ブロックチェーン以外のシステムや人手を介するのであれば不正の余地もある。

そこでDappsを使って取引所機能を果たしてしまえば、そうした懸念が払拭できるのではないかと考えたのがここで説明した取引所(DEX:分散型取引所)である。やはりすべて自動で、プログラムや実行結果が改ざんできず、透明で、みんなが参加できることに利点を見いだしている。

De-Fiは現在進行形で星の数ほどの派生サービスを生み出し続けている。イールドファーミングは仮想通貨を預けて金利や手数料、何らかのトークンなどを受け取るもの、NFTステーキングはNFTを預ける(貸し出す)ことでやはりコインやトークンなどの見返りを受け取るものである。NFTを担保として貸し付けを行うNFTレンディングもある。(続く)


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