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本気の大人のお子様ランチ|パリッコの「つつまし酒」#244

みんな大好きお子様ランチ

 公私共にお世話になっている漫画家のラズウェル細木先生。その代表作といえば、言わずと知れた酒飲みのバイブル漫画『酒のほそ道』です。
 昨年から「OHTABOOKSTAND」というサイトで、「小さなシアワセの見つけかた 『酒のほそ道』の名言」という連載をやらせてもらっていまして、その内容は、僕の飲み友達でライターのスズキナオさんと交互に、酒ほその名言をピックアップして紹介してゆくというものなんですが。
 おのずと、大好きで何度も読んだ漫画ではあるものの、ふたたびじっくりと読み返すことになり、最近特に「いいなぁそれ!」と思ったのが、第30巻収録の「デパート呑み」。主人公の宗達と飲み友達の麗ちゃんがデパートの大食堂で飲むという話なんですが、そこで宗達が燗酒のつまみにするのが、なんと「お子様ランチ」なんですよね。
 これが妙にうらやましい。確かにお子様ランチって、酒のつまみの優等生である「幕の内弁当」の洋風版的でもあるし、大人にとっても好きなものしか入っていない。また、もともとはお子様用に作られたものを大人が頼んで、あまつさえ酒のつまみにしてしまうという、ちょっとした背徳感も楽しい。
 そういえば以前、ファミレスチェーンの「ガスト」で、「大人のお子様ランチプレート」なるメニューが提供されていることを知り、それをつまみに飲んでみたことがあるんですが、あれも楽しかったな。やっぱりみんな、好きなんですよね。お子様ランチが。

ガストの「大人のお子様ランチプレート」

主役はお赤飯

 ところで話はがらりと変わりますが、ここ1、2年で個人的好きな食べものランキングの順位をものすご〜く上げてきたやつがいまして、それが「お赤飯」なんです。あの、おこわ特有のもちもちっとした食感と、小豆の豆っぽさ。そこにごま塩をかけるというのも理想的で、主食というより、ひと口ごとにしみじみとうまい酒のつまみ。
 そこで思ったんですよね。お子様ランチの定番といえば、チキンライス。あれをお赤飯に置き換え、さらにその他のおかずたちも自分好みのものに置き換え、ガストで食べたのもよかったけど、さらに酒のつまみになる、自分だけの「本気のお子様ランチ」を作って飲んでやろうと。
 はい、やっていきます!

まずは主役のお赤飯

 というわけで、大きめのプレートにまずお赤飯をのせます。もちろん自分でこさえるのもいいでしょうが、市販のものを買ってきてしまうのが手軽でしょう。ふだん意識していない人の視界には入っていないものの、実は驚くほど世に浸透し、どこででも手に入ってしまうのが、お赤飯という存在。洋風のプレートに、そんなお赤飯がのっている。すでにこの時点でなかなかの違和感が生じており、違和感ファンの僕としては大変興奮します。
 で、ここから。お子様ランチを構成する定番というか最大公約数といえば、ハンバーグ、エビフライ、目玉焼きもしくはオムレツ、フライドポテト、少しのナポリタン、それから彩りと栄養要素として、ブロッコリー&ミニトマトといったところでしょうか。それらを容赦なく自分好みに置き換えていきましょう。もう、考えるだけで楽しい!
 まず、目玉焼きもしくはオムレツなんですが、ここは定食屋飲みの定番「ハムエッグ」にしてあげると、数倍はテンション上がっちゃいますよね。あくまで酒飲み的にですよ。

作って
のせる

 はは。洋風プレートの上で、お赤飯にゆるやかに寄りかかるハムエッグ。このわけわからん景色を見られただけでも、すでに満足。優勝確定。どんどんいきましょう。
 海老フライですが、とてもごちそう感があって大好きなメニューであるものの、あまりにも主役級で、それだけでお腹がいっぱいになってしまいかねない。そこで今回は「ゆで海老」でいこうと思います。

海老

 スーパーへ行ったら、いつもお手頃な赤海老がさらに割引になってたんで思わず買いすぎてしまったんですが、とにかく全部ゆでちゃいます。今夜食べきれなかったぶんは明日食べればいいし。

塩ゆでにして
盛りつける

 それからフライドポテト。これも、より酒がすすむ「塩辛じゃがバター」にしちゃいましょうよ。

あとで塩辛のせます

 どうもこう、年齢のせいか油ものを避けがちな傾向は否めませんが、とにかく大好物を大皿に盛り付けていくという行為が楽しい。
 残るハンバーグは、つくねでいこうと思っていたんですが、スーパーに「れんこんのつくね挟み焼き」なる渋い一品が売られていたので、それを採用。ナポリタンは「明太スパサラダ」、ブロッコリー&ミニトマトは、色味のみを揃えて「みそきゅうり&梅干し」とし、いよいよ完成!

いいー!

EAT

 と思いきや、最後にもうひとつ大切な要素を忘れていました。お子様ランチといえば、中央に立てられた旗。そこで100均に探しにいったところ、ものすごくシンプルな「EAT」というメッセージの書かれた旗が見つかったので、それを採用。

「EAT」

 かたわらにチューハイも用意し、はい、これであらためて完成! 本気の大人のお子様ランチ!

達成感〜

 いや〜、いいですね。あらためて。
 いきなりこの料理を見せられて「お子様ランチ!」と即答できる人はそうそういないでしょう。しかし「じゃあなに?」と聞かれたら、それも答えられない、謎のワンプレート。だけど、個人的に好きなものしかのっていない。理想系じゃないですか、酒のつまみとして。
 ではでは、いただきま〜す!
 と、食べはじめて気がついたんですが、このプレート、ほぼほぼ和食で構成されているんですよね。ハムエッグは別として、スパゲティも味のメインは明太子だし。つまり、お子様ランチというよりはむしろ、おせちに近いのかもしれない。けれども、それが1月のなかばをすぎ、ほんのりと寂しい気分になっていた正月好きの僕の気分にドンピシャで、とっても楽しい。ニューイヤーカムバック。
 で、用意した料理たちは、当然どこをつついても好きなものばかりで、お酒がすすんでしょうがないんですが、やっぱり要となるのはお赤飯。

こいつ

 単体で食べてしみじみと美味しいのはもちろん、みなさんは体験したことがありますか? お赤飯とハムエッグが融合した味を。

人類未到の領域かもしれない

 これが、ハムエッグはお赤飯より、絶対にチキンライスや白メシやトーストのほうが合うし、なにかしらの化学変化が起きているということもない。ただお赤飯とハムエッグが口に入ってきたというだけの味。だけど、そこがいいじゃないですか。お互いに信念がはっきりとしていて、あ、こいつら、やっぱり頼もしいやつらだったんだなと。自分の後任をまかせても、きっとこの会社は大丈夫だなと。急に変なモードになりましたが、どっかの会社の部長あたりだったら、そう思えそうな。
 で、そんな感慨とともに酒を飲む。うん、いい。いい酒。
 というわけで、とにかく素晴らしく楽しかった今回の試み。みなさんもぜひ、自分なりの本気の大人のお子様ランチを作っていただき、さらにもしよかったら、それを見せてもらえたらな〜と思いました。

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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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