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女性のエンパワーのために男性をディスる必要はない―朝ドラ「カーネーション」

光文社新書の永林です。今日は5月の第2日曜日、母の日です。母の日は世界中に存在しますが、日付や習慣が異なります。たとえばイギリスではラッパズイセン、オーストラリアでは菊の花を贈る習慣があります。日本ではアメリカにならって、母親にカーネーションを贈るのが一般的ですね。今回の「ジェンダーで見るヒットドラマ」は、日本の作品。少しさかのぼって2011年のNHK連続テレビテレビ小説「カーネーション」を取り上げます。

6月16 日発売の治部れんげさんの新著「ジェンダーで見るヒットドラマ:韓国、アメリカ、欧州、日本」の原稿を、光文社新書noteで先行公開しています! ↓↓

書籍発売後、有料記事になりました。記事後半はご購入いただくか、書籍でお楽しみください。

◆男女不平等社会の常識を突き破った“女社長”のバイタリティ

「カーネーションは」NHK朝の連続テレビ小説、通称・朝ドラの定番である女の一代記ものです。ヒロイン小原糸子(尾野真千子)のモデルは、大正生まれのファッションデザイナーで洋装店経営者、小篠綾子。綾子の娘は3人とも(コシノヒロコ、コシノジュンコ、コシノミチコ)世界的なデザイナーとして活躍しています。

主な舞台は大正から昭和、つまり明治憲法の時代です。「カーネーション」は、制度化された女性差別の壁を意思と努力で打ち破ったスーパーウーマンかつ、戦争未亡人の物語なのです。

動画は椎名林檎による主題歌「カーネーション」(椎名林檎official channelより)

ドラマは始めから、男尊女卑の理不尽を少女の視点で描きます。糸子の幼少期、大正時代には女性に参政権も財産権もなく、同世代の男の子からは「女のくせに」とけなされるのが日常茶飯事でした。学校では、先生が「女は結婚するのが幸せだ」と教えます。呉服屋を営む父のお遣いで代金回収を手伝い、立派な成果を上げても「女の子だから」後は継げないと言われてしまいます。極めつけは、大好きな地元岸和田の「だんじり祭り」で山車を引きたい、と言った時に「女の子はダメ」と却下されるシーンです。

この環境でも明るく真っすぐにやりたいことを主張する子ども時代の糸子(二宮星)は、強くてかわいいです。頬をふくらませ、目をきらきらさせて、画面から飛び出してきそうな勢いで話したり走ったりする彼女を見た瞬間、私はこのドラマに釘付けになりました。

ある日、糸子は、神戸にある母方の祖父母宅を訪れた際、外国人が集まってダンスパーティーを開いている洋館をのぞきます。着物とは全く違う美しい服に心を奪われた糸子は、それが「どれむ(ドレス)」だと知り、帰宅して画用紙に「どれむ」の絵を描きます。一生を捧げる仕事が見つかった瞬間でした。

糸子の元気は画面を通じて視聴者に伝わってきます。けれども皆が着物を着ている時代、しかも制度化された男尊女卑がある中で、糸子の進路選択は容易ではありません。女学校を辞めて洋裁の勉強をしたい、と言うと父親に張り飛ばされてしまいます。糸子の父は、現代なら児童虐待で通報されるような行為を毎日のようにやっています。こういう親は当時、たくさんいたでしょうし、今も少なからずいるのでしょう。

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