見出し画像

いろいろ間違ってるおでん|パリッコの「つつまし酒」#182

おでんににんじんは合わないの?

 おでんの美味しい季節になりましたね。我が家でも先日、今季初のおでんを作りました。ついこないだまではTシャツにハーフパンツで過ごせるくらい暑かったのに、急に寒いなと。なにを着たらいいんだよと。そんな朝、ふと「あ、おでん食べたい」と思ってね。
 以前にも書いたかもしれませんが、我が家のおでんのベースは決まっていて、まずは鶏皮を買ってきてぐつぐつ煮込むんです。これがいいだしになる。もちろんそこに、鳥の手羽肉なんかを加えてもいい。よく火が通ったら、ミツカン「プロが使う味 白だし地鶏昆布」を好みの塩気になるくらいまで加えて味つけ。あとはまぁ、好きな具材を加えるだけなんですが、鶏だしがじゅっと染み込んだ大根や、豆腐や、ちくわぶあたりが、僕の大好きなおでんダネ。1日の終わりに、そいつらをはふはふとほおばる幸せといったらないですよねぇ。
 ところで、今季もそんな幸せを噛みしめていたら、ふと思ったんです。おでんの定番具材ってけっこう決まってるよなと。たとえば野菜なら、大根やじゃがいも。ちょっと変わり種でトマトなんてのは見たことがあるけど、たとえばほら、大根と形も似ている「にんじん」のおでんなんかは見たことがない。合わないんだろうか?
 そう考えたら、作ってみたくなってしまったんですよねぇ。定番のおでん種以外の食材で作る、「いろいろ間違ってるおでん」を。
 今夜も冷えそうだ。いっちょ、そいつで晩酌としゃれこむか。

変な料理!

 そこでスーパーへ行き、なるべくおでんに入ってなさそうという基準で買い集めてきた食材が以下。

・にんじん
・玉ねぎ
・ピーマン
・にんにく
・エシャレット
・笹かま
・厚焼き玉子
・いかげそ
・サイコロステーキ

 どうです? いや、あるところにはあるんでしょうが、あんまり見たことがない奴らでしょう。おでん鍋のなかでは。
 んじゃあまぁ、作っていきますかね〜。

にんじんを下ごしらえ

 僕、大根のかつらむき、面取り、飾り包丁の工程がけっこう好きなんですよ。それをまさか、にんじんでやる日が来るとは思ってなかったな〜。が、なんの違和感もなく完了。
 そうしたらまず、鍋に根菜類を入れて火にかけます。

にんじん、玉ねぎ、にんにく、エシャレット

 ぐつぐつしだしたら鶏皮を加え、鶏皮に火が通ったら白だしで味つけし、その他の食材も投入。
 この時点ではなんて言うんでしょうか、単にラーメンのスープを作っているだけのようでもありますね。

いい香りだけどさ

 ところが「いかげそ」を入れたところで事態が急展開。突然鍋全体が赤黒い“いか色”に!

きゃ〜
サイコロステーキは牛すじをイメージして串に刺し

 が、めげずに串に刺したサイコロステーキなども加えてゆき、全体にしっかりと火が通ったら、はい完成! いろいろ間違ってるおでん!

うわ〜、変な料理!

締めのラーメンが絶品

 よくよく煮込んでいったら、赤黒かった色味もなんとか程よい茶色に落ち着きましたね。よし、大好きな樽酒でもすすりながら、味わっていってみましょうか。

準備完了

 まずは気になるつゆからズズズ……う〜ん、なんだろうこれは。ドンピシャでおでんって感じではないんだよな。やっぱり、大根が入るか入らないかはおでんらしさの重要な要素ですね。といって、ポトフでもないし、煮物でもない。やっぱり、いちばん近い料理はおでんなのかなぁ。うん、今日はその前提で食べすすめていきましょう。

野菜類第1弾

 まずは、もっとも気になっていたにんじんから。あぁ、これは大根に負けますね〜。柔らかくて甘くて美味しいんだけど、やっぱりあのじゅんわりとだしの染み込んだ美味しさにはかなわない。続いてピーマンは、おぉ、青みが強いな〜。もしかしたら丸ごと放りこむのではなく、少し切り込みなどを入れておくとよかったのかもしれない。
 ところが玉ねぎ! これが大あり! 甘くて柔らかくて、あくまでおでん鍋のなかにおいての話ですが、大根にだって負けないポテンシャルを感じますよ。よし、次回からおでんを作るときは、玉ねぎ入れよう。

続いては魚介&肉

 たこの足ってのはおでんの定番食材ですが、いかげそってのはあんまり見ないですよね? やっぱり、鍋をいか色にしてしまうからかな。ただ、食べてみたら味はばっちり。まぁ、いかげそをうまいだしで煮込んだだけなので当然と言えば当然なんですが、ぷりぷりっとした食感といかの旨味で、酒と合うのなんの。
 続くサイコロステーキが、これまたいい! おでんってそもそも、肉っ気が少ない食べものじゃないですか。入ってても、牛すじかウインナーかくらいで。そこにこの、牛肉のガツンとしたインパクトがいい。しかも串なので食べやすく、はっきり言って、おでんに入ってたら取り合いになりますよ。あ〜、今夜、全国のおでん屋さんを1軒1軒回って教えてあげたい!

その他のやつら

 ニンニクは、中華の火鍋なんかに入ってる、とろとろになったあの美味しさ。間違いないです。エシャレットも同様にとろとろになっているんですが、ほんのりと辛味と苦味のある味はそのままで、むしろ味がぼやけてしまったかな。あのしゃきしゃき感が恋しい! 練りものはおでんの大定番ですが、そのなかではあまり見かけない笹かま。これは違和感なし。同じく大定番のゆで玉子の変化球として入れてみた厚焼き玉子も、じゅわっとうまかったです。
 といったところで、いろいろとおもしろかった今回の検証ですが、今後積極的におでんに加えていきたいと思ったのは、玉ねぎとサイコロステーキ! いかげそもうまかったけど、色が変わっちゃうのがネックということで。
 ところでですね、途中に「これはラーメンスープでは?」なんて言ってましたが、最後のシメとして中華麺をゆで、さまざまな食材の旨味が染み出したこのスープを使ってラーメンを作ってみたんです。

いろいろ間違ってるおでんスープのラーメン

 そしたらこれが、シンプルながらも心身にじわ〜んと染み入る美味しさで、抜群! 旅先でふらりと入った食堂で出てきたら、あとあとまで「あのラーメン、うまかったよね〜」と思い出に残りそうなほど。
 鶏皮や野菜に加え、いかの旨味が隠し味になってるのがポイントだったのかな。これからもおでんを作る際は、積極的にいろいろと間違えてみようっと。


つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方
つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン
好評発売中です!

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

バックナンバーはこちらから!

光文社新書ではTwitterで毎日情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください!