
かぶ価急上昇|パリッコの「つつまし酒」#216
あれ、もしかして?
飛来したんですよ、確信が、脳内に、突然、食べていた時に、先日。
出だしから倒置法だかなんだかよくわからない不気味な文章を書きはじめてしまってすみません。いや今、若干興奮気味でして。
情報を整理しましょう。先日、僕がなにを食べていたのかというと、「かぶの葉っぱとあぶらあげを醤油味で炒めたもの」。どのような確信が我が脳に飛来したかというと、「野菜のなかでいちばんうまいのって、もしかしてかぶの葉っぱじゃね?」というもの。
わかっています。結論を急ぐのは得策ではない。というか、種類も旬も調理法も膨大な野菜に、順位をつけるなんて意味のないこと。けれどもその瞬間だけは確かに、確信してしまったんです。「かぶの葉っぱ、野菜のなかでいちばんうまい!」って。



そもそも、かぶって超〜美味しいですよね。ところがさて、立派な葉っぱつきのかぶを買ってきたとしましょう。失礼ながら僕、今まで葉っぱのほうは、「本体の付属品」という捉えかたをしてしまっていたんです。大根やにんじんの葉っぱも同様ですが、捨てるのももったいないし、刻んで炒めて食うか〜、ってな感じに。ところがそれを長年食べ続けてきて、先日、突然思ってしまったんですよ。あれ? かぶの葉っぱ、ちょっと度を超えてうますぎない? って。
かぶからわさわさとしたそれを切り落とし、茎も葉もてきとうな長さに切り、ごま油で炒める。そこにあぶらあげ(今回は冷蔵庫ストックの事情により多すぎましたが、少量もまた良し)とごまを加え、じゅんわりと炒め、仕上げにだし醤油のみでささっと味つけをする。ごはんと合わせてふりかけ的に食べたければ、それぞれの食材をもっともっと細かく切っておくのもいい。とにかく、たったそれだけの料理の、なんと滋味と味わいの深いことか。
ほの甘く、ほの苦く、青っぽい香りがして、茎はしゃきしゃき、葉はとろり。キャベツやレタスや白菜などの花形葉もの野菜とはまた違う、自分も年齢を重ねてきたからこそ沁みる円熟味というか。できたてもうまいが、たっぷりと作った残りをタッパーに入れて冷蔵庫にしまい、翌日冷たいまま食べるのもまた、味と油がなじんでいてうまい。あぁうまい。うまいうまい。うま〜い!
「かぶみそ」の特別感
そもそもかぶって、本体自体の存在感が強力ですよね。たとえば、生のかぶをただ切ってみそを添えただけの「かぶみそ」なんてのは、酒場のつまみの定番ですが、素っ気ないまでにシンプルでいて、どこまでも特別感がある。これが、大根、にんじん、きゅうりあたりだったら、ざっくりまとめて「野菜スティック」ですよ。なのに、かぶだけは単体料理になりえてしまう。どうです? すごくないですか? ……あ、それを言ったら、「もろきゅう」とか「梅きゅう」もあるか。まぁ、気づかなかったことにしておくか。
また最近、「ちょっといい大根おろし器」が、我が家に導入されたんですね。そこでふと、かぶをおろしてみたらどうだろう? と思って、やってみたんです。そうしたらま〜、これが想像以上! 基本的には似ているものの、大根おろしよりもずっと甘みとまろやかさがあり、ピリッとした辛さは控えめ。そこにしらすをのせて醤油をかけて「しらす“かぶ”おろし」にしてやったらもう、塩気と甘みの引き立て合戦がすさまじいんです! これは確実に、今後の僕の晩酌の定番メニューになりますね。


そういえばこの連載では以前も、「直火皿晩酌の楽しさ」という回で、オリーブオイルと塩のみでソテーした地物のかぶのソテーを食べたことがありました。あれも本当、ぜいたくの極みとしか言えない美味だったな〜。

たどり着いた究極の1杯
とまぁ、かぶは本体も葉っぱも、どうやって食べたって美味しい。そこは疑う余地がない。ここまではオッケー。
じゃあ最後に、僕が最近気に入っている、かぶの旨味をとことん堪能できるレシピをご紹介しておきましょうか。それが、「かぶとにんにくと鳥手羽の塩煮込み」。
なにかにヒントを得たレシピってわけではなくて、何度も言いますが、かぶって美味しすぎるので、なるべくシンプルな味つけで、煮込んでとろとろになったところを味わうのが究極なんじゃないか? と、たどり着いた調理法。そこに、個人的に好きで、かつ合わないはずがない食材である、にんにくと鳥手羽を加え、塩のみで味つけします。
それではまず、くし切りにしたかぶ(今回は中サイズ4つ)を鍋へ。この時、よく洗ったヘタの部分も一緒に入れてしまいましょう。

続いて、上部分をカットしたにんにくひとふさも入れ、それらが浸るくらいの水と、小さなコップに1杯ほどの日本酒も加えて火にかけます。沸騰してきたら、よくだしの出る鶏の手羽先肉を好きなだけ加え、出てくるアクはとっておきましょう。

野菜にも肉にもおよそ火が通ったところで、味を見ながら塩適量で調味。このとき、白だしやら鍋つゆやら好きなつゆを加えてももちろんいいんですが、このレシピに関してはまず、塩だけでシンプルに味つけするのが僕の好みです。
さらに全体をぐつぐつ煮、野菜や肉がやわらかくなったら、炒めものにせずに少しとっておいたかぶの葉を数本鍋へ。あまり煮すぎると葉っぱ部分が溶けて鍋を汚してしまいますので、このくらいのタイミングが良いと思われます。

はい、これで完成! かぶとにんにくと鳥手羽の塩煮込み。

食材3種と塩のみながら、スープに満ちた深い深い旨味が心と体に沁みる味。にんにくは箸で押すとふさから簡単に外れるほどにとろとろで、鶏肉はほろりとやわらかく、なにより、旨味が飽和したクリーム状のかぶの、絶大なる癒しパワー!

この冬、何度でも作り、ぬるめの燗酒あたりと合わせたい、至高の一品でございます。まさに、かぶ様様。
あ、ちなみに以下余談。
このたっぷり作った煮込み料理、ひととおりシンプルな味を堪能したら、お好みの野菜や肉などをさらに加え、白だしやら鍋つゆなども好きに加え、進化した和風ポトフ風料理にしてしまうのもまた楽しい。うちの6歳の娘なんかは、そうしたほうがよく食べてくれますしね。

今回は、追いにんじんと追いキャベツをたっぷりと加えて煮込んでみました。
で、さらに、それらの具をあらかたさらってしまうと、すっかりかぶが溶けてしまって、どの食材の原型もなくなった濃いめのスープが残ります。そこへ、シメとして必ず加えるべきが、生タイプの中華麺! これはもう、必ず! しかも、別鍋でゆでたりせずに、鍋に直接入れて煮込む。そうすることによってスープは、もはやこれ以上はないってくらいの、どこかコーンスープをも想起させる超特濃とろとろまったりうっとり状態となり、それをまとったやわめの中華麺の美味しさと言ったらもう、人類が想像できるレベルを超えちゃってるんですよ……。
僕はこの現象、以前から「煮詰まり鍋のポタージュ化現象」と呼んでいて、その必須野菜は“白菜”だと思っていたんですが、最近の研究によると、どうやらそうとも限らないよう。かぶでもいける。今後も検証は必要ですが、ある一定の成分を含む野菜をじっくりと煮て、中華麺を加えることによって発生する、鍋の神様からのプレゼントのようですね。


そうしてたどり着いた、この1杯のシメラーメン。僕は「白菜ポタージュ」から転じて「白ポタラーメン」と呼んでいるんですが、今回の場合は白菜、入ってないしなぁ。まぁ、考え直すのもめんどうだし、ひとまずネーミングはそれでいいか!
とにかく、今夜もかぶ食べよ〜っと。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco