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NFTで、あと10年は食える――『Web3とは何か』by岡嶋裕史 第2章 NFT⑥

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第2章 NFT⑥――デジタルデータなのに一品もの

ただ、実態としては絵画などのアートはこの方向へは進まなかった。確かに、これまでに築き上げてきたビジネスモデルを転換するのは容易ではないし、商品としての性質も書籍などと比べれば薄利多売の大量消費には向いていない。

そこで2つ目の選択肢がフォーカスされる。デジタルデータであるのに、一品ものの商品として存在することを目指すのだ。それも、販売時に握手をするとか、毎年購入者の誕生日にメッセージカードを送るとか、コピーされにくいサービスとの組み合わせではなく、デジタルデータそのものが「オリジナル」であることを証明しようというのである。

これは単に売り方を変更する話ではなく、ある意味でデジタルデータのあり方への挑戦である。まったく同じものをほぼ零に等しいコストと時間で、世界中の人と共有できるのがデジタルデータの強みだった。その長所を活かしつつ、既存のビジネスと両立させようと書籍や音楽はもがいてきた。その世界線に本物と模造品という概念を持ち込むのだ。

デジタルデータは汎用品で展開できてこそ

技術は色々ある。先に述べたDRMもそうだ。これをデジタル絵画(便宜上絵画で通しているが、VRでの3D造形なども同様)の世界で実装するとどうなるだろう? テレビ番組に対するテレビ受像機やブルーレイディスクレコーダーなどのように、デジタル絵画投影機を開発して利用者に買ってもらうようにするか? 

おそらくそんなものは普及しないだろう。デジタルデータは汎用品で展開できてこそ利便性でアドバンテージが出る。汎用品とはスマホであり、パソコンだ。いま汎用品の座を伺っているVRヘッドセットでもいい。

でも、デジタル絵画専用機はダメだ。ゲーム専用機ですら「モノを増やす」、「他のことに使えない」と売上は頭打ちなのだ。デジタル絵画投影機はニッチすぎる。

「所有より共有へ」の本質

すると、スマホやパソコンで再生できる形でデジタル絵画は作られる。多くのテレビ関係者、音楽関係者にとって、汎用情報演算機であるパソコンは悪夢だ。どんなに周到に議論した防護システムもいずれ突破されてしまうからだ。DVDやブルーレイでもそうだった。

もちろん、ハックする人はDVD機器だってブルーレイ機器だってハックしてしまうのだが、それなりにハードルの高い行為である。一方でパソコンはソフトウェアさえ揃えれば、すぐにDVD解析器、ブルーレイ解析器に化ける。

デジタル絵画を普及させるなら、その端末としてパソコンを外すわけにはいかないし、仮にデジタル絵画投影機を投入したところで、他のコンピュータを使ってDRMのロックを外しにかかる人は必ず現れる。

デジタルデータにとってコンピュータ上に展開されることは、自らを裸にされることと同義である。隠したりごまかしたりしたいデータを内包している場合、禁制品を携えて空港の保安検査に挑むよりも分の悪い勝負になる。

だから、この問題は長く議論されてきたにもかかわらず、進展しなかった。データの所有にこだわらない、別の形のビジネスが模索された。「所有より共有へ」は、新しい生活スタイルの提案や、環境問題への対応をその理由に挙げて発信されるが、根っこの部分にはデジタルデータのビジネスでは所有を上手に表現できない問題が横たわっている。

ぴったりはまったブロックチェーン

そこに、うまいユースケースを探していたブロックチェーンがぴったりはまることになる。

前述したように、ブロックチェーンは暗号資産分野で大きな成功を収めたが、他分野での成功事例を確立できずにいた。ブロックチェーンに関わり、一山当てようと考える組織や人物にとっては由々しい事態である。そこで、NFTである。これであと10年は食える。

実際、綺麗にマーケティングしたと思う。ブロックチェーンはここ10年で確固としたブランドイメージを身にまとうようになった。いまだ一般利用者レベルではよくわからない呪術的手法と捉えられているにせよ、「なんだか改ざん不能」で「コピーされない手法なんでしょ」と思われている(後者は誤解だが)。

だから改ざんされたり、コピーされたりしては困るデジタルアートや音楽ファイル、ゲームのプレイングカードと組み合わせるのは相性がいい。ブロックチェーン業界にとっては長く渇望していた新たな金脈である。逃すわけにはいかない。

NFTの説明

現状でNFTの説明を試みるとき、だいたいこのような文言が並ぶはずだ。

・NFTは非代替性トークンのことです。
・「代替性」があるものの代表例はお金で、ある一万円と別の一万円の価値は同じです。つまりある一万円は唯一無二の存在ではありません。
・NFTをデジタルデータに与えることで、そのデジタルデータを唯一無二のものにできます。
・NFTはブロックチェーン技術をベースに作られています。したがって、NFTが与えられたデジタルデータは改ざんできないし、他の人に盗られることもありません。唯一無二のデジタルデータを所有できます。

これが実現するとしたら、アーティストもゲームメーカーも大助かりである。だから期待され、実際に使われてもいるわけだ。

NFTとイーサリアム

では、具体的にはどこで使われているのだろうか?

ブロックチェーンは多くの運用主体が(特に一時期のブームの時は)雨後の筍のように立ち上げていた。今もたくさんある。NFTもさまざまなブロックチェーンで使われている。とはいえ、私たちがもっとも耳にするのはイーサリアムだろう。

イーサリアムはブロックチェーン業界における存在感や影響力で、常に2番手の位置をキープし続けるチェーンである。不動の1位はもちろんビットコインだ。

ビットコインは王者の戦略である。何もしない。1位なのだから、自らに下手に手を加えて客を逃がすことはない。業界最古参で、登場した当時の仕様を色濃く残すブロックチェーンらしいブロックチェーンである。機能も至ってシンプルだ。暗号資産(仮想通貨)を発行し、そのやり取りを実行することに集中している。

いっぽうのイーサリアムはそれではいけない。同じものを提供していては、いつまでも2番手のままである。後発であるメリットも活かせない。これがリアルでの戦いであればフォロワー戦略もあり得るが、ネットの世界は距離的制約と空間的制約を零に近いところまで緩和できるので勝者一人勝ちが原則である。

ブロックチェーンは他の技術に比べると性能を伸ばしにくい側面があるが、それでも単に暗号資産として考えたときのビットコインの優位性は揺るがしがたい。

そこで、イーサリアムとしては手を替え品を替えをやることになる。(続く)


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