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梁山泊の「肉あんかけチャーハン」|パリッコの「つつまし酒」#175

地元の超有名店

 僕が練馬区の石神井公園という街に住んでいるという話は、これまでにも嫌ってほど書いてきました。そんな石神井民、そして、お酒やごはんが好きな者にとって、一度は行っておかないとまずいだろという、そりゃあもう、全国にまでその名をとどろかす有名店があるんです。
 その名を「梁山泊」と言い、いわゆる「町中華」と呼ばれるようなタイプのお店。名物はずばり「肉あんかけチャーハン」! 食通の芸能人などにもファンの多い逸品らしく、もはや梁山泊のことを、“肉あんかけチャーハン屋”だと思っている人のほうが多いほどの看板メニューらしいんですね。
 告白します。実は僕、それをまだ食べたことがないんです……。「え? まじで? 石神井に何年住んでんだバカ野郎!」という、梁山泊を知るみなさまの声が今にも聞こえてきそうなんですが。だけどさ、梁山泊って、どの駅からもそう近くない街道沿いに、ぽつんとあるんですよ。最寄駅は西武新宿線の上石神井駅になるんですが、そこからだって徒歩で10分以上ある。うちから歩けば20〜30分はかかるかもしれない。まぁ、途中までバスを使うとか、そういう方法もあるっちゃあるんだけど……。
 って、土地勘のない人にはまじでどうでもいいローカルな話をいつまでもすみません。とにかくですね、そんな梁山泊に先日、意を決してついに行ってきたので、そのお話をさせてもらおうというわけです。

「梁山泊」

 はい、いきなり外観写真を見てもらいましたが、ここが梁山泊。そもそも梁山泊といえば、かつて中国に存在した大沼沢で、小説『水滸伝』の舞台としても有名。そんな経緯から「豪傑たちが集う巣窟、根城」というような意味でも使われるようになった言葉ですが、まさにイメージにぴったりの威厳ある外観ですね。かっこいい!
 ちょうど夕飯時だったこともあり、お店の前には数名の行列が。さすがは人気店。ですが、店内にはけっこう席数がありそうだし、こういうお店だからきっと回転も早いことでしょう。素直にそこに加わることにしましょう。

魅力的なメニューの数々

メニューの一例

 で、その行列に並びながら店外に掲示されたメニューなんかを眺めていたわけですが、まずもって、バックライトで輝くオリジナルのメニューがめちゃくちゃかっこいい! そして最上段に燦然さんぜんと輝くのは、やっぱり「肉あんかけチャーハン」。ついにこいつが食べられるんだな〜。しかしながら、なんというか、他のメニューもめちゃくちゃ魅力的だな……。「肉いときりラーメン」ってのは、肉あんかけチャーハンのラーメン版かな? 「エビ焼きそば」も「レバニラ炒め」も「餃子」もうまそうだし、そしてこの、見るからにぶ厚いチャーシューが5枚ものった「チャーシューメン」が890円って、すっごいお得じゃない?
 なんて、肉あんかけチャーハンを目指してやってきたはずが、すでに迷いの道に足を踏み入れかけているのはいつものこと。しかも、しばし待って無事店内に通してもらい、席について確認したメニューがまた魅力的なんだ!

こ、こんなに……
いろいろあるの〜?

 いかんいかん、いったんビールを飲んで落ち着きましょう。それから初志貫徹、肉あんかけチャーハンも合わせて頼んでしまおう。さすがに梁山泊に初めて来て、「もやしラーメン」や「天津丼」を注文してる場合じゃないですからね。いや、どれも絶対美味しいんだろうけどさ。とにかく今日は肉あんかけチャーハン! で、それが届くのを待つ間、なにかつまみつつ待ってたいけど、チャーハンのボリュームがわからないしな。「餃子(6個入り)」は食べきれない可能性がある。「ミニチャーシュー(チャーシューの切れ端)」もかなり魅力的だけど、あとでたっぷり肉は食べるんだもんな……。お、この「リャンバン豆腐」という聞きなれないメニュー、ちょうど良さそうじゃないですか。(ピリリと辛口冷やっこ)という説明もリズムがいい。よし、それをお願いしましょう!

全面茶色!

「ビール中瓶(キリン一番搾り)」(600円)

 やってきた冷えっ冷えのビールを、ピカピカのグラスにトクトクトクっと注ぎ、ひと息にぐい〜! ……っふぅ。やっと落ち着いてきたぞ。
 あらためて見回すと、広い厨房、そしてそこをぐるりと囲むように多数のカウンター席、どこもかしこもピッカピカだ。そんでまた、でっかい中華鍋をカンカン鳴らしながら、チャーハン担当、肉あんかけ担当、それ以外、それぞれの料理人さんがものすごい勢いで料理を作っていて、その活気が楽しい。料理の良い香りとともに、なんだか良い“気”まで充満しているようで、その場にいるだけでいい気分になってくるお店ですね。なんでもっと早く来ておかなかったんだろう。

「リャンバン豆腐」(380円)

 すぐにリャンバン豆腐が到着。初めて聞いた料理ですが、リャンバンとは「涼拌」と書くらしく、「冷たいあえもの」とか「サラダ」といった意味の、中華では定番の料理用語のようですね。つまり、カイワレと刻みねぎがリャンバン要素で、それがのった冷奴ということか。こりゃ、夏にぴったりじゃないですか! もぐもぐもぐ……うお〜、確かにピリ辛で、ごま油の旨味と、あとなんだかわかんないけど醤油ベースの深みのある味がして、めっちゃ美味しい! こりゃあ、肉あんかけチャーハンまでのいいつなぎになるぞ〜。
 と、テンションの上がった次の瞬間、肉あんかけチャーハン到着。ここまで、注文から1分もかかってないんじゃないでしょうか。さすが、ほとんどの人が頼む看板メニューだ。

「肉あんかけチャーハン」(890円)

 そしてそして、なんてテンションのあがる1皿なんだ、肉あんかけチャーハンよ! なめらかな八角形のお皿の上、全面茶色! 全面とろとろ肉! 混じりっけ一切なし!
 ふわりとただよう湯気とともに、豚肉と醤油と油のおりなすたまらない香りがぶわっと漂ってきます。

いろんな角度から眺めたくなる芸術性

 あまりの完璧な佇まいに、思わず上下左右、いろんな角度から眺めまわしたくなる反面、もう爆発寸前の食欲を抑えるのも限界。いざ、いっただっきま〜す!

たっぷりの肉あんの下にはチャーハンが

 れんげで肉あんとチャーハンを遠慮なく掘削し、ばくりとひと口。おお、まずチャーハン、玉子とねぎだけのシンプルな構成で、しっとりぱらりと絶妙な炒め加減。そしてかなり優しめの薄味になってますね。ところがそこに、攻撃性の高い味つけの肉あんが絡みつくと、これが絶妙! 細切りの豚肉のぷりんぷりんとした食感と、あんのとろみのハーモニーも心地よく、完全にクセになる味ですわこれ。そんでもって、ビールに合いすぎる〜!

合間に飲むシンプルなスープがまたいい

 と、幸福感に身をゆだねながら夢中で食べ進め、いよいよチャーハンも終盤戦。さすがに何口食べても同じ味なので、単調にはなってくるんです。そこで思いついたのが、残ったリャンバン豆腐との合体作戦。自分でもはしたないなとは思いつつ、ついこういうこと、やっちゃうんですよね、僕……。ところがこれが、大大大正解!

肉あんかけチャーハン×リャンバン豆腐

 僕、冷奴に味の濃いおかずやらなんやらをのせて食べるのが大好きなんです。食べるラー油でも、残り物のガパオでも、レトルトカレーでも、そもそも豆腐が好きなので、なんでもうまい。そういった意味で、梁山泊の肉あんは、最強にもほどがある冷奴トッピングと言えるんじゃないですか!? って、試しにやってみてから気づいたんだけどさ。
 しかもチャーハンと一緒に食べると、どこか麻婆丼風味にもなり、カイワレやねぎのしゃきしゃきも楽しく、いやこれ、次に来たときも絶対にやっちゃうな。あれ、となると、自分が梁山泊で肉あんかけチャーハン以外の料理を頼む日は、はたしてやってくるんでしょうか?
 ともかく、噂にたがわぬ、いやその想像を軽々と超える絶品だった、梁山泊の肉あんかけチャーハン。さっき検索してみたところ、なんとお取り寄せもできるようなので、ご興味あればぜひお試しあれ〜。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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