どうすれば「金権政治」を変えられるのか?|高橋昌一郎【第45回】
刑事告発を諦めない「執念」
江戸時代、徳川家康の家臣に信濃高遠藩の内藤清成という小姓上がりの武士がいた。ある日、上機嫌だった家康は、鷹狩りの際、内藤が自らの白馬で走り回った敷地を下賜することにした。内藤は、四谷・代々木・千駄ヶ谷・大久保にわたる約 20 万坪の広大な土地を走り回り、力尽きた白馬は息絶えたという。その内藤家の江戸屋敷の敷地が、明治時代に宮内省の管理する皇室庭園となり、戦後「国民公園」として一般公開されるようになったのが「新宿御苑」である。
現在の新宿御苑は、外周3.5キロ、58.3ヘクタール(約18万坪)の広大な敷地に「日本庭園」「イギリス風景式庭園」「フランス整形式庭園」が巧みに組み合わされ、「明治を代表する近代西洋庭園」とみなされている。皇室とのゆかりも深く、大正天皇と昭和天皇の「大喪の礼」は、新宿御苑で行われた。樹木数は1万本を超え、とくに約1300本(65種類以上)の桜の見所として知られる。
1952年(昭和27年)、当時の首相・吉田茂は、総理大臣主催による第1回「桜を見る会」を開催した。その後の歴代首相は、毎年、八重桜が見頃となる4月中旬、新宿御苑で「桜を見る会」を開催するようになった。その目的は「各界において功績、功労のあった方々を招き日頃の労苦を慰労するため」であり、皇族・各国大使・両院議長・最高裁判所長官・国務大臣・国会議員・事務次官・都道府県知事・各界代表者ら、約1万人が招待された。予算は税金で賄われる。
さて、安倍晋三内閣が成立して以降、この「桜を見る会」の予算規模と招待客は次第に膨れ上がった。2019年の「桜を見る会」の支出額は5518万円と予算額1766万円を3倍以上も上回り、招待客も1万8千人と倍近くにまで増えている。「私人」であるはずの安倍昭恵夫人や自民党議員が招待客の「推薦枠」を持ち、なぜかお笑い芸人や芸能人に加えて、右翼団体職員や詐欺の前科があるマルチ商法役員、統一協会や反社会的勢力が参加していたことも判明している。
さらに「桜を見る会」には「安倍晋三後援会」の会員が850名も招待されていた。これを「支援者の買収」とみなせば明白な「公職選挙法」違反である。この安倍夫妻による公的事業の「私物化」を批判する野党議員が国会で「招待客名簿」を請求する旨を通知したところ、1時間後に内閣府の担当部署が慌てて名簿をシュレッダーで破棄している。これは「公文書管理法」違反ではないか。
しかも安倍氏が首相を務めた2013年から2019年にかけて、「桜を見る会」の前日にホテルニューオータニやANAインターコンチネンタル東京で「安倍晋三後援会」主催の前夜祭が開催されていた。会費は5,000円だが、都心の高級ホテルの宴会場で飲食を提供する経費としては、明らかに安すぎる。実際には、安倍晋三事務所が不足分を補填していたのだが、その事実は2013年から2019年の収支報告書に記載されていなかった。これは「政治資金規正法」に抵触しうる。
本書の著者・上脇博之氏は、「桜を見る会」に関わる「カネ」の動きを丹念に追及し、東京地方検察庁に「刑事告発」を続け、2020年9月の安倍氏の首相辞任に大きな役割を果たした人物である。この事件自体は、後援会代表を務める公設第一秘書の「有罪(罰金100万円)」となり、安倍氏は「不起訴」で終わった。
本書で最も驚かされたのは、膨大な資料を丹念に追及して100件以上の刑事告発を行っている上脇氏の「執念」である。告発の多くは検察の不受理や「トカゲの尻尾切り」で終わるというが、諦めない上脇氏の不屈の精神に敬服する!