【第96回】なぜ日本の税金の「ゆくえ」は「暗闇」なのか?
誰もが目を背けてきたズサンな実態
2020年4月1日、当時の安倍晋三首相は記者会見で、日本郵政の全住所配布システムを活用して「1世帯あたり布製マスク2枚」を配布すると述べた。コロナパンデミックに際して「先手先手で必要な対策を実施する」と大口を叩いていた首相のコロナ対策の第1歩が「1世帯あたり布製マスク2枚」とは、あまりに「ショボ」すぎて、SNSでは「エイプリル・フール」のジョークかと思ったら事実と知ってさらに驚き呆れた、という声が数多く流れた。
日本全国5700万世帯に郵送するとして、郵便切手82円だけでも46億7400万円が掛かる。布製マスクの本体価格や封筒挿入作業の膨大な人件費を含めて考えると、300億~400億円が見込まれる。この予算があるなら、なぜ不足している医療器具の「人工呼吸器」や「不織布マスク」量産に回さないのか?
海外メディアの通信社ブルームバーグは「『アベノミクス』から『アベノマスク』へ:日本政府のマスク計画が物笑いの種になっている」(From Abenomics to Abenomask: Japan mask plan meets with derision)と伝えた。英語で「derision」といえば「あざ笑い」という意味で、かなり「侮蔑的」なニュアンスである。
しかも、妊婦に優先的に配布された「アベノマスク」には、髪の毛や虫などの異物混入、変色ガーゼやカビが付着した「不良品」が多く認められたため、回収検品することになったが、この経費だけでまた8億円以上が浪費された。
店頭に輸入品の「不織布マスク」があり余るように並んだ頃、ようやく届いた「アベノマスク」は、何かの役に立っただろうか? その後、介護施設の98%が受け取りを拒否したため約8千200万枚(115億1千万円相当)の「アベノマスク」が余り、その保管料で、また年間8億円が掛かった。最後まで迷惑をかけ続けた「アベノマスク」の使途不明金は、466億円にも上っている。
本書の著者・高橋祐貴氏は慶應義塾大学文学部卒業後、毎日新聞社に入社し、和歌山支局・岡山支局を経て、現在は東京本社経済部記者。担当は経産省・財務省など。著書に『幽霊消防団員』(光文社新書)がある。
さて、「アベノマスク」の愚策に「血税が無駄にされた」と思うと怒りが込み上げてくる納税者は多いだろう。本書が綿密な取材と詳細な資料で暴露するオリンピック経費の「ピンハネ」やコロナ支援金の「中抜き」、地域の消防団員報酬と農業補助金の「しきたり」を読むと、さらに暗澹たる思いになる。
本書で最も驚かされたのは、高橋氏が入手した「委託契約書」によると、オリンピック期間中に1人のディレクターに支払われる単価が日給35万円で40日分1400万円、最も安いサービススタッフの単価も日給2万7千円で総額約2億7000万円と常識を逸脱した高額人件予算が組まれていた点である。
最終的に組織委員会が報告した大会経費1兆4238億円には、施設設備費2803億円が含まれないことが会計検査院から指摘された。総額1兆7千億円余りの経費詳細は「ブラックボックス」のまま委員会は解散というズサンさである。その後、組織委員会の高橋治之・元理事が受託収賄罪で起訴された。『文藝春秋』2022年12月号によれば、当時の安倍首相から「絶対に高橋さんは捕まらないようにします」と約束されて引き受けたというから、闇は深い。