ついに誕生!プレーン缶チューハイ|パリッコの「つつまし酒」#151
僕の考える「チューハイ」の定義
どんなにこの日を待ちわびたことか……。我々のような、一部の偏執的酒飲みが……。いやね、ついに、ついにこの世に産声をあげてくれたんですよ。正真正銘「プレーン」の「缶チューハイ」が!
って、いきなり僕がなにを言ってるんだかわからない方もけっこう多いと思いますので、順を追って説明させてください。
まず、そもそも「チューハイ」とはなにか? チューハイとは「焼酎ハイボール」の略。「ハイボール」はみなさんご存知、ウイスキーの炭酸割り。その名前の由来には、「スコットランドのゴルフ場でウイスキーのソーダ割りを飲んでいた人物のもとに高〜く打ち上げられたボールが飛んできたことから」とか「グラスのなかで上昇する泡をボールに見立てた」とか諸説あるそうなんですが、とにかくそんなハイボールの焼酎版。つまり、「焼酎を炭酸水で割った飲みもの」がチューハイということになると思います(もっと広義の意味で使う場合もありますので、異論反論はご自由にどうぞ)。
じゃあ「プレーン」とはなにか? 辞書で英語の意味を調べてみると、「淡泊であっさりしたさま。装飾のないさま」というようなことになっているようです。この「装飾がない」という点がポイントで、世の中には「レモンサワーとチューハイってなにが違うの?」って方も多く、いやそういう方が大多数だとは思います。が、我々にとってはぜんぜん違うの! だってレモンサワーにはレモンの風味がたっぷり入っているじゃない。装飾しちゃってるじゃない。
つまり我々は、チューハイと言ったらそれは焼酎を炭酸水で割っただけのものを指していてほしい。しかも焼酎は、極力味のない甲類焼酎であってほしい。え? 芋焼酎のソーダ割り? そりゃあ大好きですけども、芋要素が装飾に当たるんじゃないかなぁ〜。あれは「芋ハイ」という別の飲みものなんじゃないかなぁ〜。
少なくとも我々はそう考える。ね? めんどくさいでしょう。あとさっきから連呼してる「我々」って、一体誰のことなんでしょう。
チューハイと缶チューハイは別もの
つまりですよ。たとえばてきとうな居酒屋にふらりと入り、メニューにチューハイを見つけて注文する。出てきたグラスを見ると、氷の上にカットレモンが2片ほどのっている。なんだかお酒のほうも完全な透明じゃなく、若干にごっているように見える。嫌な予感がし、おそるおそるひと口。すると、しっかりと甘みや酸味がついている。あ〜も〜、違うじゃんこれ〜、チューハイじゃなくてレモンサワーじゃん〜……。と、我々は心密かに憤るのでありました。
チューハイってのはね、味があっちゃいけないんですよ。アクセントとして許せるのは、薄切りのレモン1枚までかな。そのくらいなら味にほぼ影響がないし、あれはまぁ、装飾ってよりは「おしゃれ心」の範疇な気がする。わかるわかる。ちょっと背伸びしてみたいお年ごろなんだよね?
そもそもなんでそんな味のないものを好んで飲むのかって言われると、自分でもよくわかんないんですけどね。だって確かに、ものすごく「オイシー!」ってものでもない。だけどなんだか体になじむ。いつまででも飲んでいられる。酒で疲れた心身を癒してくれる(?)。
さて、そういう視線でもってコンビニへ行き、お酒の売り場を眺めてみてくださいよ。そりゃあもう色とりどりの、缶チューハイと呼ばれる商品が並んでいるでしょう。でもね、そのなかに、厳密な意味でいうところの「チューハイ」がありますか? いや、ない。あれは「缶チューハイ」っていう別ジャンル。そりゃあ僕も好きですよ缶チューハイ。だけど基本的にどれも甘すぎるんだよな。飲めて1日に1本が限度。そういう理由で我々は、そういう理由で我々は、そのラインナップの多くが甘くなくてキリッとしている、タカラ「焼酎ハイボール」を猛烈に支持するわけなんですね。
宝焼酎のそこにシビれる! あこがれるゥ!
とこがその焼酎ハイボールだって、完全なるプレーンチューハイではない。「ドライ」というもっともシンプルなテイストは定番商品ですが、あれも東京下町を中心に歴史のある「元祖下町ハイボール」(それについて語りだすとまた連載1回ぶん使わなくてはいけなくなるのでまた今度)を意識した、絶妙な味と香りづけがしてあるわけです。
ちなみに、これまでもっともプレーンチューハイに近かったのはおそらく、同じくタカラの「canチューハイ ドライ」。ただこれも、11種類の樽貯蔵熟成種を贅沢に使っているわけで完全なプレーンとは言えず、かつ一般の缶チューハイよりはちょっと価格帯が上の高級品。さらに店頭であまり見かけないということもあり、ドンピシャな商品であるとは言えなかったのが正直なところ。念のため、あくまでプレーンチューハイとしての話ですよ。
ところがさすが我らのタカラさん。このたび、ついに発売してくれたんです! 理想的とも言える「缶のプレーンチューハイ」を!
……っていう話なんですよね。今回僕がしたかったのは。長くなったなぁ、もう。
その商品というのが、3月1日に発売になった「タンチュー」。そう、ずばり「炭酸焼酎」の略ですよ。
こちら!
パッケージにあるとおり、アルコール度数7%のシンプルな炭酸入り焼酎。使われている焼酎は、オーソドックスな宝焼酎に樽貯蔵熟成酒を3%ブレンドした「極上宝焼酎」ではあるものの、その樽熟成感はほんのりとしたアクセント程度。というかバカ舌の僕にはほぼわかりません。
見てやってくれこの透明感
グラスに注ぐと、まず見た目の透明度からして「これぞプレーンチューハイ!」と嬉しくなってしまいます。シュワーっという心地よい音を聞きながらグラスを口に近づける。いざ、ごくりとひと口。あああ〜〜〜! これこれ! これですよ! 究極にシンプルだけど奥深い、まさしく名酒場のプレーチューハイの味!
なかには、「ならさ、普通に焼酎を買ってきてさ、炭酸水で割ったらよくね?」と言う人もいるでしょう。確かに日々の晩酌では僕もそうしています。けどそういうことじゃないんだな〜。焼酎を作って150年以上の歴史を誇る宝酒造が、こだわりの焼酎と強炭酸水を使い、絶妙なバランスでブレンドしてくれたプレーンチューハイ。その贅沢さなんですよ。味と一緒に飲んでいるのは。それに重要なのは、このたった1種類の新商品がコンビニの棚に加わったことによる選択肢の広がり! これからはいつどこにいたって、思い立ったときにプレーンチューハイが飲めるんですから。
パッケージ裏面には……
ちなみにこちらの商品、たとえばレモンをひと搾りするなど、「お好みのものを加えてお楽しみください」というのが正規のコンセプトのようです。そりゃあそうだ。味のないプレーンなチューハイをこんなにもありがたがるのは、さっきからたびたび登場する「我々」くらいのもの。
でも確かに、味変もまた楽しいはず。だってそれってもはや、僕らの愛するタカラ「焼酎ハイボール」の、まだ発売されていないオリジナルテイストが自由に作れるということですもんね。
たとえばこうとか
僕は梅干しって、はちみつ入りの甘めのやつが好きなんですが、今日はちょっと贅沢に、紀州南高梅のはちみつ入り梅干しを買ってきました。それをタンチューにぽちょん。「チューハイ梅入り」ってやつですね。こんなのさ〜もうさ〜、最っっっ高に決まってるじゃないですか!
もしくはこうとか
以前、ライター&飲み友達のスズキナオさんと一緒に「さまざまなスパイスをチューハイに足してみる」という実験をしていてものすごく気に入り、その後個人的定番となった「ターメリック入りチューハイ」。透明度の高い液に鮮やかなイエローが、どこまでもプレミアム。
いっそこうか
ふと、「そういえば買ってあったよな」と思い出し、桜の花を塩漬けにした「桜茶」をタンチューに加えてみました。本来はさっと洗って塩を落とし、お湯で戻して飲むものですが、むしろ洗わないくらいのほうがほんのりした塩味がアクセントになって、チューハイには良かったです。
かたわらに浅漬けでも用意して、ようやく長くなってきた日が沈む前あたりからこいつを一杯。「あぁ、春が来たな〜」ってなもんですよ。
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco