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おうちで「町中華」ごっこ|パリッコの「つつまし酒」#177

レトルト“町中華”カレー

 いわゆる本格的な中華料理店ではなく、どこの街にもひとつやふたつはあるような、昔ながらの中華料理屋「町中華」。ひと昔前は、大衆酒場と同じく「くたびれたお父さんが、休日に瓶ビール飲みながらぼーっとごはん食べてる店でしょ?」くらいのイメージだったのが、今やすっかり市民権を得、外食ジャンルのひとつとしてもてはやされるまでになりました。
 そんな町中華の名店を、芸人の玉袋筋太郎さんがめぐり飲むというBS-TBSの番組「町中華で飲ろうぜ」を先日見ていたら、特別編的な内容が放送されていたんです。その内容というのが、町中華飲みの“黒帯”である玉さんが監修役となり、「エスビー食品」とタッグを組んで、町中華ならではの味わいを再現したレトルトカレーを作るというもの。
 度重なる試作を経てついに完成したそのカレーを最後に味見した玉さんは、例の名調子で「これ、町中華の味だよ! いや〜、“ロクサンサン”が見えてくるねぇ……」なんて言っています。ちなみにロクサンサンとは、大瓶の容量が633mlであることから一部の酒飲みが使う、ビールの言い換え。
 そんなのを見ちゃったらさ〜、食べてみたくなるじゃないですか! なんでも、コンビニの「セブンイレブン」などを中心に発売されるということで、発売日以降、セブンイレブンによってはレトルトカレーの棚をチェックしていました。すると、かなり人気で品薄状態らしく、しばらくは見つからないでいたんですが、数日後にようやく発見。
 となれば今夜はこのカレーをつまみに、「おうちで町中華ごっこ」をする以外ないでしょう!

限りなく本物

 加えて、先日スーパーで発見したものがあります。同じくエスビーの、町中華をテーマにした料理用シーズニングシリーズ。まだまだ種類はあるようですが、僕が発見した計5種類を、買っておいたんですよね。

「町中華」シリーズ

 このなかから、一度に全部は食べきれないだろうから、今夜は、神田「鶴の恩がえし」監修の「おつまみもやし」、飯田橋「おけ以」監修の「うま塩ピーマン」、八丁堀「中華シブヤ」監修の「トマトキムチ」の3種類を作ってみることにしましょう。この3店のうち僕が行ったことがあるのは、餃子が名物のおけ以だけで、しかもうま塩ピーマンは食べたことがないんですが、まぁ気分気分、ということで。

材料もシンプル

 作りかたはどれも簡単。おつまみもやしであれば、もやしひと袋をさっとゆで、ごま油少々と一緒にシーズニングであえるだけ。うま塩ピーマンも同様で、トマトキムチにいたっては、カットしたトマトにシーズニングをあえるだけ!

一瞬で
料理になる魔法

 そしてそして、僕の仕事場、もう自分で言っちゃいますが、日本でも屈指の、「町中華ごっこ」をするにはばっちりの環境なんです。というのも、残念ながら昨年閉店してしまった、大好きだった地元石神井の町中華「龍正軒」さんからいただいた、食器各種があるので。

まだまだありますが

 さらには、お店で50年使われていた、テーブルと椅子のセット一式もあるので。

例の真っ赤なテーブル!

 つまり、視界の切り取りかたによっては、限りなく本物に近い町中華というか、ほぼ本物と言いきってしまってもいいというわけで。

だってこれだもん

もはや店

 というわけで、楽しい楽しい町中華ごっこのはじまりはじまり〜! 用意したのは、湯せんしてごはんと真っ赤な福神漬けとともに盛った、「町中華で飲ろうぜ 豚バラ肉のカレー」。

確かにそれっぽい!

 それから、町中華シーズニングシリーズで味つけた野菜のおつまみ3種盛り合わせ。

これが5〜600円で出てくる店があったら絶対通う

 さらにビールはもちろん瓶で、今回はアサヒ「スーパードライ」を用意しまして、いざ、いただきま〜す!
 まずは野菜たちからいってみましょうか。ピーマンは……おお、にんにくとコショウの効いた、完全に酒のつまみ向きの力強い味のなかに、しっかりとだしの風味も感じて、めちゃくちゃいい。もやしは……わー、もやしの甘みとたれの酸味がマッチして、ピリ辛味のアクセントもばっちりだ。トマトキムチの、これまた唐辛子のピリ辛とキムチ風味が引き立てる、フルーツのような甘さもたまんないな〜!
 いや僕、こういう野菜を自分なりに油や調味料とあえてお酒のつまみにすること、日常的によくあるんです。けど、今まであんまり使ったことのなかったシーズニングを使うだけで、ここまで本格的で美味しい料理が簡単に作れちゃうんですね。僕の長年に渡る無駄な努力は一体……。すごいぞ、シーズニング。
 さ〜、いよいよカレーだ。ここは正直にいきますからね。「やっぱりレトルトはレトルトだなー」と思ったら、尊敬する玉さんへの忖度なしに、正直に言っちゃいますからね?
 さてどうだ……。

ぱくり

 もぐもぐもぐ……え、えー! さっきの前ふりによってむしろ嘘くさくなっちゃってるかもしれませんが、このカレー、めっちゃうまい! そして、めっちゃ町中華!
 町中華カレーの特徴といえばなにはなくとも「ラーメンスープ」を使うことですが、確かに鶏ガラの風味がしっかりとあって、強めに塩コショウが効いていて、だけど優しい甘みもある。この甘みは、隠し味だというチャーシューのたれ由来かな? で、いわゆるレトルトっぽさではなくて、ちゃんと町中華っぽいとろみがいい。というかそもそも、レトルトカレーとしてのレベルがものすごく高い。
 いや〜うまいねどうも。ロクサンサンが見えてきちゃうね〜……。なんて、すっかり玉さんになりきって、しばらくカレーを味わっていたわけですが、あ、よく考えたらロクサンサンは目の前にあるんだった!
 コップにトポトポトポと注ぎ足し、ぐい〜っ! ……はぁ〜、たまんね〜! もはやここ、店だわ、店。

心地よい満腹感とテーブルの水滴が、完全に町中華

 あまりにも簡単なのに想像以上に楽しかった、おうちで町中華ごっこ。ぜひテーブルと椅子を用意して、とまでは言いませんが、中華風のお皿などを用意してやってみると、ものすご〜く、楽しいと思います!


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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