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焼きたての宅配ピザで飲みたい!|パリッコの「つつまし酒」#155

宅配ピザのごちそう感

 宅配ピザのお店が初めて地元にできたのは、確か僕が中学生のころだったと思うので、今から30年近くも前でしょうか。家の近所に「ピザーラ」ができ、物珍しさから親が注文してくれたそのピザの美味しかったことといったら! あきらかに人生でそれまでに食べてきた料理たちとは異なる、異国情緒たっぷりの見た目。巨大な生地に色とりどりの具材とチーズ。食べ盛りには特にたまらない、濃いぃ〜味! 世の中にこんなにもうまいものがあるのかと感動したことをよく覚えています。
 以来ずっとピザは大好物。ただ、宅配ピザって値段的にはかなりのごちそうなんですよね。大学時代くらいまで、僕のうちにはよく地元の友達が数人集まって、だらだらとゲームなんかをやりながら、飽きずに飲み会をしていました。すると誰かが「ねぇ、ピザ食いたくない?」なんて言いだす。だけどみんな貧乏だし、1000円ずつ出しあうことすらもハードルが高い。
 そんなときに重宝したのが、偶然実家が配達エリアに入っていた、チェーンではなくインディーズ系の宅配ピザ店「ピザフレンドリー」。S、M、Lとサイズがあるうち、特にMサイズがお得で、メニューにある大部分のピザが、Sサイズとあんまり値段が変わらない、約1000円で食べられたんですよね。そりゃあピザーラほどの具沢山豪華ピザではなかったけれど、じゅうぶんに美味しかったし、フレンドリーには何度もピザ欲を満たさせてもらったなぁ。

焼きたてが食べられないジレンマ

 と、僕にとって今でも特別なごちそうである宅配ピザなんですが、しばらく前にふと、こんなことを思ったんです。
「一度でいいから、焼きたての宅配ピザが食べてみたい」
 宅配ピザって専門店やイタリアンのお店で食べるのと違い、その性質上、どうしても焼きたてを食べられない料理じゃないですか。そりゃあ企業と配達員さんの努力により、驚くほど迅速に、まだまだ温かいピザを届けてもらえる。けれども“ノータイム”ではない。常にほんのりと、しっとりしている感は否めない。以前、緊急事態宣言明けに数ヶ月ぶりに焼鳥屋へ行き、焼き台から直接届いた焼鳥を食べたら、地元で何度も行ったことのある店だったのに、その美味しさに大感動してしまったなんてことがありました。あれの宅配ピザ版をやってみたい。
 実はですね、その方法を思いついたんですよ。我が家の最寄り宅配ピザ店は、「ドミノ・ピザ 石神井公園店」。最近の宅配ピザって、「お持ち帰り半額」なんていうとんでもないサービスがけっこう普通になってますよね。ここドミノ・ピザも例外ではなく、我が家でもよくその恩恵に与っております。ネットで簡単に予約注文ができるので、それで時間指定をしておいて受けとりに行き、持って帰って家で食べるんですけどもね。その場合で、受けとりから食べ始めまで、最速で15分くらいかなぁ。それでもぜんぜんあったかい。けれどもノータイムではない(しつこい)。
 このタイムを極限まで縮める方法。それはですね、焼きたてのピザを受けとったら大至急、地図で測ってみたところ直線距離にして122mの場所にある「石神井公園」に移動して、そこですぐさま食べるというもの。これは早いよ。5分もかからないんじゃないかな!?

焼きたて宅配ピザ計画、実行

 というわけで、あるぽかぽか陽気の午後、計画を実行に移すことにしました。現在時刻は午後2時半。そこで、30分後の午後3時に受けとり時刻を設定し、10分前くらいに現地に着くように家を出る。現地に到着したら、いったん最寄りのセブンイレブンに寄ってよく冷えたビールを購入。しかる後、ふたたび現地に舞い戻り、5分前まで店外で待機。

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そして5分前

 気が早い客だと思われることは覚悟のうえで、5分前に入店。予約した旨を店員さんに告げるとスムーズに、「では先にお会計お願いします」とのことで、よしよし、なんだかいい流れだぞ。そしてお会計終了後、店員さんが発した言葉に、僕は心のなかで大歓喜したのでした。
「ピザのほう、あと2、3分で焼きあがりますので少々お待ちください」
 うおー、きた! 正真正銘! 焼きたてのピザが受けとれる! なんだかうまくいきすぎてこわいくらいだわ……。そんな慌てぶりを店員さんに悟られないように店のすみで静かに待ち、午後2時59分、無事ピザの受けとりが完了。おおっ、もう、ちょっと手が触れた外箱からして熱々だ。
 そこからはもう全力ダッシュ。あの時の僕、たぶん100mを9秒台で駆け抜けてたと思います。で、公園に着いたら即座に空いているテーブル席を探す。よし、平日の日中だけあってすぐに見つかりましたよ。

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240度の高温で焼きあげられたばかりのピザを

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オープン!

 時刻はなんと、午後3時2分。つまり、受けとりからここまで、わずか3分。これはどう考えたって焼きたてと言えるでしょう。
 選んだピザは「エビマヨネーズ」「マルゲリータ」「ドミノ・デラックス」「炭火焼チキテリ」の4種類が1枚になった「クワトロ・2ハッピー」、直径23cmのMサイズ。通常価格2390円のところ、お得にもほどがある1195円。え〜い、せっかくの機会だから320円の「トッピング2倍盛」もつけてやれ! と、締めて合計、税込み1515円。見たか大学時代のおれよ。君はまだ1000円のピザをみんなでシェアして喜んでいるようだが、こちとら、たまにだけど1500円オーバーのピザをひとりで独占できるまでの男に成り上がったぞ。しかも焼きたてだ。参ったか! 悔しかったらお前もこうなってみろ! と、時系列のよくわからない優越感に浸りつつ、いざ、焼きたてピザにかぶりつくことにしますかね。

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いただきま〜す!

 おっと、ただし、いくらひとけがまばらとはいえ、平日の昼間っから公園でひとり、ホールのピザにむしゃぶりついている職業不詳の男性というのは、絵的にまずいでしょう。そこであらかじめ100均で買っておいたプラスチック製のフードパックとワックスペーパーを取り出し、いかにも「駅前のお気に入りのイタリアンでテイクアウトしてきたピザで、遅いランチしてます」といった体を装いつつ食べていきます。もちろんピザの箱はベンチに移動させ、上にカバンを置いてカモフラージュ。これで道ゆく子供に「ママ〜、あのおじさん、なんで宅配ピザをお外で食べてるの?」と怪しまれることもないはず。

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急にお惣菜感は出てしまったけど

 ではあらためて、いただきま〜す! まずは王道のマルゲリータから。

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ズシッ

 おお、嬉しい。なんたって、生地が熱い。そしてたっぷりのチーズが今にもなだれ落ちそうだ。そこを口で迎えにいく。ひ〜! 熱々とろとろのチーズとジューシーなトマトの美味しさが口のなかで大爆発! しかもそれを受けとめる生地が、ぱりっぱりのふわっふわで軽い! 特にいつもだと、“最後のノルマ”みたいな感じでなんとなく義務的に食べている耳の部分。焼きたてはこんなに美味しかったのか!
 すかさず「ピザに合いそう」という理由でチョイスしておいたアメリカのビール「バドワイザー」をプシュ。ごくごくごく……え〜!? バドワイザーってもっと飲みやすさ至上主義の軽〜いビールだったような記憶があるんですが、なんだろう、もちろん飲みやすいんだけど、今大流行中の「マルエフ」にも通じるしっかりとしたまろやかさのある、ものすごく美味しいビールですね。焼きたてのピザとのバランスが良すぎるわ。
 店名を冠したドミノ・デラックスの風格ある味と肉々しさ、和風ピザの名作、炭火焼チキテリのこってり感、トッピング2倍盛を選んだ自分を今一度褒めてあげたい、エビマヨネーズの尋常じゃない海老のごろごろ感。どいつもこいつも最高だぜ〜。ビールごくごくっ! っぷは〜!

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こってり軍団もいいぜ〜

 ……なんてやっていたわけなんですが、けっきょくその4切れとビール1缶で、もう大満足。
 なぁ、大学時代のおれよ、40も過ぎるともう、トッピング2倍ピザなんていう重いものは、そんなに量食えんのよ。この残り半分、できることならそっちに転送してやりたいよ。際限なくピザが食べたいと思っていた時代は金がなく、やっとこのくらいの贅沢ができる年になったらなったで、気持ちに体がついていかない。人生、うまくいかんよなぁ……。
 って、なんだか急によくわからない後ろ向きモードになってしまいましたが、焼きたての宅配ピザが絶品すぎたことは厳然たる事実。いや〜、いい経験でした。もしも可能な環境にある方は、ぜひ一度やってみてくださいよ。ちょっとね、びっくりすると思いますよ。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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