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正月朝湯ハシゴ酒|パリッコの「つつまし酒」#193

あぁ、正月だなぁ

 明けましたね〜、2023年も、見事なまでに。みんないろいろあるだろうけど、とりあえずはおめでとうございます。まぁ、酒でもお茶でも好きなもの飲んで、少しでもリラックスして、過ごしていきましょうね。お互いに。
 ところで新年といえば個人的にひとつ、絶対に外せないお決まりの予定があります。それが、正月朝湯。毎年1月2日、地元にある銭湯「たつの湯」さんが、この日だけ特別に、朝8時からお昼までの朝湯営業をしてくれるんですよ。数年前にそのことに気がつき、まだ娘が乳飲み子だったころなので、正月早々妻に無理を聞いてもらって、「ごめん、小一時間だけ好き勝手させて!」と、行ってみた朝湯の気分爽快なことといったら……。なんというかこう、新しい年を迎えるにあたり、すっきりと身を清めて気分一新、よし、がんばっていきますか! という気持ちになれたんですよね。それ以来、毎年この朝湯にだけは行かないと気がすまない。幸い、少し前にたつの湯へ行ったら、今年も予定通りに正月朝湯が開催されることがアナウンスされていました。
 そして1月2日の朝、いそいそと身支度をし、着替えは昨日の晩にお風呂に入った時にもしたけれど、こういうのは縁起もんだ。新しいの持ってこう。なんて感じで、家を出たのでした。
 ところでその時、ついでに駅前の100円ローソンやらへ寄って、ちょこちょこと買いたいものがあったんです。そこで、30分くらい早く家を出て、まずは駅前へと向かいます。キーンと冷えた空気、まだしんとした住宅街、ビカーッと力強い朝の陽光。あぁ、正月だなぁ……と、その雰囲気を全身全霊で味わいながら。

正月ならではの空気感

まさかのハシゴ?

 ひととおり買いものを済ませ、時刻は7時50分ほど。のんびりと商店街を歩いていたところ、あることに気がつきました。地元、石神井公園エリアには、駅前商店街のなかにもひとつ「豊宏湯とよひろゆ」という銭湯があります。その前に、数人の行列ができている。つまり、やるんですよ、朝湯をこっちでも。
 そうか、気がついたのが偶然たつの湯だったからそこしか行ってなかったけど、他にも朝湯をやってる銭湯はあるのか。というか、今原稿を書きつつ調べてみたところ、少なくとも僕の住む、東京都練馬区の浴場組合に登録されている銭湯では、基本やってるらしいのです。朝湯。いい習慣じゃないですか。
 となれば当然考える。入りてぇ、と。これから僕は、たつの湯の正月朝湯へ行く予定。だけど、豊宏湯も大好きな銭湯です。やってるとなれば入ってみたい。どうする? 入っちゃう? まさかのハシゴ? 銭湯を? う〜ん……。
 って、いやいやいや、入るでしょうよ! 入りますともそりゃあ! だってだって、1年で今日しかないんですよ? 朝っぱらから豊宏湯へ入れるチャンス。というわけで、飛びこんでまいりました。豊宏湯の正月朝湯。

「豊宏湯」
しめ飾りがめでたい

 入り慣れた入口を通り、番台で入浴料500円を払うと、お店の方の挨拶が「おめでとうございます!」なのがたまらない。さっそくしっかりと全身を洗って、湯船に足をひたす。地下水を薪で沸かす昔ながらのここの湯は、地元でもかなり熱いと評判。今日も朝一から、しっかりと熱いですね〜。お湯に触れた部分がぴりぴりと痛い。それでも徐々に体を慣らしていって、やがて肩までどぷん。あ〜……っと小さく声が出ます。
 カコーンと響く桶の音や、シャワーの音。爽やかな水色に塗られ、アーチを描く高い高い壁の最上部にある窓から、雲ひとつない青空が見えます。そこから差し込む日差しが、浴場内に漂う湯気を表情豊かに照らす。なんという天国か。あぁ、正月朝湯最高!
 なんて幸せを噛み締めていたところ、隣で湯につかっていた男性から、「あれ、パリッコさん?」という声が。なんと、お酒が縁で知り合った地元の飲み仲間さんたちじゃないですか。はは。酒好きってみんな、やたらと銭湯も好きよね。まぁ自分もなんですが。と、嬉しい偶然に驚きつつ、しばし世間話に花を咲かせ、まったくいい時間が過ごせました。
 さて、あんまり長湯してるとのぼせてしまう。お次は、たつの湯へ向かいましょう。

湯上がりはもちろん

 たつの湯は駅前ではなく、けっこう歩いた住宅街のなかにある銭湯。ぽっかぽかになった体で、しばし散歩しながら向かいますが、その心地よさといったらもう他にたとえようがない。夏もいいけど、やっぱり冬の銭湯はいいよなぁ。

「たつの湯」

 入るたびになんだか身が引き締まる気がするほど見事な破風造りの銭湯、たつの湯。しかも正月朝湯だってんだから、ありがたさもひとしおです。広い駐車場に、いつにも増して車も停まってますね。みんな朝湯詣でに来てるんだな。

のれんがめでたい!

 ここでもいつもの親父さんに「おめでとうございます」とご挨拶し、さっと体を洗って入湯。潔く湯船がひとつだけという昔ながらの銭湯なんですが、隅々までピカピカで、本当にいいお湯なんですよね。真っ白く塗られた高い壁の一部に、青を貴重としたモダンな模様が入り、湯船の上にはどーんと見事なペンキ絵の赤富士。いやぁ、正月からこりゃあ縁起いいわ。
 と、じゅうぶんに堪能し、いよいよ風呂からあがると、顔も全身もゆるみまくり。それでいて、心晴れやか。まさに、2023年バージョンの自分に生まれ変わったような気持ちです。
 さて、いよいよ“アレ”の時間だな。アレとは? 無論、酒。銭湯ハシゴで肉体は清まりきった。あとは“マイお神酒”ことキンキンの缶チューハイを飲んで、心のほうを清めて仕上げとしましょう。
 ちなみにたつの湯は酒飲みにも理解ある銭湯で、僕の大好きなタカラの「焼酎ハイボール」や、そこらの銭湯では見ないようなクラフトビールなんかも置いてくれたりしています。なので、ふだんはそこで買って、小さな庭で飲むのが定番。しかしながら、年一の朝湯のときだけは別で、あえて近くの石神井公園まで移動し、お気に入りのベンチで、コンビニで買った缶チューハイを飲む。これ、最初の年になんとなくやって以来、定番になってしまいまして。そこまでがセットで僕の正月行事なんですよね。

というわけで

 人気のない公園のなかの木々に囲まれたベンチで、少しずつ高くなりだした太陽の光を全身に浴びながら、よく冷えた缶チューハイをぷしゅり&ごくり。し、沁みるな〜……。乾いて火照った体と、リセットされた心に、いつも飲んでる缶チューハイが、いつも以上に沁みるな〜……。
 さぁ、今年もなんとか年始の恒例行事をこなせた。明日で三が日も終わり。そしたらなんだかんだで、いつもどおりの日々に突入していくことになるのでしょう。
 無理はせず、できる範囲でぜんぜんいいと思うんで、がんばっていきましょうね。お互いに。あらためまして、今年もよろしくお願いします!
(次回は1月20日更新です)

謹賀新年


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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