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西のホッピー通り 前編|パリッコの「つつまし酒」#129

酒場は最高!

 2021年10月1日、長かった緊急事態宣言が全国的に解除となり、ついに飲食店での酒類提供が再開されました。これから24日までは「リバウンド防止措置期間」として、ラストオーダーは20時まで、営業は21時まで、グループの合計は4人までという対策がなされるようですが、それでも大きな前進。引き続き個々人での感染対策は徹底しつつも、久々に飲食店でお酒が飲める喜びを噛みしめていきましょう。
 この連載でも過去に、お酒を飲める年齢になってから初めて2ヶ月半近くも酒場へ行けなかった時期を経ての復活の酒、「酒場で飲む」なんて原稿を書かせてもらいました。が、こういう喜びについては何度書いたって足りないくらいでしょう。
 というわけで、またしても! 久々に! 酒場で飲みます!
 ちなみに今回の宣言明け、僕の外飲み一杯目は、大好きな「餃子の満洲」でした。台風の影響によるものすごい風雨のなか、どうしても用事があって出かけた先の帰り道に満洲があり、雨宿り&お昼ごはんがてら飛びこんだそこで食べた、餃子&ライスのセット。そのテーブルにどどんと鎮座する生ビール。こいつがあるだけで、なぜこんなにも食事って楽しいんだろうと、あらためて実感しましたよね。
 それから数日、街を歩くたび、「この店でも、この店でも酒が飲めるんだ!」と考えるだけで嬉しく、またうるうるとしてしまう。酒場の主人が仕込みをしてるのがちらりと見えただけでぐっとくるし、ディスタンスを保ちつつも楽しそうに飲んでいるお客さんには心のなかでハイタッチしたくなる。大好きなあの店にも、あの店にも早く顔を出したくて、もう、体がいくつあっても足りませんよ。
 あぁ、酒場って、本っっっ当に、最高ですよね!

名店建ち並ぶ秋津の街

 その満州に続き、久々に僕が本格的に酒場で飲もうと向かったのが、秋津の街。
 ご存知のない方も多いと思いますが、西武池袋線の「秋津駅」とJR武蔵野線の「新秋津駅」というふたつの駅が、東京の東村山市にあります。その間をつなぐ通りが、徒歩5分ほどと微妙な距離ではあるんですが、乗り換えで使う人々が非常に多く、朝晩などはものすごい人の流れになるんですね。そこに需要が生じ、名酒場がぽつぽつと点在していて、一部では「西のホッピー通り」なんて呼ばれている。もちろん、本家である浅草のホッピー通りに規模はとても及びませんが、そこはほら、全国に無数にある「〇〇銀座」と同じノリと考えてもらえたら。
 けど秋津、本当に楽しい街なんですよ。だって、秋津駅南口の改札を出ると、いきなり目の前のマクドナルドと同じ建物に、昼からやってる立ち飲み「もつ家 本店」がある。少し行くと、またまた昼からやってる秋津酒場の代名詞「やきとり 野島」がある。さらにゴールの新秋津までたどり着けば、大衆酒場のお手本のような名店「サラリーマン」がある。もちろんその間にもたくさんの飲み屋が点在していて、ね? そんなのもう、楽しすぎるじゃないですか。

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「もつ家 本店」

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「やきとり 野島」

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「サラリーマン」

 で、今回の僕のお目当ては、実は新秋津駅近くに新装開店した「立ち飲みスタジアム なべちゃん」というお店だったんです。新装開店のお祝いがてらというか。
 そこでふらふらと西のホッピー通りを歩き、新秋津駅のロータリーまで行ってみると、確かになべちゃんを発見。けれども、下調べをしてこなかったのがいけないんですが、残念ながら営業中ではないよう。

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「立ち飲みスタジアム なべちゃん」

 あら、まいったな。SNSには昼間に営業している写真なんかもあがっていたけど、今は状況が日々変わってるもんな。そもそも、正式な営業時間や定休日なんかをまったくわかってなかった。こりゃあ、あらためて出直すか……。

巨大な串たちをひとりじめ

 とはいえここは秋津。そのまますごすごおうちに帰るなんて選択肢はありえません。じゃあもう、久々の「野島」に行くしかないっしょ!
 と、人気店である野島に到着すると、時間が早かったこともあり運良く先客はひとり。狭く細長いカウンターが中心のお店なんですが、ビニールシートやアクリル板などの対策がきちんととられていて、気持ち良く飲めそうです。
 まずはお姉さんに生ビールを注文。そうそう、ここの特徴として、最初に伝票を書く際、名前を聞かれるんですよね。で、お酒や料理ができるたびに、「はいパリッコさん(ここ、本当は僕の本名が入ります)、生ビールね!」なんて届けてくれる。いきなりの常連気分。これがすごく楽しい。

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「生ビール(中)」(500円)到着!

 しかも嬉しいことに、「新しいサーバーの口開け一杯めだったから、最初の泡どうぞ!」なんて、初物の泡が入ったコップがサービスについてきましたよ。あ〜、おれ、酒場にいるんだ! こういうことのひとつひとつが楽しくて嬉しいのが酒場だったんだよな! と、心の底から嬉しくなりました。

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「モロキュウ」(220円)

 さて、まずはモロキュウをつまみつつ、久々のメニュー表を吟味。するとさっそくお姉さん、そんな僕に気づいて「なにか焼きましょうか!?」ときた。

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相変わらず激安だな〜

 ここで若干あわて、「あ、え〜とじゃあ……」と、気分の串を5本ほど伝え、とどこおりなく注文が完了。しかしその5秒後、自分が重大なミスを犯してしまったことに気がつきます。
 というのも、野島の串焼きって、とても1本100円とは信じられないほどに巨大なんですよね。

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「すだちサワー」(330円)

 おかわりに頼んだすだちサワーを飲みつつ、やばいなぁこわいなぁなんて待ってると、5本の串たちが到着。
 う、うわぁ、やっぱりだ……。久々に見ると、記憶よりなおさらでかい。特にレバーなんか、大げさではなく、ひとつひとつが女性のにぎりこぶしくらいあります。
 何度も来たことがあって、その度に「でかっ!」と驚いてたくせにそのことを忘れてるんだから、すっかり酒場に対する感覚が鈍りきってるよなぁ。

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写真で伝わり切らないのがもどかしいほどに

 が、ここはもうモードを切り替えるしかない。野島の串×5本は、その日の晩ごはんが食べられなくなるコース確定だけど、逆に今日は、思うぞんぶんこいつらをひとりじめできるということだ。
 と、まずは久々の「地どり」串にかぶりつくと、柔らかくてぷりぷりでジューシーな肉とキリッとしたタレの旨みが口いっぱいに!
 そこからは無我夢中。「たん」のシャキシャキ、「もつ」の手ごわい噛みごたえ、「なんこつ」の軽快なコリコリ、そして何より「レバー」の、こんなにも巨大なのにふわっふわな焼きかげん! そのどれもを思いっきり堪能できる。しかも、久々の酒場酒をグイグイやりながら!
 気づけばカウンター内には女将さんも登場し、集まり出した常連さんたちと冗談を言い合っている。焼き場のお兄さんも忙しそうだけど楽しそうだ。お店にいる人、み〜んな笑顔。
 あぁ、この幸せはやっぱり、他には代えがたいよな。と、あらためて確信した次第です。
 というわけで、この日は大満足で帰宅。後編は、再び秋津へ向かい、いよいよ「なべちゃん」へ行ってみようと思うのですが、実はその取材はまだこれからなんですよね。さて、どうなることやら。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco


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