【リレーエッセイ】シリーズ40万部『愛着障害』の誕生、イワケン先生の初登場、そして3・11
こんにちは。いつも元気な電子書籍応援団長・佐藤からのバトンを受け取って、元気がアップしてきました^^ 新書編集部・草薙です。
今回は、2010年10月~2011年9月の光文社新書について、自分の担当書にも触れつつ、振り返ってみたいと思います。
『愛着障害』シリーズの第1弾が登場
この期間にもっとも売れた光文社新書は、なんといっても『愛着障害――子ども時代をひきずる人々』(岡田尊司、2011年9月刊)です。
発売当初の帯から、イラスト入りの全帯(その後同じデザインのオリジナルカバー)に変更して、さらに売り上げを伸ばしている『愛着障害』。
当時の編集長・森岡(現・企画出版室)が担当し、現在までに累計22万6000部の発行部数となっています。つい10日ほど前にも重版がかかりました(37刷)。ありがとうございます…!✨✨
精神科医であり、作家でもある岡田尊司先生は、その後も光文社新書から、
・『回避性愛着障害――絆が希薄な人たち』(2013年12月刊)
・『愛着障害の克服――「愛着アプローチ」で、人は変われる』(2016年11月刊)
・『死に至る病――あなたを蝕む愛着障害の脅威』(2019年9月刊)
をご出版いただき、それぞれロングセラーになっています(累計40万部超)。
また、岡田先生は、光文社新書ではありませんが、新書編集部の隣りのノンフィクション編集部から、『マンガでわかる愛着障害――自分を知り、幸せになるためのレッスン』(監修、2019年12月刊)、『母親を失うということ』(2021年2月)も出されています。それぞれ、三野知里さん、千美朝さんが担当です。(ちなみにまたまた話は広がりますが、千さんは以前にいた版元さんで、岡田先生のあのベストセラー『母という病』『父という病』『夫婦という病』も手がけています。買いました、読みました! 単行本時の装丁もとても素敵でした。)
光文社新書の4冊も、着々と版を重ねています。増刷のご連絡をするたびに、岡田先生は「たくさん読んでいただき嬉しい反面、それだけ愛着の問題で悩んでいる方が多いということですね」と複雑な思いを伝えてくださいます。生きづらさを抱えた人にたくさんのヒントを与えていることと思います。
岡田先生は現在、光文社新書では「不安型愛着」に関する新著を準備中、またノンフィクション編集部ではなんと今週金曜日(9/24)発売(一部オンライン書店では明日発売!)で、監修マンガの第2弾『マンガでわかるパーソナリティ障害――もっと楽に人とつながるためのヒント』を刊行とのこと。乞うご期待、です。
東日本大震災以降
ところで、この2010年10月~2011年9月、という期間を見たとき、みなさんの心に浮かぶのは、東日本大震災のことではないかと思います。
幸いにも弊社の被害はそれほどありませんでしたが(当時の編集長の席の背後にあった遮光ガラスのようなものが粉々に砕け落ちていて青ざめたのを覚えています)、東北地方を中心に甚大な被害を受けました。
2011年3月以降に立案された企画は、2020年2月以降の企画が新型コロナの影響を避けられなかったように、震災や原発、科学リテラシー、リスク論などを扱ったものがおのずと増えています。
この期間(震災後の5カ月)だけでも、以下のような新刊が刊行されました。
・『検証 東日本大震災の流言・デマ』荻上チキ(2011年5月刊)
・『風評被害』関谷直也(2011年5月刊)
・『内科医が教える 放射能に負けない体の作り方』土井里紗(2011年8月刊)
・『もうダマされないための「科学」講義』菊池誠、松永和紀、伊勢田哲治、平川秀幸、片瀬久美子、飯田泰之+SYNODOS編(2011年9月刊)
震災から2カ月後に発売された『検証 東日本大震災の流言・デマ』(荻上チキ著)。現編集長の三宅が担当しました。「流言やデマはどのように生まれ、どのように広がるのか? 真偽を確認するにはどうすればいいのか? ……実例をもとに、そのメカニズムを解説し、ダマされない・広めない基礎知識を伝授」とあります。今、現在に読み返しても役立ちそうです。
また、タイトルや企画に直接反映されていなくても、震災を受けて中身を加筆・変更したり、なにかしらの影響を受けて仕上がった本が多かったのではと思います。
イワケン先生の初登場
さて、この時期の刊行で、累計が2万部を超えている本を見てみます(『愛着障害』を除く)。
『誰も教えてくれない 男の礼儀作法』小笠原敬承斎
『経済古典は役に立つ』竹中平蔵
『バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる』髙橋洋一
『予防接種は「効く」のか?』岩田健太郎
『イタリア 24の都市の物語』池上英洋
『「事務ミス」をナメるな!』中田亨
『「だましだまし生きる」のも悪くない』香山リカ、取材・構成 鈴木利宗
『ウィキリークス以後の日本』上杉隆
『学校で教えてくれない 「分かりやすい説明」のルール』木暮太一
『子どもの「10歳の壁」とは何か?』渡辺弥生
『「意識の量」を増やせ!』齋藤孝
『孫正義 リーダーのための意思決定の極意』ソフトバンクアカデミア特別講義
『経営戦略の教科書』遠藤功
『宇宙のダークエネルギー』土居守、松原隆彦
『もうダマされないための「科学」講義』菊池誠、松永和紀、伊勢田哲治、平川秀幸、片瀬久美子、飯田 泰之+SYNODOS (編集)
経済、経営などを中心に、豪華な顔ぶれですね。
そして感染症の流行まっただ中の昨今、お馴染みになったお名前がありますね。
感染症がご専門の医師・岩田健太郎先生です。『予防接種は「効く」のか?――ワクチン嫌いを考える』(2010年12月刊)で光文社新書のラインナップに初登場してくださった年でした。医学書院の青木大祐さんという編集者さんから、ぜひ新書でいかがですか、ということでご紹介いただいて以来のご縁です。
医学書方面ではすでに売れっ子の岩田先生でしたが、一般向けの書籍では、まだそれほどたくさんはお書きになっていなかった頃だったと思います。
以来、岩田先生は、これまでに光文社新書で計8冊、ご出版くださっています。
・『1秒もムダに生きない――時間の上手な使い方』(2011年6月刊)
・『99・9%が誤用の抗生物質――医者も知らないホントの話』(2013年8月刊)
・『「感染症パニック」を防げ!――リスク・コミュニケーション入門』(2014年11月刊)
・『サルバルサン戦記――秦佐八郎 世界初の抗生物質を作った男』(2015年3月刊)
・『ワクチンは怖くない』(2017年1月刊)
・『ぼくが見つけた いじめを克服する方法――日本の空気、体質を変える』(2020年4月刊)
・『丁寧に考える新型コロナ』(2020年10月刊)
このうち、6冊目にあたる『ワクチンは怖くない』は、まだ入社3年目だった廣瀬雄規さん(現ヤフー)が担当してくれました。岩田先生で予防接種の本はすでに出しているので、と、企画をどう進めようか迷っていたところ、「自分はワクチンについてまだあまり知らないので興味あります」と手を挙げてくれたのでした。当時取り沙汰されていたHPV(子宮頸がん予防)ワクチンをめぐる問題についても触れられています。
岩田先生はこの間に他社さんでも、ものすごい数の書籍や絵本などを出版されていますね。
さて、岩田先生は、このアランちゃん9歳の期間に、もう1冊、『1秒もムダに生きない』(2011年6月刊)も刊行されました。
こちらは当初は、サブタイトルの「時間の上手な使い方」をテーマに岩田先生がお書きになったものですが、タイトルをつける段になって、編集部で悩みに悩んだあげく、タイトルを変更させていただきました。
読者の方からは「タイトルと読んだ印象が違います」「いい意味で裏切られました」という声が多くありました。どう違うのか……!? これについては、ぜひ読んでみていただけたらなぁ、と思います。いずれにしましても、時が経つにつれて評価をいただいているように感じる1冊です。
岩田先生が「1秒もムダにしない」というのは、いったいどういう意味なのか。ヒントは「他者のまなざしに規定されない」です。
第1章 時間を削り取る、時間を作る
第2章 時間を慈しむ
第3章 私の時間は何ものか
と、シンプルな3章構成です。この本も、最終章の第3章では、東日本大震災を受けて書かれた部分があります。第3章だけ、小見出しをご紹介します。
第3章 私の時間は何ものか
時間とは何か/時間と有限な命/挫折も停滞も回り道も/許容し、待つ/死後の名前/僕がいないと困る人のために/
おわりに(追補)
第1章、第2章とはややトーンが変わり、非常に心を打つ内容となっています。いまでも電子書籍でお読みになれます。
編集部のおすすめと、岩田先生のおすすめ
岩田先生といえば、この時期の刊行からは逸れますが、昨年(2020年4月)に出版された『ぼくが見つけた いじめを克服する方法』も、たいへんメッセージ性の強い本です。
この本の原稿自体は、2019年暮れに、「こんな原稿を書いたのですが」といただいていたものでした。かねてからいじめについても「社会の病気」として研究対象に加え、原稿を書き進めていたといいます。
出版の方向性やタイミングなどを探りつつ温めていたところに、新型コロナのパンデミックと、2月中旬のクルーズ船(ダイヤモンド・プリンセス号)での出来事が起こります。その後、下船した岩田先生が自主隔離されている中、動画での告発などを受けて、さまざまな見解が湧き起こります。心配しつつ行方を見守っていました。
そんな中、ふと、いただいていた原稿を読み返してみると――。「ずいぶん前に書かれていたものなのに」と、その衝撃は忘れられません(内容はこちらもぜひ、読んでみていただけたらと思います)。メールでご連絡をして、すぐに4月の出版が決まりました。「はじめにの前に」というものを加筆しただけで、本文はほとんどいただいた時のまま出版しています。
↑↑↑ 出版時に作成したこれらのnote記事は、とてもよく読まれました。
……とはいえ、光文社新書のなかで、岩田先生ご本人が一番思い入れがあるのが、じつは(おそらく)この1冊(『サルバルサン戦記――秦佐八郎 世界初の抗生物質を作った男』2015年3月刊)のようです!
たびたびご自身でSNSなどでご推薦くださっているのを拝見します(ありがとうございます!)。この本はこちらの事情で最後に急ぎの進行となり、デザイン会社(マルプデザイン)の方と、イラストレーターの宮本やもさん(帯イラスト)にご苦労いただきました。帯の秦佐八郎がかっこいいですよね!
この本についても、話すと長くなりますのでちょこっとだけ紹介しますが、「サルバルサン『戦』記」と「サルバルサン『前』記」の2本立てで交互に構成される、とても凝った作りの、読み応えのある作品(科学ノベル)です。岩田先生の故郷・島根県の誇る細菌学者・秦佐八郎が主人公。時空を超えた展開に引き込まれます。岩田先生って不思議、どんな人なの? と思っている方は、読んでみると、少しその謎に迫れるかなぁ……と思います。岩田先生の思いがたくさん詰まっている本だと思います。
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この時期のもう1冊
『子どもの「10歳の壁」とは何か?――乗りこえるための発達心理学』渡辺弥生(2011年4月刊)
最後にこの時期のもう1冊。震災の余震が続く中、入稿・校了した思い出深い本です。行く末への不安に加え、節電でいっそう暗く重かったフロアの空気を思い出します。とはいえ原稿の内容はとても前向き!で救われたものです。
そもそもはお子さんが10歳だった当時の編集長のリクエストを受けて、「10歳の壁」というテーマで書き手を探して書いていただいた、企画先行型の新書です。著者の渡辺弥生先生(発達心理学)はとても誠実にこのテーマに向き合って、時間をかけて書き上げてくださいました。「10歳までに」と急き立てる言説の多い中で、「壁ではないよ、子どもの10歳あたりというのは実はとっても面白い年頃なんだよ」と教えてくれる本です。着々と増刷しつづける(現在11刷)ロングセラーとなっています。
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