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トランプ・アメリカの差別に挑む女たちの法廷ドラマ「ザ・グッド・ファイト」

光文社新書の永林です。2021年2月9日、トランプ前大統領の弾劾裁判が始まりました。アメリカ史上、大統領の弾劾裁判は計4回、うち2回はトランプ氏という異様ぶり。でも、そもそも、弾劾裁判って何? という人もいるかもしれません。ちなみに政治に疎い私は、治部れんげさんの連載「ジェンダーで見るヒットドラマ」で今回取り上げる「ザ・グッド・ファイト」を見て、さらにその中でポップに歌われた"トランプの歌”を聞いて、仕組みがスッキリわかった次第……。
ほかにも、アメリカでは以前から大きな問題となっていたBLM運動や草の根のMe Too運動の実態、そしてトランプ政権下によるリアルな選挙妨害なども、私は約4年前に始まったこのドラマで知りました。トランプ大統領のロシア疑惑やレイプ疑惑などにも、政権にいっさい忖度しないで切り込むドラマは、日本ではありえません……。そんなアメリカの”今”を知れる脚本を、クリスティーン・バランスキーやオードラ・マクドナルドなど、トニー賞を何度も受賞した俳優たちが熱演するのですから、おもしろくないはずはありません。そしてこのドラマを治部さんは、フェミニズムの「交差性」と「優秀女性の多様性」が新しいと説きます。※以下、治部れんげさんによる記事はネタバレを含みます。未視聴の方はご注意ください。

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※書籍発売以降、有料記事となりました。後半は書籍か、記事を購入してお楽しみください。

優秀女性の見本市な法廷ドラマでアメリカの今をあぶり出す

2021年1月20日、アメリカ合衆国でジョー・バイデン大統領が就任し、新政権が発足しました。1月6日に米連邦議会にトランプ支持者が乱入し、死者が出る大惨事が起きてから約1か月が過ぎ、ようやく落ち着きを取り戻したようです。

今回は、トランプ時代のアメリカにおけるリベラル派の葛藤を描いたドラマ『ザ・グッド・ファイト』を取り上げます。NHKでも放送されたこの作品は、原稿執筆時現在、アメリカでシーズン5を制作中と発表されています。大ヒットした法廷ドラマ「グッド・ワイフ」で、主人公の勤務先だった弁護士事務所の経営者を主人公にしたスピンオフ作品です。こちらも法廷ドラマで、現代アメリカ社会でまさに今起きている、人種問題や性暴力告発のMeToo運動、SNSと言論の自由問題などを扱っています。


「ザ・グッド・ファイト」の主人公はダイアン・ロックハート(クリスティーン・バランスキー)というベテラン女性弁護士で、物語はダイアンが予想外の困難に見舞われるところから始まります。シカゴの大手法律事務所のネームパートナー(事務所名に自分の姓が使われる)だったダイアンは、60代を迎え、引退を控えていました。南フランスに素敵な別荘を購入しようとした矢先、資産を運用していたファンドで不正が発覚、億単位の資産を失ってしまうのです。突然の出来事に茫然自失するダイアンに、トランプ政権のめちゃくちゃさが追い打ちをかけます。

ドラマの中でダイアンはトランプ絡みの報道に唖然とし、現実があまりに酷いので妄想を見たりします。トランプ政権下の4年間、良識ある人々が抱いてきた苛立ちや葛藤を代弁するシーンです。

老後資産を全て失ったダイアンは、生活のために働かねばなりません。しかし勤め先は既に退職済。しかも不正を働いたファンドには、ダイアンの勧めに従って、多くの友人弁護士や女性の権利向上を目指す財団が資産運用を任せていました。信用を失ったダイアンをどの事務所も雇ってくれません。

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