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ドライフルーツの焼酎漬け|パリッコの「つつまし酒」#189

JUNERAYさんがやっていた

 僕も定期的に記事を書かせてもらっているWEBサイト、デイリーポータルZで、以前、ライターのJUNERAYさんが「ドライフルーツで果実酒を仕込むとすごい」という記事を書かれていました。
 一般的に果実酒というと、梅酒に代表されるように、旬の季節に果実を酒に漬け、それから飲みごろになるまでに、少なくとも数ヶ月はかかるもの。しかも、度数の高いお酒の他に氷砂糖を用意したり、それを計量したり、専用の瓶を煮沸消毒したりと、ものすごく手間のかかるイメージがありますよね。だけど、ドライフルーツであればいつでも手に入るし、気軽に少量から漬けられ、さらには漬けた翌日から美味しく飲めるのだそう。こんなにもズボラな僕にぴったりで、かつ楽しそうなお酒の楽しみがあるでしょうか?
 というわけで今回は、僕もそれをまねしてみようと思います。ただし、JUNERAYさんは、日本ソムリエ協会認定のワインエキスパートの資格を持つ、筋金入りのお酒のスペシャリスト。まがいものの僕とは違います。ゆえ、記事中に使っているお酒も、アマレット、テキーラ、ダークラム、ブランデー、ウイスキーと、それぞれのフルーツに合わせたもの。僕は正直、アマレットと言われても、それがどんなお酒だかよくわからないレベル。あぁ恥ずかしい。
 そこで、今回は開き直って、僕の大好きな「甲類焼酎」。これ1本で勝負してみたいと思います。

ドライフルーツたちにかけあわせるのは
潔く甲類焼酎!

 さっそく近所のファミリーマートへ行って、売り場にあったドライフルーツを片っぱしから買ってきてみました。ラインナップは、ゆず、レモンピール、みかん、パイナップル、マンゴー、干し梅、いちじく、バナナチップス。最近はコンビニにもこんなに種類があるんですね〜、ドライフルーツ。ちなみに漬け込み作業を始めるにあたり、そういえば「干し芋」も、言ってみりゃあドライフルーツみたいなもんだよな。もしかして、芋焼酎にならないかな? と思い、追加で買ってきて、最終的には計9種類に。

果実酒に関する大切な決まり

 ここでいったん、今回の企画を実行するにあたり、大切な大前提についてお話ししておきましょう。それは、自宅で果実酒を作るにあたっての注意点について。

日本蒸留酒酒造組合」のホームページに、こうあります。

しょうちゅう等に梅等を漬けて梅酒等を作る行為は、酒類と他の物品を混和し、その混和後のものが酒類であるため、新たに酒類を製造したものとみなされますが、消費者が自分で飲むために酒類(アルコール分20度以上のもので、かつ酒税が課税済みのものに限ります。)に次の物品以外のものを混和する場合には、例外的に製造行為としないこととしています。

 文中にある、家庭で焼酎に漬け込んではいけない「次のもの」がこちら。

1.米、麦、あわ、とうもろこし、こうりゃん、きび、ひえ若しくはでんぷん又はこれらのこうじ
2.ぶどう(やまぶどうを含みます。)
3.アミノ酸若しくはその塩類、ビタミン類、核酸分解物若しくはその塩類、有機酸若しくはその塩類、無機塩類、色素、香料又は酒類のかす

 つまり、どこでも手に入るからといって、たとえば「干しぶどう」をお酒に漬け込んではいけないというわけですね。
 また、この果実酒作りは、あくまで自分で漬けて自分で飲むためにのみ許されている行為。これを他人に分けてあげるとか、販売するといったことはできませんので、何卒ご注意ください。
 さて、以上の基本を踏まえたうえで、さっそくドライフルーツの焼酎漬けを作っていきましょう!
 といっても作業は本当に簡単で、プラパックの宝焼酎の外側のラベルをはがし、そこにマジックで各フルーツの名前を書いたら、ドライフルーツを袋から直接入れていくだけ。このとき、焼酎があふれてしまう可能性があるので、少しだけ別のグラスなどにとりわけておくことをおすすめします。そしてとりわけた焼酎には、炭酸水と氷を加えて飲んでしまうことをおすすめします。

楽しい作業
そして翌日

炭酸割りもいいけれど

 あまりにも簡単な作業工程を経て完成した、自家製のドライフルーツ酒。これを丸1日寝かせたら、さっそく試飲タイムだ!
 全体的にまだまだ、色は変わっていませんね。バナナが少しにごったくらいかな。ところがふたを開けてみると、それぞれしっかりとフルーツの香りがしますよ。

このへんは間違いなさそう
ちょっと味の予想ができないゾーン

 というか、プラカップにマジックでフルーツの名前が書かれた自家製の果実酒。その怪しさが、なかなかにやばいですよね。なんにも違法なことはしていないはずなのに、なんだかそわそわするというか、遠くでパトカーの音がすると「うち!?」と焦ってしまうというか。
 まぁ、くり返しますが、悪いことをしているわけではないので、楽しく飲んでいきましょう。ちなみに今回は、たっぷりと焼酎を吸った果実のほうも味わってみようと、クラッカーにクリームチーズを塗ったものをたっぷり用意し、焼酎から取り出したドライフルーツをのせて、つまみにしていきます。いや〜、結果が読めなくてわくわくするな〜。

いざ!

 ひとり試飲会は、小さなグラスにそれぞれのドライフルーツ酒を少量注ぎ、まずはストレート、次に炭酸割りにして飲んでみるという形ですすめていきます。もちろん、それぞれの焼酎漬けドライフルーツクラッカーも味見しつつ。
 すると、全体的な感想として、このようなことを感じました。
 まず、焼酎漬けドライフルーツのほう。これは、ひと晩でかなり味が抜け、かつ、焼酎の染み込んだ苦味が勝ってしまって、あまり美味しくないですね。JUNERAYさんのように洋酒あれこれで漬けたらまた違ったのでしょうが、味のない甲類焼酎なのでしかたないか。なのであくまで「出がらし」と考えたほうが良さそう。

漬け込みドライゆずサワー

 続いて焼酎のほうはというと、どれもそれぞれに美味しい。さすがにたった1日漬けただけなので、ものすご〜くまろやかになってる! というようなことはなく、ストレートはアルコール感が強すぎますが、炭酸割りはどれもいい。
 ゆず、レモン、パイナップルは安定感あり。みかんは、香りはそれらに劣るんだけど、なんだか安心感のある味で、家に常備してあってもいいくらいの美味しさ。梅はいわゆる、梅酒っぽくはなくて、居酒屋の梅サワー系統の味。これが家で気軽に飲めるのはかなりいいかも。マンゴーは、今のところあまり変化なし。いちじくはなぜか洋酒っぽいニュアンスが加わっていますね。驚くのは芋で、なんだか本当に芋焼酎っぽいんです。ただ、完全に甘すぎるので、カップ焼酎1本に対して、干し芋も1本でもいいかも。
 あ、それからさっき、「どれもいい」と言いましたが、バナナだけは例外かな……。というのも、そもそもココナッツ油で揚げてチップスにしてあるようで、他のドライフルーツとは生い立ちが違うんですよね。ゆえに、すごくお菓子っぽいというか、焼酎がバナナチップスそのものの味になってしまってます。これは、もう作らなくていいかな……。
 というわけで、いや〜今回も楽しかった、と原稿を書いて締めようとしたのですが、この試飲をやったのが一昨日。つまり現在、残った酒は、漬け込み4日目に突入しているというわけ。ふと見ると、2日目よりもさらにしっかりとエキスが出ているように見えます。
 そこでこれを、まさにこの原稿を書いている途中に、もしかしたらいいんじゃないかな〜? と思いついて「お湯割り」にして飲んでみたところ、これが抜群! 冬の晩酌のシメに飲みたい、ほっこりと美味しい味わいでした。

ドライフルーツ焼酎のお湯割り

 特にやっぱり、みかんと梅が好きですね。ただし、すでに味が濃く出すぎてしまっています。なのでおすすめは、普通サイズのボトルの焼酎に、干し梅なら3、4粒といったところかな。そのあたりの割合を自分なりに調整してみたり、他にもっと好みのフルーツがないかを探る楽しみも、このドライフルーツの焼酎割りにはあると思います。なによりも、材料を買ってきて合わせるだけという気軽さが嬉しい。
 ただし、くれぐれも、米や、麦や、あわや、とうもろこしや、こうりゃんや、きびや、ひえや、ぶどうなんかは漬けないようにご注意くださいね。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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