粕汁はどこまでシチューなのか?|パリッコの「つつまし酒」#139
関西では冬は粕汁らしい
「粕汁」っつーもんがありますわな。
なんて、いかにも知ったふうな口調で語りだしてしまいましたが、僕がその存在と味をきちんと認識したのはかなり最近の話。粕汁とはざっくり言うと、近畿地方が発祥とされる汁もので、大根やらにんじんやらの根菜類などと、鮭や豚肉なんかの具材をみそまたは醤油で煮込み、そこに酒粕を加えた料理のことです。
数年前から関西方面にちらほらと友達ができはじめ、SNSなどでやたらと「冬はやっぱり粕汁だよね」「そうだよね」なんて言っている。こっちはなじみがないもんで、「え、え、そうなの……!?」ってなもんなんですが、なんとなく食べる機会が訪れず、2年ほど前に神戸で飲み歩きをした際に、とある老舗の食堂で食べたのが初めてだったかな。酒粕ならではの妖艶かつ滋味深い風味をしみじみと味わう汁、という感じで、なるほどこれはいいもんだと感激したのを覚えています。
これ、和製シチューだよな
で、筋金入りの粕汁好き、つまりカスジラー、いやここでは、カスジロウと呼ぶことにしましょうか(そっちのが語呂がいいから)。そんなカスジロウの方々には怒られてしまうかもしれないのですが、粕汁って、家でもそれらしきものを簡単に作れてしまうのが、またいいところなんですよね。だって、野菜やら肉、魚やらの好きな具材を煮て、そこにみそを加えて、具だくさんみそ汁というか、雑なみそ鍋というか、まぁそういったものを作り、そこへ市販の酒粕を加えるだけでできちゃうんですもの。
これがですね、体が温まって、本当に冬場にいいんですよ。甘酒ってありますよね。あれは僕、そこまで大好物ってわけではないんですが、そのニュアンスが加わった鍋というのかな。香りの良いとろりんとろりんとした汁とホクホクの具材たちに、めちゃ癒される。
いつものおみそ汁に酒粕を加えるだけでできるんで、よかったら作ってみてくださいよ。
で、食べるたびに思うのが、「これ、和製シチューだよな」ということ。このポタージュ感、そしてまったりとした味わい。っていうか見た目がもう、ほぼ同じ。たとえばアメリカの方あたりに食べてもらったら、「Oh! My favorite soup, stew!」と言うに違いないんですよ。
粕汁三段活用
ところで我が家では、わりとよくホワイトシチューを作ります。大鍋にたっぷりと仕込んで、残ったぶんはタッパーにとっておき、2〜3日は温めなおしながら食べるのが通例。その際にですね、僕、2日めはにんにくとチーズを加えてシュクメルリ風に、3日めはカレー粉を加えてカレー風にと、味変を加えてバリエーションを楽しむのが大好きなんです。シチューって実は味がけっこうシンプルなので、別料理の土台としての受け皿が大きいんですよね。
そこで思った。粕汁でも同じことできないかな? と。
はい、今日もやっていきましょ。
まずは「松屋」が大ブームを巻き起こしてくれたおかげでその存在を知ったジョージア料理、シュクメルリ風。シュクメルリとは本来「鶏肉をガーリックソース、お好みで牛乳を加えて煮込んだ料理」だそうなのですが、松屋はそこにサツマイモ、そしてチーズをどーんと加え、かつかなりホワイトシチューに近いソースで発売した。そのことにより、シチューににんにくとチーズって合うんだ! と教えてくれた。というわけで今回は、粕汁に松屋スタイルのシュクメルリアレンジを加えていきます。
とか言って、冷蔵庫のストックに鶏肉がなかったので豚の角切り肉、サツマイモがなかったのでカボチャで代用してしまったんですが、まぁ今回は、粕汁ににんにく&チーズが合うかの検証なのでご容赦ください。とにかく、具材の鮭をさらってしまって野菜だけになった粕汁に、豚肉、カボチャ、にんにくチューブ、ピザ用チーズを加えて煮込みなおします。
あっという間に、「シュクメルリ風粕汁」の完成!
これがですね、完っっっ全にシュクメルリ! 「お〜い、酒粕よ、みそよ、どこいっちゃったんだ〜!」ってくらい違和感がない。あとですね、酒粕の効果か、ちょっと煮込んだだけなのに豚肉がめっちゃくちゃ柔らかい!
こうなってくるとがぜん、日本酒よりもビールやチューハイなどのシュワシュワ系が合いますね。
たっぷり作った粕汁が余ったらシュクメルリ風。これは、いい!
じゃあ、カレーはどうだ?
粕汁に豚肉とカレー粉適量を加え、足りなければ塩で味を調整。それだけです。
するとこれまた、笑っちゃうくらい美味しいカレー!
意外だったのが、なんでも包み込んでしまうカレー粉をたっぷりと加えたのに、シュクメルリの時よりはしっかり酒粕の風味が残っていること。が、それが嫌とかではなく、上品かつこだわりのカレーという味わいで、京都あたりにニューオープンしたカフェでこれが出てきたら、1700円までなら払ってしまうレベル。
結論、やっぱり酒粕は、どこまでもシチューでした。