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【26位】オーティス・レディングの1曲―微妙にして繊細な「魂の置き場」を平熱で、激動の時代の真ん中で

「(シッティン・オン)ザ・ドック・オブ・ザ・ベイ」オーティス・レディング(1968年1月/Volt • Atco/米)

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※こちらはドイツ盤シングルのジャケットです

Genre: Soul
(Sittin' on) the Dock of the Bay - Otis Redding (Jan. 68) Volt • Atco, US
(Steve Cropper • Otis Redding) Produced by Steve Cropper
(RS 73 / NME 103) 428 + 398 = 826
※28位から25位までの4曲が同スコア

不世出のソウル・アーティスト、オーティス・レディングの代表曲が「826点」でここに入った。ソウル・ファンで、このナンバーを知らない人はいないはずだ(もしいたとしたら、それは論理的におかしい)と言い切っていいほどの、歴史的名曲だ。

レディングというと、まずなんと言っても「熱唱」だ。魂の燃焼力で空気も焦がすような唱法が、そのまま「サザン・ソウル」の基礎を成した。が、この曲はちょっと違う。ソフトで、レイドバックしているのだ。ゆったりと泰然自若、寄せては返す波のようなミディアム・テンポにて、「人生のなんでもない瞬間」の、退屈な光景が描写されていく。

主人公は波止場にいる。座って潮の満ち引きやら、船の行き来をただ眺めている。朝から始めて、なんと、ずっとそのまま「夜までこうしているだろう」なんて言う。つまり彼はひたすら「時間を無駄に」している。人生の目標もない。この先いいことなんてないようにも思っている。「だけど」と、主人公は言う。「僕はこれからも、ずっと変わらずにここにいるよ」――という歌だ。この「波止場」とは、一種の精神的シェルターだろうか。心を落ち着けて、頭を冷やし、自らの「常態」を取り戻すための場所みたいに見える。

レディングはこの曲を、ツアー中に書き始めた。伝説となったモンタレー・ポップ・フェスのステージの数週間後、彼はサンフランシスコから湾をはさんで対岸にある町、サウサリートのハウスボートに滞在。同地の情景描写が曲の基礎になった。作業を終えたのは、メンフィスにて。「グリーン・オニオンズ」(66位)をヒットさせたMGズの一員でもあるギタリスト、スティーヴ・クロッパーの助けを得て、曲がまとまったのが12月7日。その3日後に自家用飛行機が墜落、レディングは帰らぬ人となる。26歳の若さだった。

彼の死後およそ1ヶ月後に発表された当曲のシングルは、ビルボートHOT100の1位を記録。これはレディングにとって初の首位だった。また死没したアーティストの曲がチャートの1位となったアメリカ初の事例ともなった。全英では3位だったのだが、同名アルバムは1位となり、これもまた、同チャート没後アーティスト初の事例となった。  

急逝の衝撃がヒットに寄与したことは、疑いようもない。しかし興奮に満ちた激動の60年代終盤だからこそ、この歌の「平熱感」を、切なくも美しいトーンを、多くの人が愛した。レディングは、人生のエアポケットのような瞬間にふと感じる「心のゆらぎ」をスライスして取り出すことで、「普遍」をこそ指向するソウルを、ここに打ち立てた。

(次回は25位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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