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萵苣(レタス)倶楽部|パリッコの「つつまし酒」#196

卓上ホットプレート解禁により

 娘が生まれてから一度も、我が家では、家族で食卓を囲む場合において、卓上ホットプレートを使う料理をしてきませんでした。理由は、ちょっと過保護かなとも思いつつ、熱々のものが常にテーブルにあって、娘が火傷をしてしまうような事故が起きるのがこわかったので。
 ただ、娘ももう5歳。触っちゃダメだよと言えば、きちんと理解して守ってくれる。また、ずっと良い評判を聞いていた「BRUNO」というホットプレートの、ミッフィーの限定デザインのものを妻が見つけ、最近、思いきって購入。それを機に、卓上ホットプレート料理が、数年ぶりの解禁となったのでした。
 以来、いちばんよくやっているのが、やっぱり鍋。冬場は毎日でもいいくらいですからね。定番の味つけは、市販の「鍋キューブ」という鍋のもとの、濃厚白湯パイタン味。とても美味しいうえ、キューブの個数で味の濃さが調整できるのが便利で、しかも小分けパックなので、残ったぶんは保存がきく点もありがたく。そのつゆに、豚ばら薄切り肉、鶏だんご、豆腐、マロニー、各種野菜なんかを入れるだけという、まぁ、ごくシンプルな鍋です。
 で、そこに入れる野菜に関してなんですが、今までの僕は、長ねぎ、白菜、キャベツを三大巨頭と考えていました。ところがここに来て、がぜん急浮上してきた野菜がいるんです。それが「レタス」! きっかけは妻の「冷蔵庫にレタスがあまってるから、今日は『レタしゃぶ』にしてみる?」という提案からだったんですが、「それもいいね」くらいの気持ちでやってみたところ、鍋で煮たレタスのうまさに開眼してしまったというわけなんです。今や、鍋に入れる至高の野菜って、もしかしてレタスなのでは? と、本気で思ってるほど。
 僕、今までレタスのこと、正直、サラダやサンドイッチのいち具材くらいにしか思っていなかったところがあります。大バカ野郎ですよ。どれだけレタスに謝っても謝り足りない。だってまじ、火を通したレタスの美味しさ、とんでもないんすもん。
 というわけで今回は、今までのことを深く反省し、レタスづくしの料理をつまみにお酒を飲んでみた最近のことを、ここに書き記しておこうと思います。結論から先に言っておくと、レタスはどう食べてもうまい! レタスは偉大! もはや僕、違いのわかる美食人しか門を通ることを許されない、完全会員制のレタス料理専門店「萵苣倶楽部」を、今すぐ作るべきなんじゃないかと、本気で悩んでます。

本日の主役

※「萵苣ちしゃ」とは、レタス、サラダ菜、カキチシャ、タチヂシャ、サンチュなどの総称。つまり正確には、萵苣をレタスとは読みません。ここではあくまで、「本気」と書いて「マジ」と読むノリの当て字として使用しています。

レタスづくしの洋食セット

 さてレタス晩酌の1夜目。今日は洋風方向で攻めてみましょう。
 1品目はサラダ。レタスといえばの「チョレギサラダ」でいってみましょうかね。それにしても、生まれて初めてチョレギサラダを食べた時はびっくりしたもんだよなぁ。こんなにうまい野菜サラダがあるの!? って。

「チョレギサラダ」

 これはまぁ、レシピというほどのものでもなく、市販のドレッシングとちぎった韓国海苔をかけただけ。
 続いてメインは、「レタスのステーキ」でいってみようと思います。そこに、レタスチャーハンならぬ「レタスガーリックライス」を添えてワンプレートにして。
 と、まずはフライパンに油をしいて薄切りにしたにんにくを加えて香りを出し、炊いたお米を投入して炒める。塩コショウで味つけしたらそこに、細かめにちぎったレタスをどっさりと入れ、火を止めて全体をざっくり混ぜる。はい、レタスガーリックライス完成。先にプレートに盛っておきましょう。
 そしたらメインのステーキ。といっても、レタスの旨味をぞんぶんに味わいたいので、ごくシンプルに作っていきましょうね。先ほどと同様、フライパンでにんにくを炒めたら、そこにざくっと大きく切ったレタスを並べます。

初めての体験

 そしたらじっくり、中火で両面に焦げ目がつくくらいまでよく焼いて、仕上げに醤油を回しかけるだけ。

焦げ目がうまそうだ

 これをさっきのプレートに盛りつければ、ステーキ&ガーリックライス&サラダの、レタスづくし洋食セットの完成〜!

赤ワインを添えて

 メインのレタスのステーキ、あきらかに初めて目にする料理ですが、どう考えてもうまそうです。ざくっとナイフを入れ、おもむろにほおばる。じゃくじゃくじゃく、じゅわー……。にんにくと醤油の香ばしさが、甘〜いレタスの味と融合し、食感はとろりとしていながら、しゃきしゃき感もちゃんと残っている。レタスって、熱を加えるとどうしてこう、肉厚に感じるんですかね? そこが不思議。とにかく、肉のステーキにぜんぜん負けてない満足感ですよこれは。

完全にごちそうだ

 そのまま続けてレタスガーリックライスをほおばると、どっちも主な食材がレタスとにんにくだけとは思えないほどに、それぞれに個性があります。やっていることは、レタスをおかずにレタスごはんを食べているだけと言えなくもないんですが、きちんとステーキ&ガーリックライスの満足感があって、はっきり言って、驚異的にうまいです。
 ここでやっと赤ワインをごくり。もはや気分はステーキハウス。やっぱりすごいな、レタス様は。

混ざりあったとこがまたうまい

レタスづくしの和定食

 レタス晩酌の2夜目は、和食でいってみましょう。メインは、まったくイメージのない「レタスの天ぷら」。それを天丼にして、レタスのみそ汁と、レタスのぬか漬けを添えた定食をこしらえてみようと思います。
 さっそく、レタスに衣をつけて揚げちゃいましょう。ぴちゃっぴちゃっ、じゅわー。というその工程には、当のレタスがいちばんびっくりしたかもしれませんね。水分が多いので心配だったのですが、爆発したり油がはねまくるということもなく、無事からりと揚がってくださいました。レタス様。

レタスを揚げて
どんぶりめしの上にのせる

 ぬか漬けは前夜のうちに仕込んでおいたもの。僕は、野菜にまぶしてラップで巻いておくと簡単にぬか漬けができる便利な市販品「ぬかチューブ」を愛用しており、それでお手軽に作りました。みそ汁はもう、いつもどおりに作って、具材にレタスを入れるだけ。

「レタスのぬか漬け」
「レタスのみそ汁」

 醤油、みりん、砂糖を煮つめて作った天丼のタレ、それからよ〜く冷えたビールも用意して、レタス天丼定食の完成〜!

潔いほどにグリーン

 まずはズズズとおみそ汁から。うんうん。まったく違和感なく美味しいし、けっこう長時間煮てしまったんですが、それでもレタスにしゃきしゃき感がかなり残っていることに驚き。もっとへにゃっとしているのかと思いきや、レタスって、かなり威勢のいい野菜だったんですね〜。
 しゃきしゃき感といえばぬか漬け。これがもう、今まで食べたどんな野菜のぬか漬けよりもしゃっきしゃき! ぬかの酸味と熟成感、レタスの甘さと青みが相まって、ものすごく酒のつまみにいいです! 派手さはないけど、こいつは僕の晩酌レシピの殿堂入りだな。
 ではいよいよ、メインの天丼へ。じゅわっとタレをかけると、どんぶりから立ち上るレタスの甘〜い香り。食べなくてもわかる。これ、間違いないですわ。が、もちろん食べますよ。食べますともそりゃ。
 まずは天ぷらを1枚持ち上げ、さくっ。っくう〜! 軽快な衣に包まれた、熱々で、やっぱり肉厚なレタス。それを噛みしめるごとに、口のなかにレタスの旨味の大洪水。こりゃ、とんでもないな……。

こうなったらもう止まらない

 あとはもう、欲望にまかせてごはんとともにガツガツとかっこむのみ! 言うまでもないと思いますが、今、欲望にまかせてごはんとともにガツガツとかっこんでるの、レタスですからね? あの、緑の葉っぱの。なのに、海老や鶏や穴子やいかにも負けない満足感がそこにある。ぐいっと飲むビールが、最高にうまい!
 ……やはり、作る必要がありそうですね。誰も動かないならば、僕が。「萵苣倶楽部」を。
(次回の更新は3月3日です)


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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