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DVを正面から描くハリウッドスター競演ドラマ「ビッグ・リトル・ライズ」

光文社新書の永林です。新年度が始まって2週間が過ぎ、子どもたちは新しい環境に少し慣れたころでしょうか。子どもが小さい方にとっては、新しいママ友、パパ友との出会いがある季節でもあります。今回の「ジェンダーで見るヒットドラマ」でご紹介するのは、ニコール・キッドマンやリース・ウィザースプーン、ローラ・ダーンなど(シーズン2にはメリル・ストリープまで!)、世界に名だたるハリウッドスターたちが複雑なママ友模様を演じる「ビッグ・リトル・ライズ」です。アメリカで大きな話題になり、ゴールデングローブ賞やエミー賞を複数受賞したこの超豪華ドラマの凄みは、エンタメ性を追求しながらも、深刻な社会問題を正面から描いているところだ、と治部れんげさんは語ります。

6月16 日発売の治部れんげさんの新著「ジェンダーで見るヒットドラマ」の原稿を、光文社新書noteで先行公開しています! ↓↓

※書籍発売以降、有料記事となりました。後半は書籍か、記事をご購入いただいてお楽しみください。

セレブママの日常に隠れたDV問題を描く凄み


その夜、私はいつものように「何かおもしろいドラマはないかな……」と、Amazon videoのサイトを彷徨っていました。女性3人の顔の上半分だけが並んでいる少し変わったパッケージ写真に目を止めると、ニコール・キッドマン主演の「ビッグ・リトル・ライズ」でした。キッドマンは映画スターのイメージが強かったので「ドラマにも出るんだ」と少し驚き、クールビューティーをドラマでどう生かすんだろう、というミーハーな関心から見始めました。

舞台はカリフォルニアの住宅地、主な登場人物は母親たちと父親たち、そして子ども達と学校の先生です。イントロでは毎回、海辺の道路を走る車の運転席からの美しい光景が映し出され、目の保養になります。

◆ママを分断する労働時間のライン

初回冒頭から引き込まれたのは、母親同士の心理戦を巧みに描いていたからです。学校のオリエンテーションに向かう母親マデリン(リース・ウィザースプーン)は道中、足をくじいてしまい、居合わせた同じ学校の保護者ジェーン(シャイリーン・ウッドリー)の車に乗せてもらいます。マデリンは、ジェーンがいわゆるキャリアママではないと知ると「主婦のママと知り合えて良かった」と言います。「キャリア優先の人とは分かり合えない」「(彼女たちは)ボードミーティング(役員会)ばかり行ってるから」というマデリンの言葉は、特定の人物に対する批判です。それは、同じ学校の保護者で地元教育委員会委員などを務める成功したワーキングマザーのレナータ(ローラ・ダーン)。実際に、レナータは学校でマデリン達に会うと「ペイパルの役員になったの!」と話しますから、文字通り役員会(ボードミーティング)で忙しい成功したキャリアママです。

ちなみに、学校に向かう車中で、ジェーンが「自分は働いている」と話すとマデリンは「自分も働いているが、パートタイムだ」と述べます。ここでマデリンはパートタイムで働く母親は専業主婦の仲間であり、フルタイムで働くレナータのような母親との間には越えられない一線があるという自分の価値観を明確に示します。

専業ママと働くママの対立は、日本のウェブメディアにも繰り返し書かれています。私自身は対立を煽るコンテンツが好きではありませんが、両者の間に心理的分断がない、とは言えません。

学校では、マデリンとレナータをそれぞれ中心とするママグループができており、初日のオリエンテーションで対立は決定的になります。レナータの娘の首にあざが見つかり、ジェーンの息子がいじめの犯人と名指しされますが、本人は「やっていない」と言います。謝罪を要求するレナータと、息子を守ろうとするジェーン、ジェーンを守ろうとするマデリンのやり取りに緊張が高まっていきます。

このように、子育てを巡るママ達の葛藤と対立をメインテーマに据えつつ、ドラマは子ども達、その配偶者など家族関係を描いていきます。私が本作を見るきっかけになったキッドマン演じるセレステは、元弁護士で現在は専業主婦。金融関係の会社で重役を務める夫と、海を見下ろす邸宅に住む富裕層です。子どもは元気でいたずら好きな双子の男の子、それは絵に描いたように幸せな家庭です。

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