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「最近楽しいことあった?」問題|辛酸なめ子

「落ち着いたら会おうね」の副作用

 このところなぜか友人知人と疎遠になっています。「コロナが落ち着いたら会おうね」と、コロナを口実に数年間、会う機会が減っていた友人が何人かいました。コロナ禍が明けてからは「落ち着いたら会いましょう」と言われて、何が落ち着いたらなのか、もはや主語がなくなっています。他にも、一年半以上前にお花見に行こうと計画していたのに「日時が決まったら連絡します」と言われたまま音信が途絶えた人、会う約束が何年も実現しない人、2回くらい約束をドタキャンしてきた人など……。スピリチュアル系の人に言わせると、今は地球人類が二極化していて、アセンション(次元上昇)に向かう過程で、波長が合わない人とは自然と疎遠になっていくそうですが……。逆に自分がふるいにかけられている側でないことを祈ります。

 人間関係が過渡期の今、Z世代の若者に人気のカフェの存在を知りました。原宿にオープンした「友達がやってるカフェ/バー」は、2023年上半期のトレンド調査で、Z世代が選ぶコト・モノのトップに選ばれたほどのバズり店。「友だちが働いているカフェ」というコンセプトで、店員が友だちっぽくタメ口で接客してくれます。

 淋しさをまぎらわせるため、夏の日曜日の昼下がりに伺いました。ビルの3階にあるお店の前には、既に5、6人の人が列を作っていました。連休だからかなり混んでいるようです。20代がほとんどで、私は最年長っぽい予感ですが、猛暑の太陽が照りつける中、外階段で待つのは年齢的にもこたえます。

タメ口のむずかしさ

 すると緑のエプロン姿の店員の女性が出てきて、外で待っているお客に「ごめんね~、暑いよね」「テイクアウトだったりする?」「メニュー渡しとくね」などとフレンドリーに話しかけていました。私も「ごめんね、待っててね」などと言われてちょっと嬉しかったですが、タメ口に慣れていなくて「はい……」と返事。後ろの男女は「そのニューエラのキャップいいね」などと話しかけられていて、ニューエラはZ世代に人気らしい、とインプット。男女の客は「今日はタメ口でいこう」と決意を語っていました。店内をのぞくと横に長いテーブルに18席ほど並んでいて、満席でした。メニューを見ると、コンセプト代が入っているのかドリンクも700円くらいはして高めなのですが、それでも若い世代で繁盛しています。

「暑いよね、大丈夫? トイレとかあったら言ってね」と、また様子を見にきた店員さんに声をかけてもらいましたが、トイレが近い年代と思われたのかもしれません。

 30分ほど待ってやっと中に入ると「やっほー! 元気?」「久しぶりだね!」と迎えられました。「やっほー」なんて今まで実生活で発したことないかもしれません。店員さんはかなりかわいい女子が揃っています。カフェについて調べたら、接客スタッフは全員、役者やモデルなどエンタメ業界で活躍している方々だそうです。こんなにイケてる人が友だちだったら……という憧れを叶えてくれる空間。役者だから、友だちになりきって会話できるのでしょう。演技力のトレーニングにもなりそうです。

はじめての「いつも飲んでるやつ」

 メニューを見ると、名前がそれぞれ凝っていて

「大変そうだから、すぐ出せるので大丈夫だよ(ドリップコーヒー)」¥680
「自分で考案したって言ってたやつって、これ?(いちごミルク)」¥960
「サッと出てくるおつまみ、何かある?(スパイシーオリーブ)」¥500
「さすがにラーメンとかって無いよね…?(チキンラーメン)」¥800

といった感じです。このこなれたセンスと ”仕掛けている感” が気になりましたが、調べたら、このお店は元電通の人がブロデュースしているようです。結局いつも電通の仕掛けに乗ってしまうのでしょうか……。

 せっかくなので「いつも飲んでるやつ」というメニューを頼んでみました。1400円のカクテルが来たらどうしようかと思ったのですが、「アイスコーヒーかアイスラテだったよね」と一応軽い確認が入り「アイスラテで」とオーダー。

 ドリンクを待っていたら、別の女性店員が「暑い~涼みに来た~」と自然な感じで近くに来ました。「今日はこのあとどっか行くの?」と聞かれたので「バーゲンに行くかも」と返答。20代と友だちっぽい会話をするうちに、暇だった20代の頃に感覚が戻り、あてどなく街をブラブラしたくなってきます。ふと、友だちだから「お金貸して」とか言ってみたくなりましたが、出禁になりそうなのでやめておきます。

「トイレある?」「あるよ。壁の向こう」。ちなみにWi-Fiはないそうです。

 近くの席には若い男性3人組が。かわいい女性店員さんと写真を撮りたいらしくてそわそわしています。そのうちのメガネ男子が「俺、ムリだ~」とつぶやいていました。友だちの演技が苦手な人もいるようです。私もどちらかというと苦手ですが、イケてる若い女性と友だちっぽい会話ができる、という喜びの方が勝っていました。

 他にはほとんどひとり客がおらず、私も冷静になるとアウェイ感に襲われそうに。向かいの席が空いていたのですが「ここに置いておくね」となぜかドライフラワーの花瓶を目の前に置かれました。友だちの代わりなのでしょうか。そういえば、このカフェに友だちを誘ったら当分忙しいと断られたことを思い出しました。現実は淋しいですが、この空間では友だちが何人もいます。「ありがとう~」「気をつけてね~」と送り出してもらいながら、しばらく、誰とでも友だちになれるような錯覚に浸りました。

▲「いつも飲んでるやつ」


「友だち」と再会(初対面)

 それからしばらくして、初秋にもひとりで「友達がやってるカフェ/バー」を再訪しました。平日の夕方なのでお店は空いていました。店に入ると店員さんたちが手を振ってくれています。前に見かけた人もいて、こちらは勝手に親近感を抱いてしまいますが、店員さんにとっては何千人のうちの一人なのでしょう……。でもそんな淋しさを感じさせないくらい、「今日めっちゃ暑いね」と、フレンドリーに話しかけてくれます。

「『いつも飲んでるやつ』お願いします」と、またオーダーすると「リンゴジュースだっけ?」と確認が。あまりリンゴジュース気分じゃなかったので、「好きな人が良く飲んでるやつ頼んじゃおうかな~(レモネード)」(\900)にしてみました。

「アクセサリーかわいいね。何の石?」とおしゃれな女性店員に聞かれましたが、失念していました。こんなときに加齢を感じます。しかもその女性店員は、自然に「久しぶり~中目黒のバーベキューぶりじゃん」とか言ってきて、一瞬目が泳ぎかけましたが、「そうだね。ビルの屋上の。2ヶ月くらい前だっけ?」と、なんとか話を合わせました。話しながら、私が忘れていただけで、彼女とは前にどこかで会ったことがあるのかも?とすら思えてきました。

 しかしそのあと「最近何か楽しいことあった?」という質問には、なかなか言葉が出てきません。楽しいこと……楽しいこと……。それよりも、ツイッターが有料化するかもしれない説、インボイス制度の面倒臭さ、などネガティブな話題しか思い浮かびません。私も20代の頃はもっと希望にあふれていたかもしれない……と反省。「めっちゃ考えてるじゃん」と突っ込まれながらも、しばらく考えて「ユニクロCで買物をしました」と答えて、どんなものか聞かれたので「イギリスの、ジバンシィやクロエを手がけてたクレア・ワイト・ケラーがデザインしたラインで……」と説明したら、「エグいねユニクロ」とのことでした。だいたい5000円前後でかなり安い感覚でしたが、20代の友だち(店員さん)にとっては「金欠なので買えない……」そうで、リアルな金銭感覚が伝わりました。

「疑似友だちプレイ」で得られるもの

 女性店員は隣の若い男性客のところに行き、その男性が最近コロナになった話をすると「私も先月コロナになって……全身痛くなっておじいちゃんみたいにしか歩けなくて」などと話すのが聞こえてきました。猛暑の話、体調の話は年齢性別関係なくトークができます。「トウジのライブでもらってたみたいで」「トウジいいよね。王道系しか知らんけどインスタで動画流れてきて……」という会話から、またZ世代に人気のミュージシャンをインプット。後で調べたら「Tohji」という表記のようで、おしゃれな曲でした。店内ではK-POPが流れ「あ、NewJeans。NewJeansめっちゃかわいい。曲おしゃれだよね」と店員さんが話していました。Z世代カルチャーを吸収できる貴重な空間です。

 店員の女性同士、「私の人生の優先順位の1位は恋愛だから」と、さらにディープな話を繰り広げているのが聞こえました。「みんなで焼肉行きたいね~」。疑似友だちの演技と、本当の友だちの差を感じます。

 ふと、淋しくなって、この近くで働いている友だちを呼ぼうとメッセージを送りましたが、今日は都合が悪いとのことでした。リアル友だちと会えるようになるまで、しばらくこの店で心の隙間を埋めたい気持ちです。何かの時に使える演技力が身に付いたり、Z世代の音楽やカルチャーを知ることができたり、記憶力の訓練になったり、ポジティブな考え方を心がけるようになったり、実は大人のひとり客に様々なメリットが。縁遠くなるリアル友だちに追いすがるかわりに、あとくされのない関係と、新しい刺激を得られました。このお店に限らず、美容院でも、アパレルショップでも、友だちっぽい会話のプレイで、一時的に対人欲求を満たすことができます。友情は年月の長さばかりが重要なのではなく、瞬間的にも感じられるものなのです。


今月の言葉

 友だちと疎遠になってひとり暗くなるくらいなら、外に出て店員との疑似友だちプレイを楽しむ方がポジティブになれます。

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