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【17位】マーヴィン・ゲイの1曲― ぶどうのつるに囚われて、狂おしい執着に悶え

「アイ・ハード・イット・スルー・ザ・グレープヴァイン」マーヴィン・ゲイ(1968年10月/Tamla/米)

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※こちらはドイツ盤シングルのジャケットです

Genre: Soul, R&B
I Heard It Through the Grapevine - Marvin Gaye (Oct. 68) Tamla, US
(Norman Whitfield • Barrett Strong) Produced by Norman Whitfield
(RS 81 / NME 46) 420 + 455 = 875

マーヴィン・ゲイ、2曲目のランクインにして、あの「ホワッツ・ゴーイング・オン」(36位)よりかなり上に来た。その理由は〈NME〉の投票行動による。こっちのほうが、圧倒的に高かった。「イギリス人が最も好きなモータウン・ソング」だという声もある。

そこまで受けた理由を、当曲の「ねじれた」重苦しさのなかに僕は見る。主人公は、恋人の不実を疑う。彼女が「ほかの男」と仲よくしていた、と人から聞く。そして嫉妬にかられて問いつめる、というストーリーだ。猜疑心ゆえの、暗く狂おしい情念の歌なのだ。

というこのナンバーの「必殺」フレーズが、タイトルにもなったひとこと。そのまま訳すると「ぶどうのつるを通して聞いたんだ」だが、これは慣用句で「人づてに聞いたんだ」という意味になる。作詞者のバレット・ストロングがシカゴの街でこの口語を「頻繁に」耳にして、歌の素材とすることを思いついた。語源は南北戦争にまで遡る。木から木へと渡された電信用の電線は「ぶどうのつる」のようだった。転じて「口づてで伝えられた情報」について、逃亡奴隷たちは「ぶどうのつるを通して聞いた」と称するようになる。

この言い方が個性的なフレーズとなって、繰り返される。また主人公の苦悶の脈動の象徴みたいに、冒頭からずっと鳴り続ける電子ピアノの呪術的なリフレインも印象的だ。このふたつが重なり合って、成功を引き寄せた。邦題は「悲しいうわさ」だった。

当曲は一種の「競作」となっていた。最初にヒットさせたのは67年のグラディス・ナイト&ザ・ピップスで、ビルボードHOT100の2位まで上昇。当時これは、モータウン系列で最大のヒットだったのだが、当ヴァージョンが一気に凌駕する。同1位を7週連続記録した。全英も1位を獲った。当初はアルバム『イン・ザ・グルーヴ』の収録曲としての発表だったのだが、ラジオでのエアプレイが途切れないためシングル・カットしたところ、化けた。明るく軽快なナイト版よりも、こっちの「暗さ」が、鬱屈した「恨み節」が、より受けた。テンプテーションズに栄光をもたらした作曲家にしてプロデューサー、ノーマン・ホイットフィールドのこだわりが、このアレンジのもとでようやく結実した。

その後もずっと、とにかくこの「ゲイ版」のカヴァーが多い。約11分にも及ぶクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルのヴァージョン(70年)は有名だ。UKのザ・スリッツによるパンク・レゲエ版(79年)では、件の電子ピアノのラインを、まるで本物の呪文みたいに、低い声のハミングとベースで表現していた。

(次回は16位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki



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