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卒園酒|パリッコの「つつまし酒」#224

保育園の卒園式

 先日、ひとり娘の保育園卒園式がありました。
 や〜、早いもんですね。ひとつひとつのできごとを思い出すとはるか昔に感じるけれど、ふり返るとやっぱり早い。初めての登園日、当然親と離れたくなくて、大泣きしていた姿をよく覚えていますが、0歳児クラスから通っていたから、あのころはまるっきり赤ちゃんだったもんなぁ。それがもう、あと数日で小学生ですよ。や〜、早い。
 良き先生たちに恵まれ、友達もたくさんできたようで、お迎えに行ってもまだまだ遊びたがってしまい、なかなかスムーズに帰ってくれない。僕は心が狭いもんで、「も〜、早くして!」なんてイラッとしちゃったりもするんですが、考えてみるとありがたいことなんですよね。幸いそのまま同じ小学校へ通える友達も多く、今後もまぁ、楽しくやってくれたまえよと祈るばかりです。
 また、ぜんぜん予想していなかった嬉しいこともありました。それは、個人的に飲み友達が増えたこと。
 というのも、コロナの状況が少しずつ落ち着きはじめたあたりから、だんだんと娘の友達家族との園外での付き合いが増えてきたんです。最初は様子を見ながら公園遊びやピクニック。だんだんと、あそこのお父さん、酒好きっぽいぞ、みたいなことがわかりはじめ、「こんど、飲みに行きましょうかー」なんて話が出るようになり、パパ会的な飲み会をしてみたところ、みんな飲む飲む。いや、なかには飲まない人もいるんだけど、そういう場は好きって人は来てくれて、なんだかもう、特に仲のいい数人は、10年来の友達みたいな空気感なんですよね。これに関しては、僕がたまたま運が良かっただけなんでしょうが、まさかこの歳になって、地元で気軽に飲める友達が急に増えるなんて思ってもみなかったので、これまたありがたいことです。

持ち込み可のカラオケで飲んでたある夜の様子

定番モーニングプレート

 ところで娘は食に対してかなり保守的で、基本的に知っているものしか食べないタイプ。固形物を食べられるようになってから今にいたるまで、その幅をなんとか広げようと試行錯誤する日々が継続中です。
 こないだも、晩酌のつまみに山芋とろろを作ったんですよ。それを、ほんの小さなひと口ぶん、娘のごはんにのせて食べさせてあげたことがあったんですが、その時の娘の、これ以上ないくらいの顔のしかめっぷり、笑っちゃ悪いんだけど、おかしかった。そのたったひと口を悶絶しながらもなんとか飲み込んだことに成長を感じつつ、「どこが嫌だった?」と聞いたら、あまりにもストレートに返ってきた「まずいところ」という理由にも笑いました。
 ただ、朝はなにかとあわただしく、とりあえず食べられるものを食べてくれればOKという方針。栄養的な面は、保育園の給食と夕食で補えばいいだろうと。するとおのずと、朝ごはんが毎日同じようなメニューになるんですよね。よく飽きないもんだと思うけど、数ヶ月ほとんどメニューが変わらなくても、娘は黙々と食べている。「たまには別のもの食べたら? 作るよ?」と言っても、「いい」と言う。食い意地のはった僕からしたら信じられない話なんですけれども、これもまた個性なのか。
 で、ここ数ヶ月の定番メニューが、2パターン。玉子焼きにケチャップをちょんとかけたもの&タコさんウインナーのおかずに、バタートースト or おかか醤油おにぎりのプレート。それと、ヨーグルト「ベビーダノン」の桃味。最近本当に、こればっかり。

こればっかり

 ちなみに写真は、妻が作ってくれたもの。朝食を僕が作る日も多いんですが、僕は妻ほど手先が器用でなく、ウインナーの足が4本になるんですよね。すると娘は、これまた飽きもせず、「きょうのあさごはん、だれがつくったかわかった。パパでしょ。タコさんのあしが4ほんだもん」と、ニヤニヤしながら言ってくるのが定番。

バタートーストのうまさ

 さて、今回はここまで子育ての話しかしていませんが、つつまし酒的にどんな趣旨かというと、せっかくだから、記念にというかですね、一度この、娘の朝の定番プレートとじっくり向き合ってみようかなと。というのも、ごくたまに娘が残した冷え玉子焼きなんかをあとから食べることはあるものの、日々作っていながら、僕はこのセットを、ちゃんと食べたことがないんですよ。焼きたてのトーストなんて、最後に食べたのは一体何年前のことか。
 そこである日の夕方、家にひとりのとき、このセットを真剣にいつもどおり作る。ただし、おつまみ仕様ということで、タコさんウインナーと玉子焼きは、4本と玉子2個を使ったいつもの倍量。トーストとおにぎりは、ひとつずつ両方。トーストに使うバターは、ふだんは無塩だけど、今日は有塩。ベビーダノンは……いらないかな。で、それをつまみに、罰当たりにも酒を飲んでみようと。そういうわけなんですね。娘の人生の節目にあたっての、酒飲みな親なりのまぁ、ひとつの儀式というか。
 ではさっそく作っていきましょう。まずは我が家の定番、「タキベーカリー」の「阿蘇牛乳のミルクブレッド」を魚焼きグリルにのせ、ちょうどよく焦げ目がついたところでひっくり返して、バターをひとかけのせてもう一面も焼く。同時にタコさんウインナーを焼いて、同時に最近娘が食べてくれるようになったもち麦入りのごはんに、かつお節と醤油少々を加えて混ぜておにぎりを作って……。割とマルチタスクな感じではありますが、もう何百回もおんなじことをしているので、体が動きを覚えています。

不器用ウインナー
「阿蘇牛乳のミルクブレッド」

 最後に玉子焼きを作り、全てをお皿に盛り付ければ完成。娘の卒園記念、親父の晩酌プレート。あくまで酒のつまみなので、お皿はあえて渋めのものを選んでみましたよ。

なんだか頭が混乱する風景だ

 では、まずはタコさんウインナーから。もぐもぐもぐ。うんうんうん。そりゃあまぁ、うまいに決まってる。油っこくて塩気と甘みの比率が絶妙で、焼き目が香ばしく、ビールがぐいぐいすすむ。このタコさん型の形状がまた、見た目が可愛らしいだけでなく、ぷりぷりとした食感の楽しさを生んでいますね。
 続いて玉子焼き。我ながら、ふわとろ加減が絶妙。作ったもんなー、この数年間。ふだんなら絶対やらないケチャップがけも、ノスタルジックさと新鮮が同居する感じでいいじゃないですか。

大人にもおすすめ

 続いてバタートーストいくか。どれどれ……う、うわー! うま! バタートーストうま! 香ばしく焼けたさくっと感と、中央部分のふわふわ感。さらに、そこにまったりとして塩気の効いたバターが染みたしっとり部分もあって、もうなんだろう、幸せを具現化したような味と香りが鼻を抜けてゆく。なんてことだ。娘はいつも、こんなにうまいものを食っていたのか。
 しかもこれがまた、ビールに合っちゃうんだ。考えてみれば、どちらも「麦族」の親戚ですもんね。みなさん、バタートースト、うまいっすよ!(と、誰でも知ってることを大声で言う、この連載でありがちなスタイル)

食べたことない人は食べてみて!

 最後はおにぎり。これもまた、酒飲みやってるとさ、自分が自分のためににぎったおにぎりを、あらためて真剣に食べるなんて機会、そうそうないんですよ。ただ当然ながら、うまいですね、これまた。おかか醤油味の懐かしさと、お米の甘み。もち麦のプチプチ感と、いかにも体に良さそうな嬉しさ。
 みなさん、おにぎりって、うまいです!

以下同文

 冒頭に先日卒園式があったと書きましたが、実は娘はまだ、ボーナス期間というんですかね、残り数日間の猶予って感じで、保育園に通わせてもらってるんです。ただ、それも今この原稿を書いている翌日の、明日まで。ついに本当の本当に、保育園とはお別れ。
 卒園式の日は、慣れないスーツを着て朝からバタバタ準備をしつつ、園に行ったら行ったで見知ったパパママ友達と談笑しつつだったので、意外と泣いてる余裕はなかったんですよね。けどな〜、明日はやばい。いつもどおりの日常のようでありながら、正真正銘最後の日。お世話になった先生たちに、「ありがとうございました」って挨拶した瞬間、号泣しちちゃいそうなんだよな〜、自分。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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