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真夏の夜のプデチゲ|パリッコの「つつまし酒」#173

鍋でラーメンを食べたかっただけなのに

 定期的にしておかないと気がすまない「でかめのダイソーパトロール」において、またまた気になるものを見つけました。それはキッチンコーナーにあった、アルミ製の両手鍋。

これです

 僕が見つけた店舗では大小ふたつのサイズがあって、100円商品ではなく、それぞれ500円と300円。これってあれですよね!? 韓国の人が、インスタントラーメンを食べるときによく使ってるやつ!
 なんでみんなして、この鍋から直接インスタントラーメンを食べているのか。詳しくはよく知らないんですが、なんだか妙にうまそうで、一度やってみたいと思ってたんだよな〜。え〜、300円に500円か〜。どうしようかな〜? ……などと、ひととおり迷うそぶりをした後(誰も見てはいない)、大のほうを即購入。スーパーで韓国のインスタントラーメン「辛ラーメン」でも買って帰って、明日のお昼はそれにしよっと!

さて、食べるぞ〜

 と、準備完了。あとはお昼になるのを待つのみ。という段階で、もうなんか、楽しみで楽しみでそわそわしちゃって、仕事が手につかかないんですよね。「も〜い〜くつ寝〜る〜と、辛ラーメン♪」状態。ただ、いつも食べているインスタントラーメンを鍋で食べるだけなのに。
 そこで、そもそもあの文化ってどういうものなんだろう? と、なんとなくネットを検索してみました。するとざっくりではありますが、どうやらこういうようなことらしい。
 まず、この鍋は韓国では「ラミョンネンビ」というらしい。一瞬、「逆から読めそう!」と思ったけど……あ、読めませんね。どうでもいいことすいません。
 アルミ製で、その表面を保護するために酸化アルミニウム被膜を作る処理のことを「アルマイト」といい、それによってこういう金色になっているらしい。
 この鍋でラーメンを食べることが主流になった理由は、まず安くて丈夫で軽いこと。それから、アルミは鉄に比べて約3倍も熱を通しやすい性質であり、それゆえ、効率的に調理ができること。それから、フタがついていて、これを取り皿がわりに使えること。つまり、洗い物が少なくてすむこと。などらしい。
 ちなみに僕がいちばん気になるのは、やっぱりあの、いかにも便利そうなふたつの取っ手。もしかしてだけど、鍋で調理してもあそこだけは熱くならず、直接手で持ってテーブルに運んだり、食べるときにおさえたりできる? と思って調べてみると、なんと「あっつあっつになるのでさわれない」んだって。え〜!?
 ともあれ、そんなお茶目さも魅力なラミョンネンビのことを調べているうち、たどり着いてしまったんですよ……「じか食い鍋ラーメン」のその先にいた、「プデチゲ」の存在に。
 いや、ぼんやりと知ってはいました。プデチゲ。なんか韓国料理の、真っ赤っかで辛そうな鍋でしょ? でも詳しくは知らなかった。
 なんでもですね、プデチゲという鍋料理の多くには「インスタントラーメン」が食材として使われるらしいんです。「プデチゲ」で画像検索すると、出るわ出るわ、“超豪華鍋ラーメン”といったおもむきの、辛そうで美味しそうなお鍋の写真たち!
 そもそもプデチゲとは、「プデ=部隊」「チゲ=鍋」の意味で、韓国の軍隊発祥の料理らしい。その始まりは、朝鮮戦争の休戦協定が成立した1950年代以降、米軍から流れてきたスパムやソーセージを、昔ながらの韓国料理「キムチチゲ」に入れたことから。肉、野菜、豆腐などの一般的な具材、スパムやソーセージ、そして現在は割と自由に、なんでも入れていいような空気感となり、その代表が、インスタントラーメン&チーズ! こりゃあなんとも、わんぱくな料理じゃないですか。

レッツ・プデチゲ・クッキング!

 さてどうする。ひとつしか買ってきていない貴重な辛ラーメンを、お昼に素のまま鍋食べするか。それともがまんしておいて、仕事が終わった夕方、プデチゲにして食べるか。
 私、自慢じゃないですが、お酒には意地汚いところがありましてね。そりゃあまぁ、キンキンのビールに合いそうなプデチゲで決まり! ですよ。
 さらにさらに、我がオリジナルプデチゲに入れたい具材あれこれを頭のなかで想像してみる。あれとこれと……あ、せっかくだからそれも入れたいよな。なんて。そうなってくると当然、けっこうなボリュームになる。だってベースに一人前のラーメンがあるわけですからね。
 となれば今日は、お昼抜きだ! 野菜ジュースでごまかしとけ! そしてなるべく急いで仕事を終わらせ、「真夏のプデチゲナイト」開催決定だ!
 ……と、目の前にぶらさげられた「プデチゲ&ビール」を原動力に仕事をがんばりまして、“ナイト”というにはだいぶ早い夕方にはもう、スーパーから帰ってきて準備が完了してしまいました。この時間じゃあまだ“プデチゲイブニング”だけど、なんだか締まらない名前だなぁ。まぁいっか。明けない朝はない。ふけない夜はない。やってりゃそのうち夜になる。
 いざ、ナイトスタートっ!

準備完了

 今回僕が用意した具材は、まずはもちろん辛ラーメン。それからキムチ。大好物の豆腐。野菜は王道めに、ねぎ、にら、エリンギ。肉はこれまた大好物の豚ばら。そしてどうしたって味わってみたい、スパム&ソーセージ! 

フタがお皿がわりに使えて便利(ちょっと安定感悪いけど)
やっぱりわんぱくな料理だなぁ〜

 では作っていきましょう。あれこれレシピを調べてみたりもしましたが、そもそも定義がざっくりしてるだけにいろいろな流儀があり、まぁ鍋物なので、好きなようにやりましょう。と、最終的にフィーリングでいくことに決定。

第一工程

 まずは鍋にごま油をしき、キムチを炒めていきます。このキムチがゆくゆくは、鍋の具材野菜の役割も果たしてくれるはずなので、たっぷり。
 香ばしい香りがしてきたら、目分量で水を投入。さすがアルミ鍋。本当にあっという間に沸きますね。
 そしたらそこへ、辛ラーメンに入っている粉末スープとかやくも投入。

灼熱!

 鍋のなかはすでに灼熱の様相を呈しており、真夏にクーラーの効いた部屋で食べるのが最高の予感。それにしたって、インスタントラーメンのスープで鍋のベースの味つけができてしまうんだから、お手軽な料理だよな〜。
 ここでお好みで、みそやコチュジャン他の調味料を足すというレシピも多く、確かにコチュジャンの甘辛い旨味は合いそうだと、大さじ1杯ほど入れてみました。すると、コクと深みがぐぐっと倍増。個人的に、かなりおすすめです。

具材も入れて

 続いて具材。本場韓国の、特に若い世代のお店では、最初からインスタントラーメンも入れてしまうスタイルが現在の主流だそうなんですが、僕はこの鍋をつまみにお酒が飲みたいので、麺はシメまでとっておきましょう。
 具材に火が通ったら最後に、旨味たっぷりの韓国唐辛子も絶対合うとは思いつつ、今日は本気の辛さで攻めたかったので、中国産の赤唐辛子を好きなだけふりかけ、はい、いったん完成〜。

こりゃあいいや。どう見たって

熱狂の夜

 ダイソーでの何気ない発見を発端に、お昼をがまんし、いつもより仕事をがんばり、暑いなか必死で自転車をこいでスーパーへいき、鼻息荒く準備して、ついにたどり着いたこのステージ。そこに用意したのが、極力冷たさを維持したいと保冷タンブラーに注いだビール。
 さぁ、第1弾はどっからいくかなぁ〜!?

王道ゾーン

 まず小皿にとったのは、豚肉、豆腐、ねぎ、にらの王道ゾーン。やっぱさ、辛ラーメン&キムチベースのスープの味をさ、慣れ親しんだ食材でさ、確認してみたいじゃん?
 いざ、長ねぎぱくり。もぐもぐもぐ……お、お〜? 豆腐をぱくり。もぐもぐもぐ……はいはいはい。 豚肉ぱくり。もぐもぐもぐ……あ〜、うん、そうか!
 あ、勝手に脳内完結しちゃってすみません。ファーストインプレッションとしては、想像していたよりもずっと、ちゃ〜んと手の込んだ味のする美味しい鍋。やたらジャンクだったり、辛すぎたりもせず、食材から出た旨味や甘みとチゲスープが融合し、なんともお酒がすすみすぎる、たまらない味わいです。というか、ストレートに言うと、超うまい!
 続いて、にらやエリンギ、すっかり鍋の具と化したキムチと食べすすめますが、本当にどれもいいな〜。特にほんのりとした酸味と発酵感は残りつつ、とろりとジューシーなキムチは、もっと入れてもよかったと後悔するほどうまいや。

“プデ”ゾーン

 そしていざ、気になる“プデ”ゾーンへ。といっても、ソーセージはまぁ、鍋の具材としては珍しくないですよね。実際、ぷりっと食べてみると、安定感のあるいつもの美味しさにチゲスープ風味が加わって、こりゃあ、今のとこビールにいちばんだ。
 続いて気になるスパム。これがですね〜、ソーセージが“まとう”印象だったのに対し、こちらは“抱え込んだ”イメージ。え? いや「なにを?」って、スープの旨味をですよ。煮込むことによってふわりと柔らかくなったスパムに、しっかりと絶品スープが染み込み、スパムに元来ある独特かつ強い肉の旨味と合体し、困ったな〜、ソーセージと甲乙つけがたいや。ビールがすすむ度。
 ごくごくごくごく……。

いよいよシメ

 なんつって、ビールとともに鍋の具材を2/3ほど堪能したところで、いよいよラストのシメタイム。正直、もうだいぶお腹いっぱいではありますが、これこそがプデチゲの醍醐味ですからね。
 で、最後までそのわんぱくさに驚かされることに、多くのプデチゲは、麺を煮込んだ上に「とろけるチーズ」をのせてしまうらしいんです。

ここにきて、こってり感プラス!

 その作法にのっとり、ぐつぐつぐつとチーズを溶かしてゆく。やがて麺と融合しだすその悪魔的な美しさといったら、そう、それはまるで、真夏の夜の夢のよう……。

なんて情熱的!

 これがまぁ、じっくりと煮詰まってついに完成した「旨味凝縮甘辛こってりとろ〜り究極プデチゲスープ」を吸い込んだ麺と、とろけるチーズの、夢の二大共演ですからね。まるで熱狂の夜に終止符を打つごときうまさ! しかもついに、夢のラーメン「鍋じか食い」を体験している!
 なんですけど、もう本当に……お腹が、いっぱいなんです……。ひとまず麺だけは残さず食べて、残りはタッパーにしまっておいて、明日、雑炊にでもして食べようかな〜。それも絶対うまいっしょ。
 いやいやしかし、は〜、大満足だった。……さて、寝よ。

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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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