ぜ〜んぶニセモノ! フェイク海鮮ちらし寿司|パリッコの「つつまし酒」#133
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ぜ〜んぶニセモノ! フェイク海鮮ちらし寿司|パリッコの「つつまし酒」#133

ドラゴンフルーツの皮がまぐろ味!?

 信じられない噂を耳にしました。
 ドラゴンフルーツって知ってます? 独特の禍々まがまがしい形をした、いかにも南国生まれという感じの、ちょっと申し訳ないけれども、探り探りじゃないと会話が成り立たなそうなタイプの、いわゆるそういった、フルーツです。
 そのドラゴンフルーツのですね、果実じゃなくて皮のほう、を、ゆでて、わさび醤油で食べると、まぐろの刺身の味がするらしいんです! 信じられなくないですか? あんな固そうな皮が。だけど最近、何度かそういう噂を耳にしまして、そんなおもしろそうな話、試してみずにはいられないじゃないですか。さっそくスーパーで買ってきましたよ。ドラゴンフルーツ。

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こいつです

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スパッと切ると、みっしり果肉

 で、今日はもう、果肉本体のほうはおまけに近いような感じなので、スプーンでほじくりだしてタッパーに入れておき、やれ急げとばかりに皮のほうの調理にかかります。
 まず、うろこのように飛び出している緑色の先端の部分をカットしていく。すると、なんだかゴツゴツとして真っ赤な、漫画『ベルセルク』に出てきた「ベヘリット」ってわかりますかね? なんだかあんな感じの、“悪魔の心臓”とでも形容したいような、謎の物体が出現します。これをまぐろのお刺身くらいの幅にカットし、熱湯で2〜3分ゆでてみる。

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グツグツグツ……

 ゆであがったらザルにとり、流水で表面のぬめりを洗い流してやる。すると確かに、ぱっと見はまぐろ刺しに見えなくもないぞ。う〜ん、不思議な食べ物だ。

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酔っぱらってたらわからないくらいには近い

 これをいざ、わさび醤油で食べてみましょう。ぱくっ……もぐもぐもぐ……ん? んんん!?
 正直ですね、僕、「言うても!」と思っちゃってたところがあったんですよ。「言うても! 果実の皮やん?」って。ところが! もちろん魚介的な旨味はありません。でも、食感は完全にまぐろのトロ! もっとシャキシャキ感が残るのかと思いきやそんなことはなく、口のなかでとろりと溶ける。全くクセがなく、わさび醤油の味しかしないので、かなり脳が錯覚してくれます。
 いや本当、人間っていろいろおもしろいこと発見するよな〜。

タピオカいくらも作っちゃえ!

 そこで思いついてしまったんですよね。こいつを使って、ぜ〜んぶニセモノの食材で作った、豪華海鮮ちらし寿司が作れないかな? って。めちゃくちゃ楽しそうじゃないです? 見た目は、そして味は、どこまで本物に近づくのか?
 よし、すぐに実行だ! と、“にせまぐろ”をもう少し小さめにカットしてわさび醤油で漬けにしておき、その間、またまたスーパーへ行って、追加食材を買ってきましょう!

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もうまぐろにしか見えない

 素材として選んだのは、フェイク食材の代表、本格カニカマ、焼きホタテそっくりのかまぼこ、それから、全体をまとめあげる潤滑剤として期待できそうな、アボカド。
 そしてそして、ここからがさらに注目。数年前、タピオカブーム花盛りだったころ、「富士そば」の変わりダネメニューとして、「いくら風タピオカ漬け丼」という信じがたいメニューが提供されていたことがありました。当時は食べなかったんだけれども、あれは使えそうだ。というわけであちこち探してみたところ、輸入食材店の「カルディ」で見つけることができました。ゆでる前のタピオカ、「タピオカパール」を。

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まだ売っててよかった!

 そこでこいつを、説明のとおりにゆでて誰もが知るぷにぷに状態にした後、だし醤油と、なるべく赤いほうがそれらしいだろうと、梅酢も加えて、しばらく漬けておいてみることにします。完全に想像で作ってるけど、一体どんなものができあがるのか。というか、2021年にタピオカでいくらのニセモノ作ろうとしてる奴なんて、きっと全国で僕ひとりだろうな……。
 約30分後、酢醤油漬けタピオカの様子を見てみると、うわ、とりあえず見た目は完全にいくら! むしろこんなにうまくいくなんて思ってなかったほど。

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どっからどう見てもいくらだ

 試しにそのまま試食してみる。うむ。プチプチ感こそないけれど、わはは、これまた想像以上にいくらだ! 見た目+醤油味に加え、梅酢の酸味もちょうどよくそれっぽくて、僕、ぜんぜんこれ、どんぶりメシにぶっかけてわしわし食べたいですよ!

見た目は完璧! さて味は……

 さて、いよいよ総仕上げの時がやってきました。準備した食材たちを、「すし太郎」を混ぜたごはんの上に盛りつけていきましょうかね。
 アボカドぽんぽん、カニカマぱらぱら、ホタテカマぽいぽい、大葉をふぁさ〜っ、そしていざ、にせまぐろをドカドカドカ、にせいくらをドサドサドサ〜! いよっ、完成! パリッコ特製「フェイク海鮮ちらし寿司」!

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見た目、いいんじゃないですか?

 いや〜、すでに達成感ありますね。作りはじめる前は、まさかこんなにそれらしくできるとは思ってなかった。あとはまぁ、美味しかったらめでたしめでたし。そうでもなかったら笑い話。とりあえず、食べてみましょうかね。
 と、なるべくいろんな食材がのったエリアを、酢飯とともにほおばってみます。するとこれが……お、お、美味しぃ〜っ! ドラゴンフルーツの皮って、ちょっとオクラのようなぬめりがあるんですが、そのせいか全体の口あたりがものすごくとろ〜りとしてます。で、そこに、いくらっぽいものや、カニっぽいものや、大葉や酢飯といったそれらしき要素がかけ合わさって、もう完全に海鮮ちらしですよこれは。っていうか、確実にどこかから「海の味」がする。カマボコ勢のがんばりかな?
 で、さらにここで、ぐいのみに注いだ日本酒を豪快に流しこむ。あぁ、もはや寿司屋だここ……。と、脳が完全に錯覚しきってしまったので、つまり僕は今、まぐろのトロやいくらを誰に遠慮することなくばくばくと食べているということになる。なんという贅沢! なんという幸せ!
 よく考えると、本物の食材を買ってきて作るよりもだいぶ面倒だけど、いやいや、確実に手をかけただけはある美味しさでした。

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ぐいのみ日本酒とともに

 そうそう。フェイク海鮮ちらし晩酌をぞんぶんに楽しんだところで、そうだ、まだドラゴンフルーツ本体のほうが残ってたんだ、と、デザートに食べてみることにしました。するとですね……なんというか……今までちゃんと食べたことがなかったんですが、ドラゴンフルーツって、ほのかにゴボウっぽい土の香りがするような、甘みの薄〜いキウイみたいな味なんですね。どこかぼんやりして、覇気がないというか。
 いろいろな果物を食べる一環としてたまに買い、「あぁ、やっぱりドラゴンフルーツって、ほっと安心するね」なんて楽しみかたは今後もしたいと思いますが、そんなに頻繁に買うほどのものでもないかもしれない。というか、お手頃なキハダマグロなんかの刺身、ドラゴンフルーツより安いことも多いしな。そう考えると今日1日、一体僕は、なにをしていたんだろうか……?
 いやいや、冷静になっちゃダメだ。こういう無駄を楽しむことこそが、僕なりの酒の道。そして、そんな無駄のなかからこそ、「ドラゴンフルーツの皮をゆでてわさび醤油で食べるとまぐろっぽい」みたいな発見が、生まれるに違いないのだから。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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