【第67回】「人権」は「国家」に勝てるのか?
「国際人権」の重要性
第二次世界大戦中、世界各国で特定の人種の大量虐殺や迫害、特定の社会的・思想的立場の人々に対する侵害や抑圧が横行した。それらの「非人間的行為」に対する根本的な反省から、「人権」は「国家」を超えた国際社会全体の課題であり、「人権」こそが世界平和の基盤と考えられるようになってきた。
1948年12月10日、パリで開催された国際連合の第3回総会において、「すべての人とすべての国が達成すべき共通の基準」として「世界人権宣言」が採択された。この宣言は、人類が史上初めて「人権」の保障を国際的に定めた画期的な内容で、「基本的人権」を尊重する30の原則を規定している。
「第1条:すべての人は生れながらにして自由であり、尊厳と権利において平等である。人は理性と良心に基づき、互いを同胞とみなして行動しなければならない」「第2条:すべての人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的見解、国家、社会的立場、財産、地位等に類するいかなる事由による差別も受けない」「第3条:すべての人は、生命、自由および身体安全の権利を有する」「第4条:いかなる人も奴隷にされない。奴隷制度および奴隷売買は、どんな形においても禁止する」「第5条:いかなる人も、拷問または残虐な取り扱い、非人道的または屈辱的な刑罰を受けない」と、理想的な原則が続く。
「世界人権宣言」を起草した国連人権委員会の委員長エレノア・ルーズベルトのよく知られた言葉がある。「人権はどこから始まるのでしょうか。それは、とても小さなところ。家や近所のように、小さすぎて世界地図に載っていないところ。そこは個人の世界です。家、近所、学校、大学、工場、農場、会社……。これらの場所でこそ、すべての大人と子どもたちに差別のない平等な正義、平等な機会、平等な尊厳が求められるのです。これらの場所で人権が意味を成さなければ、他のどんな場所でも人権は意味を成しません。家の近所で市民が人権を得られなければ、世界の市民の人権など見果てぬ夢です」
本書の著者・筒井清輝氏は1971年生まれ。京都大学文学部卒業後、スタンフォード大学大学院社会学研究科修了。ミシガン大学教授・日本研究センター所長などを経て、現在はスタンフォード大学教授。専門は政治社会学・国際人権論。数多くの専門著書・論文を発表している。
さて、「世界人権宣言」が表明した人権をすべての人間に適用する「普遍性原理」に加えて、他国で人権侵害が生じた場合にも無視してはならないという「内政干渉肯定の原理」の二つの原理を満たすのが「国際人権」である。
とはいえ、「国際人権」とは理想論にすぎないのではないか? ロシアは反体制派を暴力的に排除し、中国はウイグル族やチベット族を弾圧しているが、これらの国連で「拒否権」を持つ大国の暴挙は阻止できないではないか!
本書で最も驚かされたのは、「人権の理念と政治の現実が一進一退の攻防を繰り広げてきた」と人権の歴史を振り返り、「国家主義」の台頭する現代社会で「国際人権」に大きな「逆風」が吹いていることを認めた上で、筒井氏が「必要以上に悲観的になる必要はない」と状況を楽観視している点である。
「国際人権」は過去に何度も危機に晒されてきたが、最後には必ず蘇るというわけである。もちろん、そこまで未来を楽観視できればよいのだが……!