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【第84回】進化にとって「意識」は何を意味するのか?

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

「劣ったもの」の方が生き残る可能性

 旧約聖書『創世記』によれば、「神」は、光と闇、天と地、海と植物、太陽と月と星々、海の生き物と鳥、あらゆる生物を6日間で創造し、最後に「自身の姿に似せた」最初の人間「アダム」を創造した。これが「創造論」である。
 
現代の創造論者は、そこまであからさまな「神の創造」ではなく、「インテリジェント・デザインに基づく創造」だと主張する。生命誕生の背景には、神話的な「神」よりも「知的設計」があったと言う方が布教しやすいからかもしれない。何らかの意図で人類が創造されたとみなすのが「目的論」である。
 
ここで、キリンを考えてみよう。創造論者は「高い木の葉を食べるのに便利なように首の長いキリンを神が創造した」と主張し、目的論者は「高い木の葉を食べるためにキリンの首が長くなった」と主張する。ところが、「進化論」によれば、突然変異で生じた首の長いタイプのキリンは短いタイプのキリンよりも高い木の葉の食用に適していたため、より多くの子孫を残し、結果的に首の長い種に置き換えられていった。つまり「首の長いキリンが高い木の葉を食べるのに適していたため生き残った」とみなすのが「進化論」である。
 
「創造論」と「目的論」が間違っていることを立証するためには、生物の「脳」を観察すればよい。「脳」の起源は、およそ5億年前のホヤに出現した「神経管」にあり、魚類・両生類・爬虫類では脳の大部分を神経管の膨らんだ「脳幹」が占め、鳥類・哺乳類になると「小脳」と「大脳」が巨大化し、霊長類で大脳に新皮質が発達して初めて高度な知性が生じた。非常に簡略化して言えば、トカゲの脳に大脳辺縁系を継ぎ足したものがネズミの脳で、それに新皮質を継ぎ足したものがヒトの脳である。新たな機能が継ぎ足されてきたヒトの脳には、生物の進化の歴史が刻まれている。もし最初から「知的設計」で製作されていたら、脳はここまで「継ぎ接ぎ」にはならなかっただろう。
 
本書の著者・更科功氏は1961年生まれ。東京大学教養学部卒業後、同大学大学院理学系研究科修了。同大学大学院理学系研究科研究員、筑波大学大学院生命環境科学研究科研究員などを経て、現在は武蔵野美術大学教授。専門は分子古生物学・進化論。主要著書に『化石の分子生物学』(講談社現代新書)や『絶滅の人類史』(NHK出版新書)などがある。
 
さて、ヒトの脳が獲得した複雑なニューロンの活動は「意識」を生み出した。この「意識」のおかげで、ヒトは周囲の状況を認識して目的に最適な行動を取り、予期しない出来事にも柔軟に対応し、他者の意識を推し測ることもできる。「意識」こそが地球上の生命の最上位にヒトを押し上げているわけだ。

本書で最も驚かされたのは、その「意識」が、必ずしも自然淘汰においては有利に働かないという可能性の指摘である。なぜなら、「意識」が求める「強烈な自己保存の欲求」が「繁殖」と対立する場合があるからだ。更科氏の挙げる「極端」な一例は、コブハサミムシである。コブハサミムシの母親は冬に数十個の卵を産み、春先に卵が孵化して幼虫が現れると、自分の身体を最初のエサとして与える。幼虫は数日かけて母親の身体を徐々に食べ尽くす。

コブハサミムシに「意識」があれば逃げ出すのではないか? 「意識」が自然淘汰に不利な状況を生み出すとすると、人類の未来には何が起こるのか?


本書のハイライト

意識があることは、かならずしも適応的ではないことはすでに述べた。つまり、ネアンデルタール人の意識レベルが高ければ高いほど、ネアンデルタール人は生き延びるのが難しくなった可能性がある。意識レベルが高いほど、脳は多くのエネルギーを使わなくてはならないし、生き残るために必要な、血も涙もない行動を、躊躇ったりするかもしれないからだ。……何らかの意味で劣ったもののほうが生き残ることはありえるだろう(p. 245)。

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著者プロフィール

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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