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”夫が家事をするのは当然”はすでに9割|〈共働き・共育て〉があたりまえの社会を実現するために【前編】

こんにちは。光文社新書の永林です。3月21日発売の新刊『〈共働き・共育て〉世代の本音』がもうすぐ店頭に並びます。うれしいことに、働くミレニアル世代(1980年~1995 年生まれ)の本音が満載の本書の「まえがき」公開noteが、静かな反響を呼んでいるようです。

『子育てしない上司の「わからなさ」にどう立ち向かう?』は、〈共働き・共育て〉世代の最大ミッションのひとつであります。

どんなに〈共働き・共育て〉世代の、特に夫が早く家に帰って育児をしようとしても、そこに立ちはだかる子育てへの無理解上司(と山盛りの仕事)! 結果、帰ってこれない夫! 結局、ワンオペになる妻! そして「なんでわたしばっかり仕事も子どものお迎えも習い事も勉強も家事も全部やんなきゃなんないの!」と、オンもオフも働き続ける”リアルフルタイム労働”に爆発する妻! キレる妻と仕事の板挟みで魂が抜ける夫! ーーという悪循環が、ありとあらゆる〈共働き・共育て世代〉の家庭で起きている現実です。(特に夫の)職場の理解なくして、共働き・共育ては、ほんとに無理ゲーなんです。
「そうはいっても、仕事は何より大事だろう!そんな常識も通じんのか!」「仕事に使う時間は無制限にすべきだろう!」と考える偉い方々に、部下たちが直面している現実を、客観的なデータからもみていただきたいーー。
そんな思いをこめて、本書の解説は、人的資源管理論・ダイバーシティ経営研究の第一人者であられる東京大学名誉教授・佐藤博樹先生にご執筆いただいております。本書の発売を記念して、解説「〈共働き・共育て〉があたりまえの社会を実現するために」を、期間限定で全文公開いたします。


〈共働き・共育て〉が当たり前の社会を実現するために|佐藤博樹【前編】※1

1 はじめに

本書が議論の対象として取り上げるカップルは、単に〈共働き〉というだけでなく、夫婦それぞれがお互いのキャリア希望を尊重してキャリアの実現をサポートし合い、かつ子育てや家事などをともに担っているものである。さらにそれぞれの働き方では、フルタイム勤務のいわゆる正社員である。こうした共働き夫婦を〈デュアルキャリア・カップル〉と呼称すると、共働きが増えているものの、そうしたカップルに該当する夫婦は増えていない。

こうした現状を打開するために本書は、子どもがいる共働き夫婦を分析に取り上げ、その中でデュアルキャリア・カップルに該当するものとそうでないものを比較することで、デュアルキャリア・カップルとしてのライフ・キャリアを実現するために必要となる夫婦それぞれに求められる取り組みや、勤務先の管理職の支援の在り方を調査に基づいて検討している。

本書が取り上げている共働き夫婦は、1980年から1995年に生まれた人々で、調査時点では26歳から40歳である。こうした特定の世代のカップルを調査対象としたのは、この世代は男女ともに、この前の世代とは異なるキャリア観や結婚観、さらには子育てに関する考え方を抱いていると想定したことによる。ただし、調査対象とした世代のキャリア観などを前の世代と比較するための分析は行われていない。そこで、この点に関して本解説で触れることにしたい。

また調査対象とした世代が、企業に就職した時代は、その前の世代の時代とは異なり、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法の改正などを通じ、企業における女性の活躍の場の拡大や両立支援制度の整備、さらには男性の子育て参画の促進などの取り組みが制度面で始まった時期に該当する。例えば、アンケート調査の対象には高卒など大学以外も含まれるが、大卒を想定すると、調査対象者が大学を卒業して就職した時期は、2000年代の初めから2010年代の半ばとなる。

この時期は、2005年に一定規模以上の企業に社員に関する子育て支援の計画の作成を義務付ける次世代法が施行され、また2007年の改正均等法の施行で男女双方への差別が禁止されている。さらに、学校教育では、家庭科の男女共修(中学は1993年から、高校は1994年から)がスタートしており、調査対象の男性はこうした教育を受けた層となる。つまり、調査対象の世代は、共働きだけでなく、デュアルキャリア・カップルを支援する社会や企業における仕組みが整備され始めた時代にあったといえる。しかしすでに述べたように、デュアルキャリア・カップルが増えていない現実がある。

2 意識調査からみた調査対象の世代の特徴

〈共働き・共育て〉に関わる日本人の意識の変化に関して実証的に確認しよう。意識の変化を確認するためには、同じ調査枠組(調査対象の選定方法等)、かつ同じ調査内容で継続的に実施されている調査が必要となる。個人を対象とした様々な意識調査が日本で実施されているが、上記の条件を満たす調査は極めて少ない。こうした中で、NHK放送文化研究所が実施している「日本人の意識」調査は上記の条件に当てはまる数少ない調査である2

「日本人の意識」調査は、全国の16歳以上の国民を対象として、概ね同じ調査方法、同じ質問で継続的に実施されている。1973年から5年ごとに実施されている調査のため、本書の分析対象層の意識に関しても確認できる。ここで取り上げる意識に関する設問は、「日本人の意識」調査の中の理想とする家庭像(夫婦の関係)や結婚観(仕事と結婚の関係)、さらには夫の子育て参加の3つである。

まず人々が理想とする家庭像の推移を取り上げよう。調査では、理想の家庭像を4つ提示し、最も好ましいと考えるものを一つ選択するように求めている。1973年には「父親は仕事に力を注ぎ、母親は任された家庭をしっかりと守っている」(性役割分担)が39%で最も多かったが、この選択肢の回答はその後の調査ごとに減少し、2018年では15%まで減少している。同時に、「父親は一家の主人としての威厳をもち、母親は父親をもりたてて、心から尽くしている」(夫唱婦随)も1973年の22%から調査ごとに減少し、2018年では8%に過ぎない。

この間に若い世代を中心に増加したのは「父親はなにかと家庭のことにも気をつかい、母親も暖かい家庭づくりに専念している」(家庭内協力)と「父親も母親も、自分の仕事や趣味をもっていて、それぞれ熱心に打ち込んでいる」(夫婦自立)で、2018年には〈家庭内協力〉が48%で最も多く、これに次いで多いのは〈夫婦自立〉で27%を占めた。デュアルキャリア・カップルは〈夫婦自立〉に近いものと考えると、若い世代でも〈夫婦自立〉が最多ではないものの、2013年からの増加傾向を確認できる。

次に家庭と女性の職業の関係を取り上げると、「結婚したら、家庭を守ることに専念したほうがよい」(家庭専念)と「結婚しても子どもができるまでは、職業をもっていたほうがよい」(育児優先)の両者は、1973年以降の調査ごとに減少を続け、他方で、「結婚して子どもが生まれても、できるだけ職業をもち続けたほうがよい」(両立)が増加し、2018年では〈両立〉が男女計で60%になり、1973年の20%から40ポイントと大きな増加幅である。各調査年毎に男女年齢階層別に比較すると男女ともにいずれの年齢階層でも〈両立〉が増加している。また、男女ともに〈両立〉の増加が確認できるが、男性に比較して女性では、いずれの調査時点でも〈両立〉が10ポイントほど高い。つまり、男性に比較して女性の方が〈両立〉志向が高いことが確認できる。

さらに夫の家事参加に関する意見を見よう。「台所の手伝いや子どものおもりは、一家の主人である男子のすることではない」(すべきでない)と「夫婦は互いにたすけ合うべきものだから、夫が台所の手伝いや子どものおもりをするのは当然だ」(するのは当然)の回答をみると、1973年でも〈するのは当然〉が53%と過半を占めていた。その後、この回答は調査ごとに増加し、2018年では89%と大多数を占めている。男女別にみても年齢階層別にみても〈するのが当然〉が多数となる。

1973年から2018年までの日本人の意識の変化を確認すると、若い世代を中心に、理想の家族増では〈夫婦自立〉が、家庭と女性の職業の関係では〈両立〉が、夫の家事参加では〈するのは当然〉が増えていることが確認できた。つまり、望ましさという価値観の面では、〈共働き・共育て〉を希望するカップルが増加していると判断できる。次に〈デュアルキャリア・カップル〉に該当する共働き夫婦が実態として増加しているかを確認しよう。

3 増加している「共働き世帯」は〈デュアルキャリア・カップル〉か?


専業主婦世帯が減少することで1990年代半ば以降は共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回り、最近では共働き世帯数が専業主婦世帯数の2倍ほどに達しており、〈共働き〉が一般化していると主張されることが多い。しかし、共働き世帯を図6‐1のように妻をフルタイム勤務(週35時間以上就業)とパートタイム勤務(週35時間未満就業)に分けると、共働き世帯数の増加は、主に妻がパートタイム勤務の共働き世帯の増加によることがわかる。他方、妻がフルタイム勤務の共働き世帯は、最近でも486万世帯と、500万を下回る。

このデータは、フルタイム勤務を週の就業時間を35時間以上と定義しているため、フルタイム勤務のすべてが正社員とは限らず、フルタイム勤務でも有期契約の非正社員が含まれている可能性と、男性雇用者もすべて正社員と限らず、有期契約の非正社員が含まれている点に留意が必要である。ただし、総務省統計局「就業構造基本調査」(2022年)によると男性雇用者では正社員が多く、他方、女性雇用者とりわけ既婚女性の雇用者で非正社員が多いことから、夫婦がともにフルタイム勤務の正社員のカップルは増えていないと想定できる。

専業主婦世帯が減少しているにもかかわらず、夫婦がともにフルタイム勤務の正社員のカップルがなぜ増えていないのか。これまでとは異なり、正社員として就業した女性が、結婚を契機に退職する事例は減少している。また、出産まで就業継続していた女性正社員では第一子出産後も育休を取得して就業継続する人が増えている。国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」によると、正社員女性では第一子出産後に就業継続する者が2000年代半ば以降には5割程度となり、その後も増加傾向にある。

例えば、「第1子の妊娠がわかったとき」に就業していた女性正社員(妻)に関して、「第1子が1歳のとき」も正社員として就業していた割合をみると、第一子出生年が2015年から2019年では育休利用での就業継続者が68%、育休を利用しない就業継続者が7%で、この両者を合わせると75%となる。育休を利用した就業継続者の継続就業率のみでは、第一子出生年別では2000年から2004年が35%、2005年から2009年が46%、2010年から2014年が58%、2015年から2019年が68%と増加してきている。

以上のように結婚や出産というライフイベントがあっても正社員として就業継続できる両立支援制度が企業に整備されてきているものの、後述するように女性に関して正社員就業を阻害する要因や、正社員就業できても希望するキャリアの実現を阻害している要因がいまだに存在するのである。この点を次に取り上げよう。
後編につづく)

1
本解説は、佐藤博樹(2023)「正社員として働く女性が増えているのか? ─両立支援から活躍支援へ」『日本労働研究雑誌』(12月号)の一部を利用している。

2
この節のデータは、NHK放送文化研究所(2020)『現代日本人の意識構造(第九版)』NHK出版による。

本記事の著者

佐藤博樹(さとうひろき)
東京大学名誉教授、中央大学ビジネススクール・フェロー。一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。法政大学経営学部教授、東京大学社会科学研究所教授、中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授などを経て現職。内閣府・男女共同参画会議議員、内閣府・ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員、経産省・新ダイバーシティ企業100選運営委員会委員長、経産省・なでしこ銘柄選定基準選定基準等検討委員会委員長などを歴任。民間企業29社との共同研究である「ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト」共同代表。著書多数。

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