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ビットコインの電力消費問題――『Web3とは何か』by岡嶋裕史 第1章 ブロックチェーン⑧

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第1章 ブロックチェーン⑧――消費電力の問題

チェーンの分離

こりゃいかんということで、対応策が考えられたことがあった。手っ取り早いのはブロックサイズを大きくすることだ。弊害も多いけれど、何もしないよりはマシだということで、ビットコイン上で提案がなされた。

多くの議論を経たが結局意見はまとまらず、ビットコインはビットコインとビットコインキャッシュに分かれた。別のブロックチェーンとして分離したのである。この分離をフォークと呼ぶ。この場合は完全に分離したので、特にハードフォークという。

ここには複数のリスクがある。まず合意形成に時間がかかる。民主的な手続きの特徴だ。専横な管理者がいれば素早い変化が起こせるが、多数の合意形成をやろうとすれば時間がかかる。それは仕方がない。みんなで事を起こそうとするなら、飲まねばならないリスクだ。

もう一つのリスクはチェーンが小さくなってしまうことだ。この場合はブロックを大きくしたい勢力と、現状のままとどめたい勢力がいたのである。どちらの言い分にも正しい部分があるので、妥協点や落としどころはない。分断が進んだ世界のようだ。そのため、自分が信じるやり方を採用するためにチェーンを分離する。当たり前のことだが、このとき1つ1つのチェーンの参加者は少なくなる。小さなチェーンには危険があることは、ここまでに説明してきた。

ビットコインとビットコインキャッシュは、母体であるビットコインが大きかったので、分離後にどちらも価値を維持しているが、小さなチェーンでは分離は致命傷になることがある。

チェーンを分離しないソフトフォークというやり方もあるが、それはそれで危険である。先の例で言えば、小さなブロックと大きなブロックを1つのチェーンのなかで一時的に混在させ、やがて大きなブロックへと収束させるのだ(参加者の大勢によっては、小さなブロックに再収束するかもしれない)。ハードフォークに比べれば低い難易度で実行でき、もとの大きなチェーンも維持できるけれど、処理は複雑に、トラブルの種は多くなる。もちろん、最初からかなりの割合の参加者が移行に同意していないと円滑に実行できないし、強行すればハードフォークに至るかもしれない。

消費電力の問題

もう1つ、事例を取り上げよう。イーサリアムである。

イーサリアムは絶対的な一番手であるビットコインを追う立場にあるので、特色を出していかないと生き残れない。そのため、さまざまな改善に着手している。いまだ仮想通貨のサービスに集中しているビットコインに対して、スマートコントラクト(自動契約)を取り扱えることや、それに立脚したNFTへの対応などが良例である。

イーサリアムはPoW(Proof of Work)に目をつけた。近年になってビットコインが批判されているポイントである。トランザクションの検証に非常に時間がかかるようにして、不正なトランザクションの追加を諦めさせるしくみだ。

最初のうちは、参加者みんなでちょっとずつ検証用のコンピューティングパワーと稼働に必要な電力を持ち寄ってくれると好意的に捉えられていたが、ビットコイン相場が過熱するとその設備費と電力消費が問題になった。ビットコインを動かすためだけに、小国1つぶんの電力を使うのである。これは維持可能なしくみではない。

しかもこの計算はほんとうに時間稼ぎをするためのただのクイズで、意味のあるものではないのだ。最高級のマシンと膨大な電力を投じて得られる結果がそれではちょっと哀しい。民主制の達成に必要なコストと割り切れるならそれもいいが、ちょっとコストが大きすぎるのである。

たとえば、かつてCAPTCHA問題というのがあった。ほんとうに人間がログインしようとしているか確かめるために、ゆがみ文字が出てくる例のアレである。確かに初期の自動ログインボットによる不正にはよくきいた。しかし、対価として私たちの貴重な時間と労力を奪った。

全世界の人々を総計すればとんでもない量の作業をしたわけだから、そこから何かを生み出したいのである。そこで改良版のreCAPTCHAでは、書籍の電子化時にスキャンに失敗した文字などを使った。世界中の人が人間であることの証明と同時に、書籍の電子アーカイブに協力したのである。

PoWでもこのような副次的な効果が見込めれば、まだ大量の電力を消費することにも意味を見いだせるのだが、いまのところ冴えたやり方は登場していない。

これをこのまま社会の広汎なインフラとして転用したらひどいことになる。

イーロン・マスクは一時期テスラの車を購入するのにビットコインを使えるようにしていたが、「ビットコインの採掘や取引のための化石燃料の使用が急速に増えていることを懸念している」と表明して手を引いたのは記憶に新しいところだ。

リスクがある場所にはチャンスが転がっている。イーサリアムはいち早くこのしくみに手をつけると決めた。検証のやり方を変えて、PoS(Proof of Stake)にすると言い出したのだ。

最も猛烈に計算(Work)して、最も早くブロック追加に成功した者のブロックを受け入れ報酬を与えるのではなく、最も多くのコインを持っている者が承認者になりやすいしくみである。「最も多く出資(Stake)する者」と決めてしまうと金持ちの独占になってしまうので、保有時間をかけた上でランダムの要素も入れる。一度承認権を行使すると、保有時間はリセットされる。

それでも金持ちの寡占にはなってしまうのだが、それには理由がある。イーサリアムの世界の金持ちは、当然イーサの価値が下がって欲しくない。自分がたくさん保有しているイーサが目減りしてしまうからだ。だから金持ちほど不正をする動機に乏しい。したがって、金持ちに承認権を与えようという理屈だ。

それがいいかどうかはまだ評価が確定していない。お金に価値を見いださない者が、価値の目減りなどものともせずにそのブロックチェーンを破壊しにかかるかもしれない。

このしくみだとコインを長く保有した者が有利になるので、コインの流動性が落ちる懸念もある。流動性のない通貨は使いにくい。しかし、消費電力は劇的に抑制できる。

ビットコインへの対抗策としてすぐに採用したらよさそうなこのアイデアを、しかしイーサリアムが実装するまでには(現時点でまだ実装できていない。準備は進んでいる)、衆議院議員選挙の間隔よりも長い時間がかかった。トランザクションの処理に、構造上どうしても時間がかかってしまうのと同様、これも民主的な手続きでことを進めるための必要なコストと言える。腰の軽いしくみではないのだ。(続く)


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