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アイラブカツカレー|パリッコの「つつまし酒」#138

カツカレードリーム

 林修先生が司会を務めるTV番組「日曜日の初耳学」で、カツカレーが「1+1が絶対2にならない料理」と評された、というニュース記事を目にしました。
 僕はご存知のとおり、「いちばん好きな料理はカツカレー」を公言する者。この連載「つつまし酒」の、記念すべき第1回めのタイトルが「健康診断後のホッピー&カツカレー」だったくらいで、本気も本気です。
 じゃあ僕が番組に対して憤慨しているかというと、まったくそんなことはありません。林先生の聡明な人柄には好感を持っていますし、例の一発ギャグ(ギャグではないか)「今でしょ!」なんて、いまだに頻繁に使わせてもらってます。その回にゲスト出演されていたという、料理人や作家として活躍されているイナダシュンスケさんのことも大尊敬してます。
 そもそも、「1+1が絶対2にならない料理」という部分には、はっきり言って同感なんです。たとえば、たまに特別美味しいものを食べたいときに訪れる、僕の大好きなとんかつ屋、大泉学園の「多酒多彩地蔵」へ行って、せっかくの揚げたてロースカツにカレーをかけたいなんて思いませんから。もしくは、滅多にやらないけど、気合を入れて夕ごはんに自分でとんかつを揚げたとする。その揚げたてを「できたよ〜」なんつって食卓に持っていったとたん、妻がおもむろにその上からレトルトカレーでもかけようもんなら、キムタクばりに「ちょ、待てよ!」と言ってしまうに違いありませんから。
 それでも僕がカツカレーが大好きであるという事実はゆるぎない。だってカツカレーって、超〜美味しいんだもん!
 なんというか、カツカレーって、学食とか何気ない大衆食堂の0.7点くらいのカレーと、0.5点くらいのとんかつを合体させるとあら不思議、その幸福度が2点にも3点にもなってしまうような料理だと思うんですよね。そこにこそドリームがあるというか。

マイカリー食堂のパーフェクトカツカレー

 あぁ、そんなことを書いていたら、たまらなくカツカレーが食べたくなってきたぞ! 今日は最近僕がものすご〜く気に入っている「マイカリー食堂」でカツカレー飲みといきますか。
 マイカリー食堂とは、近年店舗を増やしている、牛めしの松屋フーズグループのカレー専門店。そもそも僕は松屋のことを「カレー屋」だと思ってるくらい松屋のカレーが好きなんですよね。さらに地元石神井しゃくじい公園のマイカリー食堂は、とんかつ専門の「松のや」が併設されている店舗。つまり、いきなりさっきの持論から外れて、カレーもとんかつもちゃんと「1」な店なんですが、もう点数理論はいいか! おれ、バカだし。
 とにかくですね、ここマイカリー食堂のカツカレーが、僕にとってあまりにもパーフェクトすぎるんですよ。

カツカレー&レモンサワー

 だって、見てくださいこのテーブル上に広がる絶景。ロースカツカレーの、「プレーン」と「欧風」から選べるソースの、プレーンのほうの4辛。しかも並盛りが550円で、ごはん少なめを選ぶこともでき、僕は決まって少なめにするんですが、それがなんと530円! 530円ですよ? どうかしてません? さらには大好きな福神漬けもとりほうだい。え? レモンサワーは500円くらいするんだろうって? ははは、いやいや、マイカリー食堂をみくびらないでいただきたい。しっかりと濃度も量もあるこのレモンサワー、1杯230円です! つまり、これだけ頼んでトータル760円ということ! これって、夢?

1+1は2になるか?

 で、ですね、マイカリー食堂のカツカレーは、カレーにとんかつが1mmも触れていないのがまた大絶賛ポイント。全体にどばっとカレーがかけてあるタイプのカツカレーもそりゃあ嫌いではない。だけどその場合、1皿のなかにリズムやストーリーが生み出しにくい。一気呵成いっきかせいにかっこむことになる。ところがこのタイプだと、楽しみかたの幅がそりゃあもう何倍にも広がるんです!
 ここからは、意地汚い僕のいつものマイカリールーティーンをご紹介していきますね。
 まずは第一手。とんかつのひと切れめを、醤油でいきます。カレーがかかっていないからこそのシンプルな味を楽しむわけですね。サクッと軽快に揚がった柔らかい豚肉。その専門店ならではの美味しさを堪能したら、すかさずレモンサワー。ここでまず、幸福のマイカリータイムが始まったことを実感します。

ひと切れめは醤油で

 続いてシンプルにカレーライス部分を食べる。これからどんどん要素が複雑になっていくので、松屋グループ信頼のカレーをきっちり楽しんでおこうというわけです。は〜、濃厚でパンチがあって、相変わらず攻めた味だな〜。レモンサワーごくり。

カレー単体でも最高にうまい

 さて第三手。ふた切れめのとんかつに「特製ソース」いきましょう。ぱくっと食べたら、カレーに触れていない白ごはんもいきましょう。つまり、カツカレーを頼んでおきながら「純粋とんかつ定食味」までもが楽しめてしまうというわけ。なんという大盤振る舞い。こんなことができるのもマイカリー食堂だからこそ! レモンサワーごくり!

まさかのとんかつ定食味まで

 そうしたらいよいよ、3切れめのかつをどぼんとカレーの海へダイブさせてやりましょう。以降はもう、おのれの欲望に従うのみ。僕の場合はもうソースに戻ったりすることはなく、カツカレーの暴力的な美味しさを全身で楽しみつつ、徐々に福神漬けで味変を加えてゆくというのがパターンですが、戻りたければいつでもソースとんかつにだって戻れますからね。なんて自由なんだ、マイカリー食堂!

世界の絶景100選に加えたい

 専門店のカレーととんかつ、つまり1+1なこのカツカレー。最後に、これがはたして2点になっているか問題についての僕の見解を申しあげたいのですが、もはや幸せすぎて、あれこれ考えるのが面倒になってしまいました。マイカリー食堂のカツカレーに関してはもう、「100点」ということでどうでしょうか?

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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